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NDSコラム

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リーダーを担える介護職を育成するためのコミュニケーション術

2022/09/20

介護業界は1人の利用者に複数の職員や職種が関わることが必須であるため、介護職同士でのチームケアや多職種との連携が非常に重要な意味を持ちます。しかし、介護業界は慢性的な人材不足であり、チームケアや多職種連携の要といえるリーダーといった立ち位置の介護職員の育成が困難な事業所も多数あるかと思います。リーダーを担える人材の育成は利用者への質の高いケアを提供するために欠かせません。今回は介護職のリーダー育成を事業所としてどのように進めればよいかについて解説します。

介護事業所におけるリーダーの役割

介護を必要とする高齢者の日常生活の支援や、希望する生活を手に入れるために必要な支援を介護事業所は日々提供しています。利用者には一人ひとり生活スタイルや生活に対する希望が異なるため、介護職は利用者ごとに意図的かつ計画的にケアを実践していくことが求められます。そしてそのケアは介護職員全員が同様のケアを継続して提供することが重要ですが、介護職員それぞれがチームとなり統一されたケアの提供を継続的に行っていくためにはチームをまとめあげる存在が必要です。

介護事業所におけるリーダーとは、ただ事業所に長く勤めている職員や経験の長い職員が担うものではなく、介護事業所でそれぞれの利用者に介護職員が提供すべきケアの全体的なコントロールを行う役割なのです。直接介護を提供した経験年数だけでなく、リーダーとしての仕事を全うできるスキルが身についているかどうかが何よりも重要です。

リーダーの存在が介護事業所に与える影響

チームケアが基本である介護事業所では、リーダーという存在がしっかり機能することで利用者にも介護職員にもいい影響が生じます。

効率的なチームケアができる

介護職員は個々がバラバラに業務にあたってしまうと、利用者へのケアに不足が生じる場合がしばしば見られます。例えば排泄の誘導の言葉かけを行ったが利用者がその時は応じなかったとして、その情報を職員間で共有できなかった場合などです。他の職員にそれを伝えたとしても確実に再度の言葉かけを行えるかどうかについては確実性がありません。

その際に、現場の現状を把握して介護職員に行動を指示できるリーダーがいると、利用者へのケアへの不足が生じる可能性が減少します。介護職員同士の情報共有を円滑にし、効率的なチームケアを行うためには情報を集約し、適切かつ的確に現場で指揮を執るリーダーが不可欠なのです。

管理側と現場側とのパイプ役になる

リーダーは介護現場での業務に長けている人ではなく、介護事業所の運営方針や利用者個々のケアの希望を把握し、その実現のために介護職員の足並みを揃える役割を全うできる人です。介護現場では、しばしば管理側と職員側との間に溝が生じます。小規模な事業所ではまだ両者の距離感は近い場合も多いですが、通常規模のデイサービスや介護施設ともなると、両者の意思の疎通を頻繁に行うには困難なこともあります。その場合、事業所の方針が介護職員にうまく浸透しないことで事業所全体のケアの質が上がらないことや、介護職員の意見が管理者にうまく伝わらず不和が生じてしまうこともあります。

そこで重要になるのがリーダーの存在です。リーダーはその立ち位置として管理側と介護職員側の中間に位置しています。事業所の運営を円滑にし、利用者への質の高いケアを提供するために双方の意見を汲み、風通しを良くするパイプ役としてリーダーは欠かせない存在なのです。

リーダー育成は人材不足の介護事業所の悩み

介護事業所の適切な運営や利用者への質の高いチームケアのために欠かせないリーダーですが、リーダーを担える人材の育成は介護事業所にとって大きな課題となっているケースが多々見受けられます。その理由に最も多く挙げられるのが介護業界全体の慢性的な人材不足です。

本来、リーダーを担える人材の育成は長い時間をかけ、計画的に必要なスキルを身に付けていくことが求められますが、人材が不足しやすい介護事業所では日々の業務に追われリーダー育成のための教育を実施できないところもあります。また事業所によってはリーダーを育成するための方針やプログラムが整備できておらず、効率的な育成ができていないところもあると思います。

介護事業所の質や利用者へのケアの質を向上させるために欠かせないリーダーを育成していくためには、人材が不足する中でもリーダーとしてのスキルを身に付けていけるよう育成方法などの環境を整備していくことが必要です。

またすでにリーダーがいる介護事業所では、しばしばリーダーに業務が集中してしまい業務負担が非常に大きくなっているところも見受けられます。介護事業所はリーダーの業務負担を適正にするためにも、サブリーダーを育成して業務を分け合える体制の構築や、次代のリーダーを担える人材を育成していける環境を整えることも考えていく必要があるでしょう。

リーダー育成のためのコーチング

介護現場でのリーダーの役割には、利用者を理解する能力や適切な介助方法を提供できる技術といった介護に求められる一定水準の知識、経験を要しますが、重要なことはその知識、技術を活かし介護現場で今、何をするべきかを把握し適切な結果へと導ける能力です。つまり介護現場でのリーダー業務には事業所により程度の差はありますが、リーダー自身がある程度自分自身で考えて行動する能力が求められます。

介護現場のリーダー育成に効果的として近年注目を集めているのが介護現場でのコーチングです。コーチングとは答えを提示する「ティーチング」とは異なり、「自分で答えを出せるように」に主軸を置いたコミュニケーション術です。管理者や経営者が答えを提示してしまうと、介護職員は自分で考える力が育たずにいわゆる指示待ち人間になってしまいます。コーチングでは、職員自身が考えて答えを出せるようにコミュニケーションを取り、自発的な行動を促すことが目的です。つまり介護現場でリーダーに求められるスキルを身に付けるためには非常に有効な手段なのです。

育成を成功させるためコミュニケーション

介護事業所の質を向上させることが期待できる介護職のリーダー育成を成功させるためには、事業所は常日頃からリーダーを育成する視点を持って接することが重要です。コーチングを含めリーダーを担うことができる人材育成には、介護事業所側と介護職員側との信頼関係が欠かせません。事業所によってはリーダーを担うことを視野に含めた教育プログラムを策定しているかもしれませんが、そういった仕組みのない事業所で効果的な取り組みは職員の自主性を育てるための日々のコミュニケーションです。

もちろん自主性を育てるコミュニケーションはリーダー育成だけでなく、介護職員全体の質を向上させることにも大変役立ちます。そこで事業所側が意識したいコミュニケーションのポイントをいくつか紹介します。

リーダーとしての役割や権限を明確に伝える

現在、介護現場を預かるリーダーの役割を担う側としての意見でよく挙がるのが「リーダーが何をするべきなのか分からない」とういう意見です。事業所側としてリーダーの役割を期待して任命したとしても、その当人が何をするべきなのかが分かっていないようでは本末転倒です。

また「リーダーという名前だけで、権限は介護職員と変わらないのでやりにくい」という意見もしばしば聞かれます。リーダーはあくまでも役割であり、権限が付与されているかどうかは各事業所によって異なります。ですが共通するのは、事業所として質の高いケアを提供するために現場を引率することがリーダーの役割です。一方的に任命することで介護職員の心身の負担になることはあってはなりません。リーダーとして担ってほしい役割をしっかりと説明したうえで本人の意思によって決定してもらうことが一番といえます。業務の遂行に権限を付与した方が円滑に進む場合はシステムを変更していくことも視野に入れる必要があるでしょう。

「傾聴」と「共感」に徹する

実は、介護職員へのコーチングや自発的な行動を促すためのコミュニケーションは、普段介護職が利用者相手に行っているコミュニケーション手法とほぼ同じです。事業所側が職員とコミュニケーションを図る際の原則は、利用者とのコミュニケーションの原則でもある「傾聴」と「共感」です。

事業所側は、介護職員一人ひとりの発する言語的、非言語的コミュニケーションを関心を持って受け容れることで職員一人ひとりの特性や個性、長所や短所を知ることができるよう努めることが重要です。その際も事業所側は、職員一人ひとりの個性や価値観を尊重し共感を持って認めることに徹しましょう。職員は「自分のことを分かってくれている」という信頼感を抱きやすくなり、双方のコミュニケーションがさらに円滑になることが期待できます。

「どうすればよいか」を考えられるよう接する

職員の自主性を育てるためのコミュニケーションでは、答えをすべて用意してあげることは効果的とはいえません。大切なことはコミュニケーションを通じて職員が自ら問題に気付き、解決方法を見出し、具体的な実行策を講じることができるよう事業所側は支援するのです。ここでも対人支援職としての個人面談技術として介護業界では馴染みの深い「バイステックの7原則」を活用することが有効です。介護職員を個人として尊重し、自由な感情や考えを表出させられるよう意図的かつ冷静に関わり、職員のあるがままを受け容れることで職員が自らの考えを吐き出すことができる場を作りましょう。

そして、職員が自ら解決に向けての策を考えられるよう、事業所側はあくまでもサポートとして必要な知識や情報を提示するだけに留めることが重要です。「ああしなさい、こうしなさい」ではなく「どうすればいいと思う?」と本人に尋ね、本人が自由に答えられる関係性を構築していくことがもっとも大切です。

職員自身の自己実現をサポートする

介護職員の自主性を育てるためのコミュニケーションは、やはり普段私たちが利用者相手に意識しているであろう「エンパワメント」の視点が重要です。

エンパワメントは「力を引き出すこと」であり、介護職の力を引き出していくには、事業所側は職員の持つ可能性を見出し、それを信じることが大切です。

自分で考えて行動した結果を自他共に認められることは、職員にとって仕事に対する満足感を大きく向上させます。事業所は、職員が目標を持ちその達成に向けて行動に移せるよう、最大限に職員を信頼するよう努めましょう。しかし信頼することと放任することは違います。常に「自分は期待されている」「信頼されている」と職員に感じてもらえるよう常日頃からのコミュニケーションは欠かせないことを十分に意識しましょう 。

まとめ

近年注目を集めるコーチングをはじめとする職員とのコミュニケーションは、リーダーといった現場を主導できる人材育成に非常に有効です。利用者へ質の高いケアを提供するのが介護職の大切な役割であるならば、職員へ質の高いコミュニケーションを通じて満足感や自己肯定感を育んでいくのは介護事業所側の大切な役割であると理解することが大切です。

当コラムは、掲載当時の情報です。

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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