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腰痛予防に!体に負担のかからない移乗・移動介助の方法を紹介

2021/08/24

介護職にとって食事、入浴、排せつといった日常生活のケアは毎日行う仕事です。要介護度が高くなるにつれ、ひとつひとつのケアに必要になってくるのが立つ、動く、座るといった移乗や移動の介助です。移乗や移動は要介護度と関連が高く、利用者の自立生活を維持するためには利用者の能力に応じた移乗、移動の技術が必要になります。しかし、一方で移乗や移動は体への負担が大きくなりがちで、誤った方法で介助してしまうとぎっくり腰やヘルニアになってしまうこともあるのです。

そこで、介護職も利用者も安心、安全な移乗・移動介助の方法を紹介いたしますのでぜひ参考にしてみてください。

移乗・移動介助は体の負担が大きい

介護職にとって、移乗や移動介助はほぼ毎日のように行っている動作です。食事や入浴、排せつといった日常生活の動作においては必ず移動する必要があるためです。介護が必要な状態になった利用者は自力での移乗や移動が困難になる場合があり、それを介護職が介助しているということですね。利用者への移乗や移動の介助が介護職にとって負担が大きくなってしまう理由には以下の理由が考えられます。

頻度が高い

三回の食事、排せつ、入浴のほかにも歯磨きやレクリエーション、外出など我々と同じく利用者も一日の中で何度も移動する機会があります。その都度移乗や移動の介助を行うため、介護職にとっては非常に頻度の高い動作になります。その結果、体への負担が大きくなりやすいのです。

重さがある

利用者にもよりますが、利用者によって体重は様々です。軽い人ばかりとも限らず、場合によっては自分より重たい人相手にでも移乗や移動介助を行う必要があります。ご自身の体重と近い重さのものを持つ機会なんてそうそうない方が多いですよね。だから正しいやり方が分からず体に負担をかける方法をとってしまいがちになります。

人を相手に行う

我々が移乗や移動の介助を行う対象は利用者。つまり人間です。重い段ボールや米袋のような荷物を持つ機会は比較的あるかもしれませんが、人を動かす機会は日常生活では、やはりそうそうありません。そのため正しいやり方が分からず体に負担の大きい方法になってしまうのです。

移乗・移動の原理を知ろう

体に負担をかけずに移乗や移動の介助を行うためにまず必要なことは、移乗動作や移動動作といった「人が動くこと」の原理を知ることです。

「人が動くこと」とは、端的にいうと「お尻が浮いていること」といえます。イスに座った状態で、スローモーションのようにゆっくりと10秒ほどかけて立ち上がってみましょう。「さあ、立つぞ」の時にお尻が浮いているのが分かるかと思います。そしてその瞬間の体はお辞儀をするような体勢になっているはずです。つまり移乗動作において、人が動くということは「上に持ち上がること」ではないのです。介護職は移乗介助の動作において、利用者を持ち上げてはいけないという理解が必要です。あくまでも我々が動く動作と同様の動き方を利用者にしてもらうことができれば、介助する職員は最小限の負担で済むのです。

 

では、移乗や移動の動作においてお尻が浮くための動作を詳しく見てみましょう。

・浅く座る

イスに深く座った状態と浅く座った状態で、先述しましたスローモーションでの立ち上がりをやってみましょう。深く座った状態での立ち上がりはやや立ち上がりにくい方が多いかと思います。これは、太ももがイスにしっかりと着いてしまっているためです。イスの手前側で座れば座るほど、立ち上がるための力は少なくて済むようになります。

・足を引く

イスに座った状態で足を床につけたまま伸ばせるだけ伸ばしてみましょう。その位置から立ち上がるのは非常に困難になってしまいます。逆に、踵がぎりぎり床に着くくらいまで足を引いてみましょう。そこからなら楽に立ち上がることができます。これは足、お尻、頭のバランスによるものです。

・頭を下げる

浅く座って、足を引いて、さあいよいよ立つぞというとき、人は必ず頭を下げます。これは頭の重みを利用してお尻を上げやすくしているためです。頭が前に下がってこないと、人は立つことができないのですね。膝よりも前に頭が下がってくると自然とお尻が上がってくることがわかると思います。

移動介助の基本動作

人は歩行する時、常に足でバランスを取りながら足全体で体重を支えています。足の筋力が低下したり、膝が思うように曲がらなくなってきたりすると、足を上げきれずに小刻みな歩行になった結果つまずきやすくなる、歩行の衝撃を足が受け止めきれずに膝折れなどを起こすなどで転倒に至ります。また、平衡感覚も低下してくるためフラフラとしたような歩き方になり、重心のバランスが崩れ横や後ろに転倒してしまうこともあります。

そのような利用者の歩行介助には職員が利用者の手を持って介助する「手引き歩行」が多く使われていますが、誤った方法で介助してしまうと利用者にとっては余計に負担がかかります。その結果職員も利用者を支えるのに余計な力が必要になってしまいます。場合によっては利用者と共に転倒してしまうケースも。

そうならないためにも手引き歩行における移動介助の基本動作と注意点をご紹介します。

①手を握るのではなく、かぶせてもらう

手を繋ぐように握って歩行しても利用者には大して効果がありません。手引き歩行における介護職の手の役割とは手すりや杖と同様です。手すりや杖は上からかぶせるように握りますよね。そうすることで足にかかる力を分散しているのです。

手引き歩行の際は職員の手は下にして、利用者に上からかぶせるように握ってもらいましょう。

②手の位置は腰のあたりで

こちらも手すりや杖と同様に、腰のあたりに手の位置を持ってくることで利用者は力を分散させやすくなります。それより上に持っていってしまうと、体重をかけようにも肘の関節が曲がってしまい、余計に歩きにくくなります。尻もちや後方へ転倒しやすくもなりますので気を付けましょう。

③利用者の歩調に合わせる

向かい合って手引き歩行介助を行う場合、利用者が右足を出すなら職員は左足を引くように、あくまでも利用者の歩き方に同調するように介助します。職員主導の歩き方になってしまうと、利用者はバランスが保てず転倒しやすくなってしまいます。

④ズボンは持たない

横並びで歩行介助を行う際、安全のためと思いズボンの腰あたりを持って介助する場合がありますが、この行為は利用者の足の動きを邪魔してしまいますし、ズボンが食い込んで擦れてしまうこともありますので行わないようにしましょう。腰に手を添えておく程度でいいでしょう。

移乗介助の基本動作

では、移乗介助を行う際の基本的な全介助でのやり方として、ベッドから車いすの例を説明します。

①車いすの準備

移乗介助に入る前に車いすを適切な位置に準備します。マヒがある利用者なら足が踏ん張りやすいように必ずマヒがない健側につけるようにします。位置は利用者の体格により変わりますが、ベッドに対して15~20度くらいの角度でいいでしょう。

②浅く座る

利用者がベッドサイドに浅く座れるようにします。自力で動けない方であれば、足を引っ張るのではなく、両手を骨盤下のお尻に添え、片方ずつ引いてくると楽に動かすことができます。

③足を引く

靴を履いてもらい、自然な足幅で踵がしっかり床に着いた状態にします。足の角度は90度からやや曲げるくらいがいいでしょう。

④利用者に密着する

移乗する体勢を作っていきます。利用者の車いすの方向と反対側の膝の外側に職員の膝を添えます。(利用者の膝が右膝なら職員は左膝)職員の反対の足はやや後ろに引きましょう。

利用者の脇の下から職員の腕を差し入れ、手は肩甲骨あたりに添えます。利用者が腕を職員の首に回してもらえれば良いですが、困難な場合は利用者の足の間に手を入れてもらうようにしましょう。密着する際の職員の頭は車いす側の利用者の頬あたりに寄せると楽になります。

⑤手前に引いてお尻を浮かせる

職員は、腕の力ではなく足の力を使ってややしゃがむように利用者を手前に引きます。利用者の頭が前に動いてお尻が浮いてくるようになります。

⑥車いすの方向へ体ごと回る

利用者のお尻が浮いたら車いすの方向へ利用者を回転させます。この際に気を付けることは、職員の上半身だけで回さないことです。安定が崩れ、腰に負担がきてしまうためです。踵を軸に、体全体で回るようにしましょう。

⑦ゆっくり座っていく

車いすにゆっくり座っていきます。利用者を座らせようとしてしまうと腕力を使ってしまいますので、職員自身がしゃがむようにすると利用者も自然と座る動作が取れます。

体に負担のかからない移乗介助のテクニック

利用者を持ち上げるのではなく、自然な移乗の動きを介助すると体への負担は大きく減りますが、それでもやはり人を動かすということはなかなか慣れないものです。そこで、介護におけるボディメカニクスを活用した移乗介助にぜひ覚えておきたいテクニックを紹介します。

足を広げる

職員は、足を肩幅程度に広げることで自分の体を支える面積、「支持基底面」を広くとることができ、体が安定します。カメラの三脚などをイメージしていただくと分かりやすいですが、畳んだ状態で立てるより、開いた状態のほうが安定しますよね。介助者の体を安定させることで力を有効に使うことができるため、移乗介助がやりやすくなります。

利用者を小さくまとめる

人間は、体の中心のおへそあたりに重心があります。腕などをそこに集めることによって一点に重さが集まり、力が分散しにくくなります。

利用者に近付き、脇から上を密着させる

移乗介助を少ない力で行うためには、利用者にしっかりと近付き密着する必要があります。これは自分の重心に近付けるほど重さを感じにくくなるという原理やてこの原理の応用です。ですが、移乗動作のために利用者にしっかりと抱き着いてしまう状態を作ると、先述した「頭を下げる」際に介助者が思うように動けなくなってしまいます。結果、持ち上げてしまうことになり体への負担は大きくなってしまいます。介助者、利用者の脇から上を密着させるようにすれば楽な動作ができるようになります。

下半身や体幹の筋肉を使う

太ももやお尻の筋肉、胸や背中一面の体幹の大きな筋肉を使うことによって、少ない負担での介助が行えます。逆に言うと、「腕の力を使わない」ことが重要です。腕の力で動かそうとしてしまうと、人の重さを動かすには力が足りずに体、特に腰に負担が大きくなってしまいます。

腕は密着した状態を離さない程度で十分です。腕力を使わないためのコツとしては「極力利用者に指をあてない」「介助者の脇を締める」ことを意識するとよいでしょう。

持ち上げずに引く

移乗動作には、あくまでも「お尻が浮いている状態」が必要です。持ち上げてしまうと、お尻を浮かせるために利用者の体重を腕で支えることになるので負担が大きくなります。自然な動作でお尻を浮かせるには「頭を下げる」でしたね。頭を下げられるように職員が屈むか、困難な場合は膝より前に頭がくるように、利用者を引くようにしましょう。

まとめ

移乗、移動の介助における基本的な動作と介助方法をご紹介しました。移乗や移動の介助は頻度が高く、介護職にとって負担の大きいものではありますが、動作の基本を理解することと、ボディメカニクスを活用することで腰痛を防げるなど、大きく負担を減らすことができます。そればかりか、利用者自身が自然な動きで無理なく動けるため、立ち上がりや歩行などの能力が向上する場合もあります。移乗、移動の介助技術を理解し実践していくと、介護職も利用者も助かるということですね。ぜひ参考にしてみてください。

当コラムは、掲載当時の情報です。

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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