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2025年問題、新型コロナ、DX。介護業界の専門家に聞く、これからの介護事業者に求められる対応とは

2021/10/13

以前より介護業界はいわゆる「2025年問題」に向けての対応が迫られています。またそのような中で発生し今もなお猛威を振るう新型コロナウイルス感染症は介護業界にとって従来の業務形態の方向性を大きく変えるきっかけとなる出来事ともなりました。それらの業務改善に活用することが期待されているものにITテクノロジー等を活用していくDX(デジタルトランスフォーメーション)があります。
これからの介護業界はどのような変化を辿っていくと見られているのか、そして介護事業所のDXはどのような対応が求められているのかを野村総合研究所で長年コンサルタントを務められ、現在は大手介護企業の社外取締役や監査役を務めておられる介護業界の専門家、山田謙次氏にお聞きしました。

山田 謙次

元野村総合研究所 コンサルタント
元野村総合研究所プリンシパル、介護系企業、医療機器系企業、ヘルスケアベンチャーの顧問、取締役を歴任

水野 隆一

NDソフトウェア株式会社 ソリューション事業部執行役員
外資コンサル、総研などを経て、2020年よりNDソフトウェアに入社。
戦略マーケティング部担当役員などを経て現在、常務執行役員営業本部長

今回の介護報酬改定では、2025年問題に向け連携や科学的介護の大きな山がやってきた

水野

山田さんは2017年の著書「社会保障クライシス」で2025年に日本の社会保障制度が大きな危機を迎えるという内容をお書きになっておられますが?

山田

2025年は戦後直後に生まれた団塊の世代の方々約800万人が、75歳以上の後期高齢者になっていく年です。このような大きな人口の塊が介護を必要とする年齢層に入っていくことで医療費50~55兆円、介護費15兆円が必要になると予想されています。この大きな財源をどのように確保していくのかを問題視して書いたものです。

政策当局もこの2025年問題というすでに分かっている危機に対してずっと手を打っており、今回のコロナの問題により大きな変化はありましたが方向性としては変わらず、2024年の介護報酬改定で総仕上げになる方向性だと思います。

水野

この度の介護報酬改定は2024年度に向けて大きな改定になると思われていましたが、中身を見るとそれほど大きな改定ではなかったという意見もありました。それでもシステム面では大きな影響がありました。それも2024年度に向けてのことでしょうか?

山田

はい、そうだと思います。2025年に向けての政策の中心は医療と介護の連携と、データを分析して科学的な介護を行っていくことで大きく膨らむ費用を限りなく効率化する一方で高齢者の方々のQOLを高めていくことが目的で、それに合わせた改定がされてきました。今回は特に連携の部分や科学的介護というものを、直前である2024年度ではなく今回の改定でかなり盛り込んできたことで、システム面では大変な部分もあったかもしれません。方向性としては次にその仕上げをしていくということで大きな山がひとつ前にきたのかなと思っています。

LIFEの活用が今後の加算条件であることが想定される。システムの仕組みに乗ることは必要な投資

水野

科学的介護という話では「LIFE」がありますが、これは医療と介護の財政を改善するため、利用者様の状態をいかに改善していくかという視点で導入された制度だと思いますが、この「LIFE」は介護事業者にはどのように映っているのでしょう?

山田

業界全体としては以前からあった流れですので、準備はされてきたと認識していますが「LIFE」はデータを集めて入力し、報告していく。またそのデータを基に介護サービスを改善するPDCAを回していくことが目的です。そうするとやはり中小の方には負担が大きいものとなります。データ収集、報告は加算によってインセンティブが与えられていますがそれ以上に業務の負担やシステム改修の必要性があるので加算と業務の負担を天秤にかけていらっしゃるかと思います。

長い目で見るとデータの収集、報告、活用は他の加算を取る時の条件になっていくことも想定されています。その点ではやや負担であってもシステムの仕組みに乗ることは必要な投資であるかと思います。

今はまだ運用がこなれていませんので負担が先行するように見えますがシステムをうまく利用することはサービスの効率化や質の向上のために必要な活動です。また今後は「LIFE」からフィードバックが出てきます。サービスや業務の平均図やうまくいっている事業所の数値などと見比べて業務を改善していく必要があり、またそれ自体にも加算や必要な支援がついてくると思われますのでぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。

水野

介護の職員さんがリモートワークやコミュニケーションツールとしてITを使うことについてはいかがでしょうか?

山田

介護職員の方は一般の消費者であり生活者でもありまして、日頃からスマホなども使っておられると思います。業務の仕組みとしては安全性や正確性が必要ですので自身のスマホを使うことはないでしょうが、職員さんが使えないかもしれないという点を考えて遠慮する必要はないと思います。

今回のコロナの影響で在宅勤務が一般化するなどコロナ前の状況からシステムは相当に進歩しました。その点では道具はかなり揃ったといえますので、いかに使いこなす仕組みを作るかという方向に進んでいくべきだと思います。

リモートワークやITコミュニケーションに役立つツールはこちら

業務効率化には連動性の高いシステムが非常に大事

水野

介護業界はICT化が遅れているといわれていましたが、コロナをきっかけに本格化するということですか?

山田

政策的に一番大きな課題は慢性的な人材不足であり、海外からの人材を迎え入れる制度を整えていますがコロナで先送りになっています。またそれだけで解決はしません。やはり現場の効率化をいかに進めていくかが大問題です。その中でITを使いこなしDXを進めていくことは切り札のひとつです。利用者への直接的なサービスを効率化するのではなくいかにバックヤードの業務を効率化していくかが中心になるかと思います。

単純に時間を短くするのではなくシステムや新しい技術のサポート、先ほどの「LIFE」のような科学的な分析によって人員配置や見守りスタッフの数などを、効率化する必要があります。ただ人手をかけるのではなく良い技術と適正な人員配置で成果が得られることが分かれば、担い手の数を減らすのではなく増やすことを少なくすることができると考えられます。このような方向性は、政策的にも進められていますので事業者もITや新しい技術を取り入れて効率化していく行動が必要です。

水野

業務の効率化という点ではどのようなあたりに注目していますか?

山田

介護の現場は効率化するべきことが多いですが、まずは記録をしっかり取っていく。またそれを活用していくために事業所内外の連携も必要です。さらにそれが介護報酬等の請求業務やデータ提出業務、あるいは監査などにできるだけひとつの入力がうまく繋がっていく連動性の高いシステムが非常に大事であり業務の効率化に寄与すると考えます。

介護の世界でもITを使って効率化するのは当たり前になっていく

水野

国の施策として印鑑レスを進める、補助金を出すなど介護のDXを促進している側面もありますか?

山田

今回のコロナの問題はひどい状況にありましたがDXを進めたという面もありました。印鑑も積極的になくしシステムで対応するということがかなり広がったと考えています。

水野

コロナのワクチンが行き渡ると介護現場のIT化はまた後退してしまうのではとの考えもありますが?

山田

ワクチン接種が行き渡ればかなり落ち着いてくるだろうとは思います。ただ、まだ変異型もありますので100%感染を防ぐことは難しいと思います。また高齢者はかかってしまうとやはり重症化のリスクがあります。とはいえ一般企業では在宅勤務の仕組みはもう戻れない状況になっていますし、介護の世界でもITを使って効率化するのは当たり前で、むしろその先がどうなるのかといういわゆるニューノーマルを積極的に構築していくことが社会的にも政策的にも、そして介護現場からも求められていくと思います。

水野

最近ですとIoT、ロボット、AIといった最新テクノロジーの話も聞かれますが、介護現場ではどのような技術が要求されているのでしょうか?

山田

介護の現場ではシステムや仕組みは早くから導入されているものがあります。例えば見守りのためのカメラやベッドでの状況を知るためのセンサーや、介護現場で働く方の身体をサポートするためのロボットなどです。ほかにもリモート会議なども以前から使われていました。ただしそれらはコストになってしまい収入が増えるわけではない面もありましたが、この度の報酬改定でそういったものも配慮されるようになりました。うまく活用していけば今後も人員配置や省力化といった経営改善に寄与する可能性があると思います。

コロナ禍において利用者、事業者ともに様々なコミュニケーション手段が求められる

水野

コロナに関してワクチン接種も進んでいますが介護への影響はどのようなものがあったのでしょうか?

山田

入居施設の場合、ご家族の訪問を控えていただくことによってコミュニケーションが大幅に減ったことはよく言われています。それにより利用者の方々の身体に悪い影響が出る、家族にも心理的に悪影響が出るということもありました。

水野

コミュニケーションはとても大切ですが、何か良い対処はあるのでしょうか?

山田

スマホを使ってリモート型のコミュニケーションを取ることが一般的になりました。ですが今まであまりそのような使い方をしてなかったので、使いこなせないという話もよくあります。事業者側も利用者の方々に呼びかけて家族と連絡を取るよう勧めていますが、より一層進めていく仕組みも必要かと思います。

また利用者だけでなく事業者側も当然使いこなしていく必要があります。特にケアマネさんの会議、主治医との連絡、その他医療と介護の連携といった場面で様々なコミュニケーション手段が求められています。リモート会議が一般化されていますが、従来からSNSを使ったり、様々な仕組みを使ったりで多職種連の連携が進められてきました。

ハードウェアだけではなく、ソフトウェアとの連動、システムとの連動を含めて使い方、サポートが重要になってくるだろうと思います。

対談を終えて

今回いただいたお話は、まず2025年の高齢者社会に向けて介護保険がさらに整備されること。特に科学的介護に向けての「LIFE」がますます重要になる。今回は入力のことで大きな山を迎えましたが、今後はデータのフィードバックとその活用という山がさらに待っているということ。

そして介護のDXの流れはコロナが収束したあとでも止まらず、国としても制度設計などで後押しをしていくだろうということで、キーワードとなるのが一気通貫の連動性の高い業務システム、コミュニケーションの支援、業務効率化に役立つIoT機器の活用ですね。

山田さんにいただいたお話を参考に我々全体で一緒になって介護業界を盛り上げていきたいですね。

当コラムは、掲載当時の情報です。

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