NDソフトウェア株式会社
NDSコラム

介護支援ソフト「ほのぼの」シリーズのNDソフトウェアです。介護業界・障がい福祉業界の、トレンドや情報を発信しております。

高齢者の心身を守るおむつの適切な使用と排泄ケア

2022/09/14

高齢者は老化に伴い生理的機能や免疫力が低下し様々な感染症にかかりやすくなります。介護が必要になった場合、高齢者の感染症として多くなるのが尿路感染症です。高齢化や要介護度の重度化に比例して増える尿路感染のリスクには排泄を失敗しやすい、おむつを着用しているといった高齢者が抱える排泄の問題が強く関係しています。介護者は高齢者の排泄ケアを行うにあたり、おむつを交換するだけでなく尿路感染症を防ぎ健康を維持する視点も併せ持つことが必要です。

高齢者の救急搬送で多い尿路感染症

年間で救急搬送される方の多数は高齢者が占めています。高齢者は老化の影響で転倒しやすい、急変のリスクのある慢性疾患を抱えやすいなどが大きな理由です。その中でも介護施設で暮らす高齢者が救急搬送される原因として肺炎に次いで多く見られるのが尿路感染症です。

尿路感染症とは、尿の通り道である腎臓、尿道、膀胱に菌が入ることにより発症し、場所によって排尿痛や下腹部の痛み、高熱といった症状が出ます。特に腎臓から尿菅へ繋がる腎盂に菌が入ることによって発症する腎盂腎炎は高齢者の場合、高熱により体力を消耗し生命に関わる重篤な状態に陥ることも少なくありません。

一般的に尿路感染症は女性に比較的多いとされていますが、高齢者になると尿路感染により入院するケースは男女比がほぼ同数ということが分かっています。また、夏に尿路感染により入院するケースが多く冬と春には少ない一方で、尿路感染により死亡するケースは冬に多いという傾向が見られますが、はっきりとした因果関係は明らかになっていません。

しかし尿路感染症により介護施設からの救急搬送で多く見られる実態を鑑みると、介護が必要な方が尿路感染を起こしやすいと理解することが必要であり、尿路感染は排泄に関わる環境が深く関わっていることを意識することが重要です。

排泄ケアの重要性

高齢者施設で生活する高齢者は、日常生活に何らかの支援を要する方がほとんどであり、要介護度が重度化するに伴い支援の必要性が増してくるのが排泄のケアです。排泄ケアとひと言で言っても排泄に支援が必要になる原因は高齢者一人ひとりによって様々です。認知症を有している関係で機能性尿失禁が見られる、変形性膝関節症によりトイレまでの移動が困難である、脳梗塞や脊髄損傷により尿意を感じることができない反射性尿失禁など排泄ケアが必要な原因、理由に応じてのケアを行うことが介護職員には求められます。

もちろん排泄に関して何らかの困難さを持つ高齢者一人ひとりが、トイレで排尿できるようになればそれに越したことはありません。しかし原因疾患によっては安全かつ確実にトイレで排尿するために必要な機能が障がいを受けてしまい、トイレでの排尿が著しく困難になってしまうケースも多く見受けられます。そのような高齢者においては、紙パンツ、紙おむつといった排泄用具を活用する必要性が生じます。

介護施設で生活し、排泄に何らかの困難さを抱える高齢者の介護に広く用いられるおむつは、適切に取り扱うことで高齢者の自尊心や健康を保持するために役立ちますが、取り扱いを誤ると尊厳を傷つけたり、尿路感染症を引き起こしたりといったマイナスの結果を招くことも介護職員は理解する必要があります。

※原因疾患とは・・・特定の症状、障がいの原因となる疾病のこと。本稿の場合はアルツハイマー型認知症や脳梗塞、パーキンソン病などが挙げられる。

尿路感染を防ぐための排泄ケア

おむつを使用する高齢者の排泄ケアを行うにあたり、介護職員が意識したいことのひとつが尿路感染をはじめ、おむつを使用することによる疾患を予防していくことです。

日本において近年のおむつは、ひと昔前に比べ着用感や吸水量などの品質が格段に向上していますが、その一方で物価高騰により値上げの傾向も見られます。利用者の排泄に関するニーズを適切に把握するとともに尿路感染症につながり得る状態を確実に解決していくことが利用者の安全と健康を守ると同時に、おむつ使用に伴う費用の増大を防ぐことのもつながります。尿路感染症を防ぐために意識したいポイントの一例を以下に示します。

おむつは適切な用具を選ぶ

紙おむつには、下着にように穿くパンツタイプのものやベッド上で寝た状態でも排泄物が漏れ出さず受け止めるテープ式のタイプがあります。日中はベッドから離れて生活している方には当然パンツタイプのものが使いやすく、ベッド上で過ごす時間が多い方にはテープ式が適しています。パンツタイプが適している方にテープ式を使用してしまうと、座位の際に尿道がおむつに押し当てられた状態になってしまい、おむつ内で排尿した場合菌が入り込みやすくなってしまいます。またベッド上で過ごす時間が多い方にパンツタイプを使用してしまうと、排尿時の吸収が効率的に行われず陰部周囲全体を汚染する事態にもなりおむつの使用量が増えることにつながります。

高齢者の生活スタイルに合わせて適切なおむつを使用していくことが重要です。

こまめに交換する

おむつ使用による尿路感染症のリスクを解決していくためには、何よりおむつのこまめな交換が重要です。本来排泄は身体の中の尿や便を体外に排出するものです。しかしおむつという排泄用具はそれらが外部に流出し周囲や身体を汚染しないように受け止めるための用具です。つまり長時間おむつの交換を行わないことは、体外に排出されているべき排泄物が身体に密着している状態を長く保ってしまうことにつながるといえます。そうなると当然尿路感染症のリスクは飛躍的に高まってしまいますので、排尿した場合にはすぐに交換できる環境を整えることが重要です。

しかし、おむつを頻回に交換することはコストの面から考えると費用がかさんでしまいます。また頻回のおむつ交換の時間を設けることは介護職員の交換の手間もその分かかってきます。

その両方への対策として、おむつそのものを交換するのではなく尿取りパッドを使用して必要最低限の交換で清潔を保つことや、可能な限り尿器等を使用するなどおむつ対応そのものを見直す、不快感を与えずに大容量の吸収が可能な方法を模索するなどの対策が考えられます。そのためには介護職員全員が適切におむつの着用を介助できる技術を身に付けられるよう排泄に関する研修を行っていくことや、必要に応じておむつ販売業者等のアドバイザーから話を聞くといった対応が求められます。

陰部周囲の清潔を保つ

おむつは排泄物による汚染を防ぐために使用するため、排泄物はおむつ内に留まります。この状態は尿道に密着した状態を作りやすいため尿路感染症のリスクは高くなります。それを予防するためにはこまめな交換が必要ですが、それだけでは身体に付着した排泄物が完全に除去できたとはいえません。尿路感染症を防いでいくためには、おむつの交換だけでなく陰部周囲の清潔を常に保つことが重要です。そのために必要になのが清拭や陰部洗浄です。おむつ交換の際に陰部をきれいに拭く、またはぬるま湯で洗浄することで尿路感染症につながる原因菌を排除することで高齢者の感染リスクを減らしましょう。介護施設での排泄ケアにおいて、どのタイミングで陰部洗浄を行うのかルール、マニュアルを定めて実践していくことが有効です。

おむつ利用の高齢者に配慮した排泄ケア

排泄に関して何らかの困難さを抱える高齢者は必要に応じておむつを使用することが欠かせませんが、おむつを使用するのは赤ん坊というイメージもあり、成熟した大人にとっては非常に受け容れがたい用具でもあります。また大人用のおむつは赤ん坊のそれに比べ、当然サイズも大きくなります。使用の仕方を誤ってしまうと高齢者の尊厳を傷つけるだけでなく高齢者の心身の健康も崩してしまいかねないことを介護職員は理解する必要があります。 おむつを使用せざるを得ない高齢者だからこそ、介護職員はその方への共感的姿勢を念頭に置いた排泄ケアを行うことが重要です。

パッド類を使いすぎない

介護施設で過ごす高齢者におむつを使用している際、時折尿取りパッドを何枚も当てている状態にしているのが見受けられます。「尿量が多くおむつ全体が汚れるのを防ぐため」や「交換の手間を減らすため」といった理由が主に聞かれますが、おむつを着用する高齢者にとっては決して気持ちの良いものではありません。私たちが普段着用している下着にトイレットペーパーを何重にも重ねて当てていることを想像してみましょう。陰部周囲が非常に不快になることが想像できるはずです。パッド類を使いすぎることは却って高齢者の自尊心を傷つける、快適性を奪うことにもつながると理解し、高齢者の尿量や体制、身体の状態に応じて適切なパッドの選択と適切な介助の方法を身に付けていくことが重要です。

言葉かけや介助方法の工夫

おむつを使用している高齢者は、自らの手でおむつを交換できるとは限りません。認知症を有している方やベッド上で過ごす機会が多い方は特にです。そのような方においては介護職員が排泄交換を行う必要がありますが、何度も言うようにおむつは高齢者にとって決して望んで着用しているものではありませんし、自身の排泄物は人に触ってほしくないと感じるのが人にとって当たり前の感情です。介護職員はおむつを使用する高齢者の自尊心、羞恥心といった心情に配慮した言葉かけや支援を行うことを意識する必要があります。

排泄行為が自立できずに失禁してしまうからといって排泄に関わる行為すべてを介助するのではなく、適切に説明すれば自力で交換できる、陰部を拭くことができる等高齢者が自身の排泄行為に関わる行為をひとつでも自力で行うことができるように配慮して接することが求められます。また排泄ケアの言葉かけを行う場合も本来は人に知られたくない、見られたくないものであることに配慮した言葉選びが重要です。交換の際には「失礼いたします」「ご協力ありがとうございます」など、高齢者の性差に関係なく人としての自尊心に踏み込む行為であることを十分に理解して寄り添う姿勢を持つようにしましょう。

まとめ

排泄ケアは排泄に関する困難さを抱える高齢者へ支援を行うにあたり、本人の状態に応じたおむつを使用する、交換を支援するなど適切な介護を提供していくことで、尿路感染症を防ぐと同時におむつを使用せざるを得ない高齢者の尊厳の保持にも繋がる重要なケアです。 介護職員は高齢者の心身を守るために、排泄ケアを適切に理解し提供できる知識、技術を身に付けることを意識していくとよいでしょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

参考URL

尿路感染症による入院治療の日本での実態
2010年から2015年のDPCデータベースを用いた後ろ向き研究の報告

ほのぼのNEXT

介護事業者さまの現場をサポートする「ほのぼのNEXT」は、事業所様の運用に合わせて機能を選んでご使用いただけます。
まずはお気軽にお問い合わせください。

ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

PAGE TOP