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科学的介護推進体制加算の現況とLIFEの今後の展望

2021/12/16

「科学的介護推進体制加算」が令和3年度介護報酬改定から新設されました。介護の質を向上させることが期待されているこの加算について、介護事業所はどのような反応を示しているのでしょうか。また今後の介護業界において大きな要となる科学的介護データベース「LIFE」の展望はどうなっていくと考えられるのか、専門家にお話を伺いました。

本島 傑 氏

日本経営グループ 介護福祉事業部 課長
主に医療施設・介護施設の会計監査業務及び運営助言コンサルティング業務に従事し、現在では介護福祉施設の経営計画策定、財務分析、財務研修、実地指導対策支援などを主な業務とする。

科学的介護の流れはより一層加速していく

『LIFE』、『科学的介護』とは?

本島

『LIFE』とは科学的介護を推進するために活用するデータベースで、2021年の介護報酬改定に伴い運用が開始されました。この聞き馴染みのない『科学的介護』とは、科学的な裏付けに基づいた介護と言い換えることができ、客観的な根拠に基づいた、再現性のある介護を行い結果的にご利用者の自立支援や重度化防止に繋げていくことを目指しています。

客観的な根拠を示すには大量のデータを収集し、データベースとして構築する必要があります。前々回の報酬改定で『CHASE』『VISIT』というデータベースが活用されており、それが今回『LIFE』という名称に統合されて運用が開始されました。

介護保険制度が開始されてから、現場レベルでは様々な経験、ノウハウが詰め込まれてきたと思いますが、やはり現場目線の主観的アプローチが大半でした。今後は『LIFE』の活用により客観的で第三者的なアプローチが加わっていくことで、より一層ご利用者の自立支援、重度化防止に繋がっていくと思います。

客観的視点が加わることでどんなメリットがありますか?

本島

主観だけだと再現性に乏しく、ご利用者やご家族に説明しにくい、納得できる部分とできない部分があると思いますが、そこに客観性が加わることで納得できるようになると考えられます。それは例えば、今の医療のように健康診断などを最初に行い、その数字を基にドクターの経験も含めてアドバイスされると患者さんも納得できる。そういったものが介護現場でも求められています。

『LIFE』の本格稼働に合わせ、今回の介護報酬改定では幅広いサービスに『科学的介護推進体制加算』など、『LIFE』関連加算が組み込まれたことで、この科学的介護の流れはより一層加速していくものと思われます。

『LIFE』の重要性を理解して取り組む事業者が多い

介護事業所の『科学的介護推進体制加算』取り組み状況とは?

本島

全国老人福祉施設協議会が実施した調査によると、『LIFE』を使用するために必要な申請は9割弱の特別養護老人ホームが行っていました。1割は様子見で、取り組み事例などを待つといった状態かと思われます。また今回の『LIFE』は介護ソフトとの連携ができることが特徴でもありました。介護ソフトによって連携できる、できないが不透明なまま取り組んでしまうのは非効率だとして見送る意思決定をされたところも多かったのではと思います。

『LIFE』に取り組んでいる介護事業者のうち、科学的介護推進体制加算は6割近くが算定していました。多くの介護事業者で今後科学的介護が一番重要な加算となると理解されていることが明らかになったのではと考えます。

『LIFE』取り組みの翌月以降から手間はあまりかからない

『LIFE』に取り組むには手間がかかるのでは?

結論「手間がかかるのは初月のみ!ほとんどの事業者で初月のみ月末月初20~30時間程度、一週間くらいの残業」との声が多かった
LIFEに完全対応したほのぼのだから、入力しやすい!!
本島

『LIFE』を活用する前提で4月から取り組まれた事業所ではやはり『介護ソフトとどう連携させるのか』などの質問が多くありました。また、LIFEシステムそのものも不安定で、LIFEシステムの問い合わせ窓口と連絡がつながりにくいこともあったようです。

初月の登録時はご利用者の数が100名を超えるような事業所はかなりの労力だったかと思いますが、5月になると算定要件的には毎月全員分入れるのではなくご新規の方や大きく状態が変わった方だけ入力すればよいので、現場の負担感はあまりないと思います。

もっとも手間がかかるのが最初の登録ですが、例えば、具体的な例でいうとLIFEでは、ご利用者の手術に関する内容でも何年何月、何日まで登録する必要があるのですが、事業者さんもそこまで明確に聞いていないことがほとんどです。そのため、LIFEが開始されたことで今後は全国統一で既往歴や手術歴を聞く基準も統一されてくると思いますので結果的にはいい方向に進むのではと思います。

状態の変化は毎日その方の状態を見ている介護職員さんはすぐにわかるので、翌月以降はあまり手間がかからないと考えられます。

次回の報酬改定で新設される加算は『LIFE』活用が前提となる

加算の有無によって経営の面に影響はありますか?

本島

試算の結果ですが、基本的には施設系サービスとそれ以外のサービスでは大きく異なると感じています。施設系サービスでは『LIFE』関連加算をすべて算定すると年間700万円ほどの増収になる計算です。施設系サービスにおいては科学的介護推進体制加算以外にもインパクトのある加算ができたのが大きいと思います。対して居宅サービスは通所サービスで見ると年間35万円ほどの増収という試算結果でした。

それでも今まで同様(初月を除き)の入力で35万円は、立派な利益です。

しかし、数字だけを見て『LIFE』に取り組むかどうかを決めるのではなく、2021年の介護報酬改定における『LIFE』関連加算をどう捉えるかが重要です。今回の2021年度改正はあくまでも科学的な裏付けを取るためのデータを大量に集める必要があるため事業者に『LIFE』関連加算に取り組んでもらうことが第一目的です。そのため、現在のLIFE加算=データを集めるのが主目的の3年間と言えます。

次の報酬改定では、アウトカム評価が求められる可能性が高い。
いずれにしても次の改定でも「LIFE」がキーとなり、経営的にも大きなメリットになる。

データが十分に集まった次の報酬改定では集めたデータを活用する第2フェーズに入ると考えれます。データ提出だけではなく、フィードバック情報を活用し、どうサービス提供に活かし、どう結果が出たのか問われることになるでしょう。次回の報酬改定でも必ず『LIFE』要件は加わっています。『LIFE』を活用していないとそもそも算定できなくなっているものもすでにありますが、LIFEへの取り組みは経営的にも大きなメリットになっていきます。

まだ国からのフィードバック表は来ていませんが、ある程度のフィードバック構成のシナリオはできています。科学的介護推進体制加算を取らずに個別機能訓練加算などを算定したとしても、ADLやIADLの項目だけで状態をもっと良くしていこうというのは難しい。やはり栄養状態や口腔状態など多角的で幅広い検討材料が必要になります。『LIFE』の活用はそうした多角的な視点で状態の改善に向けた検討ができ、サービス提供に繋がるものだと思いますので、まず科学的介護推進体制加算を算定することで活用のイメージを膨らませてほしいです。

『LIFE』の活用が差別化の根拠になっていく

フィードバックの活用、データ分析の活用経験が少ない場合どのように取り組めばよいでしょうか?

本島

公表されているフィードバック表のイメージに共通しているのは時系列を非常に重要視していることです。

介護はある意味では病気とかその方の状態と付き合いながらお亡くなりになるまでという面がありますので、ご利用者の状態の変化に着目していくことと時系列を活用していくことがより重要になります。フィードバックを活用する際に確認できる点がひとつしかないと評価するには無理があります。できるだけ早くから取り組み気付いた変化を時系列でまとめていくと結果的に活用しやすい状況になると思います。医療のように必ずチェックしなくてはいけないのはここだというのが介護でも決まっていくので、介護職員もケアしやすくなるのではないでしょうか。

『LIFE』の活用で個性を出すのが難しくなるという懸念がありますが・・・。

本島

LIFEを活用することで、個性を出しやすくなると思います。今現在『自分たちはこういう特徴があります』といっても、『なぜなら…』という根拠がない。介護現場の主観的なアンケートやお喜びの声を特徴だと話しているところが多い。そこに統一された客観的な裏付けがあれば『お喜びの声をいただいていますし、このように結果も出ています』と数字としても出せるようになります。しっかりと取り組んでいる事業所にとっては差別化の大きな根拠になるでしょう。逆に裏付けなく行ってきたところは逆風になるかもしれません。

またケアは当然その方に合ったものを提供しなくてはなりませんが、現場でもこういったご利用者にはこういうケアをしていけば良くなるという芯ができ、ケアがしやすくなりますし、自信を持ってご利用者やご家族に伝えることができ、職員の安心にも繋がります。

『LIFE』を進めるうえで効率的な事例などはありますか?

本島

今はデータ提出がメインですが、これからはもうひとつの要件であるフィードバックを活用しケアプランに活かすところにポイントが落ちていくと考えられます。そういった時にお勧めしたいのが『LIFE検討委員会』といった場を設けることです。具体的に『LIFE』をどう進めるか、年間スケジュールなどを決めると職員にとってもやりやすくなると思います。またその場合、多職種で検討することになりますので、検討委員会に持ち込む前に職種ごとで話し合うことをお勧めしています。3カ月、6か月で大きく状態が変わるご利用者はそういないと思いますので、1回の検討委員会で多くのご利用者の検討をすることはないと思います。委員会の時間を設けるためには、そもそも今行っている会議は本当に必要なものかを見直して改善していければ『LIFE』をきっかけに業務の見直しも行っていけると思います。

介護業界全体の質を向上させ、誰から見ても評価されるようにしたい

『LIFE』に取り組むことで職場環境改善にも繋がりますか?

本島

『LIFE』の活用や、活用のための検討委員会などの取り組みを行い、PDCAを回していけば必然的にレベルは上がっていきます。以前からもケアの質にこだわって自分たちなりの指標を立てている事業所は確実にレベルが底上げされていると感じました。今回『LIFE』をうまく活用して検討委員会で情報共有をする、またそれをリーダーたちが現場で部下指導に活用していくことができれば、人によって言うことが違うといったことが回避でき働きやすい職場になりますし、ご利用者やご家族、職員ともに納得感が醸成されていくので必然的にレベルが上がり定着率も上がるのではないでしょうか。そうするとさらにケアの質が上がり、本当にいい事業所になっていくでしょう。

LIFEの活用を通じて介護業界についてどう思われますか?

本島

「LIFE」を通し、介護業界全体の質が向上し、業界全体に適切な処遇改善を図る流れになってほしい。

全国の介護事業者が科学的介護に取り組むことですべての介護事業者がこのラインをクリアしていることを示せると介護報酬上の評価や多職種からの評価も確固たるものになっていくと思います。介護業界全体の質を向上させて、業界全体に適切な処遇改善を図ることができる流れになっていくといいなと思います。

対談を終えて

既存の加算=LIFEがないと加算出来ない
3年後としては
新設の加算=LIFE加算が必須で付いてくる
動きが予想されます。

今まで記録で掴んできた、利用者の変化ポイントがLIFEで目に見える形で標準化され、時系列で見た時に変化ポイントを正確にとらえ、サービス提供に活かすことで、現場の皆さまもLIFE活用の効果を実感されるかと思います。

2021年度から稼働開始したLIFEは多くの介護事業所で活用が期待されていることがわかりました。今後はLIFEに関連した加算が基本となってくるので、早い段階から活用していくことが有効といえます。

当コラムは、掲載当時の情報です。

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