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令和6年4月から義務化される介護施設の口腔衛生管理の実施ポイント

2024/04/19

高齢者の口腔の清潔を保つことは、歯の健康維持だけではなく健康的な生活を維持するためにとても重要です。
介護施設系サービスでは、令和3年度の介護報酬改定により口腔衛生管理体制加算が廃止され、運営基準において基本サービスとして義務化されました。この改正には、3年間の努力義務という経過措置が設けられており、令和6年4月から全面的に義務化される運びです。
介護施設系サービスには、高齢者の口腔衛生を保ちながらADL(日常生活動作)の維持・向上を図り、義務化される口腔衛生体制に対応することが求められます。
口腔衛生管理を適切に行うには、歯科医師や歯科衛生士、栄養士など関係職種との緊密な連携が必要です。これらの連携が不十分になると、利用者のADLを大きく低下させるばかりか、誤嚥性肺炎等の生命に危険をおよぼすリスクを招きかねません。ですので利用者の安全を守る質の高いサービスを提供するためには、口腔衛生管理を確実に行っていける体制の整備が欠かせません。
そこで今回は、令和6年度から義務化される介護施設の口腔衛生管理とその対応について解説します。

高齢者の健康維持に重要な口腔ケア

老化に伴う筋力の低下や脳機能の低下は、避けることができませんが高齢期において生活の質を下げることに直結しやすい重要な課題です。日常生活で外出する機会が減ることで全身の筋肉が次第に衰え、それにより疲れを感じやすい身体になり、さらに活動量が減っていく。こうした負のスパイラルは、要介護状態の悪化や認知機能の低下を招く可能性があります。

また、筋力の低下は口腔の健康にも影響を与えます。例えば、あごの筋力が低下して硬い食べ物を噛むことが難しくなる、運動量の減少により食欲が低下するなどの変化は、その人が摂取する食事の量、すなわち栄養の不足につながります。

筋力の衰えや活動意欲の低下は、高齢者が自身の健康を維持しようとする意欲にも悪影響を及ぼします。その結果、自身の口腔を清潔に保つ意欲が低下し、歯磨きや義歯の適切な管理などの口腔衛生に関する行動が怠りがちになります。これにより口腔内の不衛生な環境が生まれ、歯周病などの疾患に罹患しやすくなります。また、口腔内の不衛生は食事を十分に楽しむことが難しくなり、食事中に食物が正しく嚥下されない可能性が高まることから誤嚥性肺炎のリスクを高めることもあります。

認知症や運動機能の疾患等によって口腔衛生を自力で維持できない高齢者にとっても、適切な口腔ケアの不足は同様の問題を引き起こします。

介護事業所を利用する高齢者の健康的な生活の維持には、介護職員による毎日の口腔ケアが非常に重要です。口腔ケアが高齢者にもたらす効果は、食事に関することだけでなく以下のような点に期待できます。

  • 口腔内細菌の減少による歯周病等疾患の予防
  • 口臭が減少し爽快感が向上する
  • だ液の分泌が促進されることにより口腔内の自浄作用向上
  • 噛む力、飲み込む力の維持・向上
  • 舌を清潔に保ち味覚機能の維持、回復により食欲向上
  • 話しやすくなる、表情が豊かになるなどコミュニケーション能力の向上および社会性向上

日常生活に支援を必要とする介護施設の高齢者は、自らでは口腔内の衛生を保つのが難しくなるため、介護職員による日々の口腔ケアが高齢者の健康状態を維持する上で極めて重要な要素です。そのため介護施設において口腔ケアが基本サービスとして提供されるようになったのです。

令和6年度から義務化される介護施設の口腔衛生管理と栄養ケアマネジメント

令和3年度の介護報酬改定では、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院の施設系サービスを対象に「口腔衛生管理体制加算」を廃止し、基本サービスに組み込むこととなりました。また、口腔衛生管理体制加算の廃止に伴い、上位区分でLIFEに対応することを要件とした110単位/月の口腔衛生管理加算(Ⅱ)が新設されました。

これにより、施設系サービスでは口腔衛生管理業務を基本サービスとして提供することが義務化され、口腔衛生に関する計画の作成が必要とされる「口腔衛生管理体制加算」を算定していなかった施設においても、入所者の口腔衛生管理に関する計画書の作成などの取り組みが必要になりました。この改正は3年間は努力義務とされていましたが、令和6年度より全面的に義務化されます。

口腔衛生管理の基本サービス化により、施設系サービスの対応は以下の項目が運営基準として義務付けられます。

  • 歯科医師または歯科医師の指導を受けた歯科衛生士が介護職員に対する口腔衛生に係る技術的助言、指導を年2回以上行うこと
  • 助言、指導に基づき入所者の口腔衛生管理体制に係る計画の作成、見直しを行うこと(施設サービス計画の中に記載する場合は計画の作成の代替とできる)

つまり、すべての施設系サービスが基本のサービスとして、歯科医師や歯科衛生士との連携を通じて利用者の口腔衛生管理を行うことを義務化しています。

さらに口腔衛生管理に加えて、栄養マネジメントについても以下のように変更されました。

栄養マネジメント加算が廃止され基本サービスに組み込まれた

口腔衛生管理の義務化と同様に、栄養マネジメントも令和6年4月より基本サービスとして義務化されます。

栄養ケア・マネジメントを実施しない場合減算の対象となる

令和6年4月からの義務化に伴い、栄養ケア・マネジメントを実施しない場合14単位/日の減算が適用されます。

栄養マネジメント強化加算の算定にはLIFE対応が必要

令和3年度に新設された栄養マネジメント強化加算の算定には、管理栄養士の配置、低栄養状態の利用者に対して医師、管理栄養士、看護師等が共同で作成した栄養ケア計画に沿った食事の観察、入所者ごとの食事の調整、入所者ごとの栄養状態を厚生労働省に提出(LIFE対応)することが必要になります。

以上から、施設系サービスにおいては管理栄養士や歯科衛生士等の多職種との連携が一層求められます。

介護施設で口腔衛生管理を実施していくためのポイント

介護施設における口腔衛生管理の義務化に伴い、日常業務に入所者の口腔状態のスクリーニングを実施することが不可欠になります。これまで行われてきた口腔ケアは、口腔内のブラッシングや義歯の清潔化などの支援に重点が置かれていました。しかし、口腔衛生管理は、口腔全体の衛生管理に加えて摂食を支援する要素も含む包括的な管理を意味します。そのため、施設の運営者は、介護職員が従来の口腔ケアとの混同を避け適切なスクリーニングを行えるよう、以下のような体制を整備する必要があります。

研修会、勉強会で知識と技術の習得をする

入所者に対する口腔ケアとは、歯を磨く、義歯を取り外して洗浄する、うがいを介助するなど、口腔内を清潔に保つことを指します。

一方、口腔衛生管理は、口腔の衛生状態を観察し、適切に記録していくことが求められ、スクリーニングを行うにはどこを観察するか、どのように記録するかといった知識や技術が必要です。例えば、歯のぐらつきや歯肉の状態、舌苔の有無や状態、口唇や頬粘膜の乾燥状態などの確認です。

口腔衛生を適切に管理するためには、口腔の状況を正しく確認・把握する知識や技術を身に付けることが重要です。

このような知識や技術の習得は、「歯科医師または歯科医師の指示を受けた歯科衛生士」の指導を受けることが義務付けられています。そのため、共同する歯科医師に相談したり、施設内で定期的に勉強会を開催したり、自治体や歯科医師会が実施する研修を受講したりするなど、職員が理解を深める機会を提供することが重要です。

業務ルールの見直しをする

口腔衛生管理は従来の口腔ケアとは業務内容が異なるため、スクリーニングを行うタイミングをいつ、どこで、誰が、どのようにするかを明確に定めておくことが大切です。食後の口腔ケア以外にも食事中のムセが無いか、飲み込みは正常か、日中過ごす際に気になるところはないかなど、観察ポイントは随所にあります。観察すべきポイントを見落とすことがないよう、口腔ケア時に口腔内の歯肉、頬粘膜等を確認する、食事時に摂食および嚥下状態を確認する等のルール化を行います。これにより、職員の口腔衛生管理が基本サービスであるという意識定着が進むでしょう。

また、確認する人によって評価にばらつきが出ないよう、簡便な口腔スクリーニングである「OHAT」を活用することも有効です。そのほかにも利用者の食事摂取の状況を栄養士とともに観察するミールラウンドをすることで食事形態が食べにくいものになっていないか等の見直しができ誤嚥性肺炎のリスクを下げることにつなげることもできます。

計画を確認しやすい環境を整備する

口腔衛生管理の義務化に伴い、計画書には入所者それぞれの口腔衛生に関する内容を明記することが必要です。口腔衛生単体で計画書を作成しても、介護計画書に同様の内容を記載しても良いとされていますが、どちらにおいても大切なのは計画に沿った支援を実施できることです。

スクリーニングを行う場面は、食堂や洗面所など事務所から離れた場所であることがほとんどです。利用者に合ったスクリーニングを行おうとする場合、利用者ごとの計画を覚えておく必要がありますが、利用者数が多い、働き始めて日が浅いなどから利用者それぞれの計画を完全に記憶している職員のほうが少ないでしょう。スクリーニングを行う前に対象者の計画を確認してから行うのが有効ですが、何人もの利用者に対応しようとすると行き来するだけでも時間的なロスは多くなってしまいます。そのため計画の確認が必要な場合は、事務所まで戻らずに確認できる手段があれば、利用者一人ひとりの計画に沿ったスクリーニングができて移動時間を短縮できるため非常に効率的です。介護ソフトを導入している場合は、ノートパソコンやタブレットなどを利用して事務所から離れた場所でもアクセスでき、多くのファイルを持ち運びする必要もなく、入所者それぞれの計画を確認しやすい環境を整備することができます。これにより計画に沿った支援を実現し、適切な口腔衛生管理の質を高めることができるでしょう。

報連相しやすい環境を整備する

口腔衛生管理を適切に行うためには、介護職員が必要な知識や技術を習得することが不可欠です。しかし、経験年数によっては口腔状態の判断が難しかったり、利用者に観察を拒否されたりする場面もあるでしょう。こうした状況で、他の職員と連携が取れない環境では、適切な評価が難しく、重大なポイントを見落としてしまう可能性があります。さらに、誤嚥性肺炎などの兆候を見落とすことは、利用者の重篤な状態につながるリスクがあります。

離れた場所でも判断に迷うなど、対応が困難な場合には、報告、連絡、相談ができる環境を整えることが重要です。例えば、インカムなどの連絡手段を整えることで、スムーズな口腔衛生管理だけでなく、様々な業務においても助けとなるでしょう。

外部との連携の進め方

口腔衛生管理や栄養マネジメントなどの業務は単独で行うことが難しく、多様な職種との連携が不可欠です。歯科医師、歯科衛生士、看護師、管理栄養士、栄養士など、各職種の専門知識や技術を活用することで、入所者の健康管理に繋がります。

施設内での多職種連携も重要ですが、外部との連携も同様に重要です。ですが、外部との連携はそれぞれの業務の都合で日程や時間の調整が難しく、苦労が多いものです。

その中でもスムーズに多職種連携を進め、入所者の口腔衛生を適切に管理していくためのポイントを紹介します。

また、これらは口腔衛生管理だけでなく様々な職種との多職種連携においても大切なポイントになりますので参考にしてください。

連携する歯科や連携の方法について文書を残しておく

口腔衛生管理は外部の歯科医や歯科衛生士と連携を取ることが必要です。どの歯科と連携を取るかは、訪問歯科診療を行ってもらっている歯科や、施設の近くの歯科など施設の状況によって変わりますが、計画の段階でどこの歯科と連携するかは決めておく必要があります。スムーズに連携を進めるためには、歯科と十分にコミュニケーションを取り、相談する際の連絡手段や歯科が対応しやすい時間帯、技術指導や助言を行う際の場所や所要時間、内容などを取り決めて文書を取り交わしておくことが有効です。

様式に沿ったスクリーニング実施する

外部の事業所情報共有を行う場合、記録様式が異なることがしばしばあります。その際、必要な情報が欠落・不足していると、歯科医師や歯科衛生士等が適切な判断や助言、指導を行えない恐れがあります。

口腔衛生管理加算には定められた様式があるので、歯科医や歯科衛生士は、かかりつけ歯科医の有無や食事形態、口腔アセスメントなどの様式に沿って技術的助言や指導を行います。そのため、連携する歯科医療機関や他の施設との間で情報共有を円滑に行うために、様式に沿った情報を記録し、必要な情報を十分に提供することが重要です。

オンライン通話等を活用する

口腔衛生管理の義務化に伴い、歯科医師や歯科衛生士が介護職員に対して口腔衛生の技術的助言・指導を年2回以上実施する必要があります。

また、入所者の口腔に異常が見られる際には歯科との連携が必要不可欠ですが、すぐに歯科のスタッフが施設に赴き直接サポートを行えるとは限りません。

こうした場合は、ZOOMやLINEなどでオンライン通話を行い、遠隔で状態の観察や必要な助言・指導を行う環境を整えることが有効です。

映像を介したコミュニケーションは、より詳細な情報共有を可能にし、緊密な連携を実現するでしょう。

まとめ

令和6年4月から義務化される介護施設の口腔衛生管理は、入所者の口腔衛生を介護施設が適切に管理し、健康の維持と向上につなげていくことを目指します。これは介護施設の基本サービスであり、口腔衛生に関わるすべての職種との連携を強化することが求められます。日々のスクリーニング実施のための体制や、円滑な連携のための環境整備が重要であり、これにより質の高いサービスを提供できるよう努めましょう。

参考URL

令和6年4月1日から実施が義務化される「口腔衛生の管理」について

主な改正点(R3介護報酬改定関係)

介護保険最新情報vol.931

口腔・栄養(改定の方向性)

当コラムは、掲載当時の情報です。

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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