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令和6年度の介護報酬改定・介護保険法改正の動向について解説

2023/07/19

介護保険は2000年4月に施行されてから、実施状況や社会情勢を鑑み定期的に見直しが図られています。次期改正は令和6年度(2024年4月~施行)に行われることが決定しており、今後改正内容についての審議は本格化していくと見られます。
令和6年度の改正は介護保険法が施行されてから、ニーズが爆発的に増加すると見られる大きな山場の2025年を目前に控えた改正であり、介護ニーズに対応しうる財源の確保や介護業界が長年抱える人材不足への有効な手立てなど大規模な改正になるのではと注目されています。
今回は、令和6年度の介護報酬改定・介護保険法改正は今現在どのような点が審議されているのかについて解説します。

令和6年度介護保険法改正は2段階で審議される

令和6年度介護保険法が2023年5月12日に通常国会で成立しましたが、その中身についてはまだ審議が続いており、結論を先送りにされた3項目については今後、秋の臨時国会で審議されるという2段階の形です。 結論を先送りにした3項目は以下になります。

1.高所得者の介護保険料の引き上げについて

現在の介護保険制度では、65歳以上の高齢者が支払う介護保険料、すなわち第1号保険料は本人の所得額に応じて負担額が9段階に分けられています。この保険料は、介護サービスの利用見込み等を踏まえて設定されるものですが、いわゆる団塊の世代の多くが75歳以上の後期高齢者になる2025年、さらに85歳以上となる2035年頃には介護サービスの需要が爆発的に増えると見込まれており、そのための財源を確保する手立ては早急に立てることが必要としています。

また現在の介護保険制度では世帯全員が市町村民税非課税の場合、介護保険料負担の軽減を図るために公費による負担軽減策が講じられています。65歳以上の高齢者全体で約3割が対象ですが、今後高齢者の数そのものが増えてくると公費の負担も相応に上昇します。そこで現在見直しを図るべきとの声が挙がっているのが、高所得者の保険料の負担を調整し財源の安定と公費の過度な増大とのバランスを取るという案です。

介護保険の財源は近い将来足りなくなるということは以前から言われていることであり、2000年の制度施行以来保険料は上がってきました。介護ニーズが爆発的に増加するという問題に対処するためには財源の約50%を占める介護保険料を上げる必要があることは明らかです。高所得の高齢者は負担能力に応じた介護保険料の支払いを求められる方向で議論されており、どの程度保険料が上昇するかは今後の審議次第です。

2.介護サービス自己負担のうち2割の対象拡大について

介護保険料とは別に、実際に介護サービスを利用した際の自己負担金についても見直しを図る方向で検討がされています。

今現在の介護保険制度では、介護サービス利用者の自己負担金は65歳以上の場合本人の合計所得が160万円未満の場合は1割、280万円以上340万円未満か、同一世帯に2人以上の65歳以上の者がいる場合は346万円以上463万円未満の場合は2割、それ以上の場合の現役所得並みの所得がある者については3割となっています。

現行の基準を見直し、2割負担に該当する者の対象を拡大することについて、早急に結論を出すべきとしています。また、どのような結論になるかは現段階では不明ですが、利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すことについても検討していくべきとしており、どのような結論になるにせよ実際に介護保険サービスを利用する方の自己負担金は多くの人で負担増になるのではないかと見られます。

3.介護老人保健施設の多床室を全額自己負担とするかについて

特別養護老人ホームをはじめとする施設系サービスでは、多床室(個室ではない、いわゆる大部屋)の居室代は今現在全額自己負担となっていますが、介護老人保健施設、介護医療院、介護療養型施設については今もなお居室代が基本サービス費に含まれたままとなっていることを受け、これらのサービスにおいても公平に居室代を全額自己負担とするべきであるとの考えから見直しが図られる予定です。

令和6年度介護報酬改定に向けての提言まとめ

令和6年度の介護保険法改正、介護報酬改定に向けてこれから審議は本格化します。すでに方針そのものは明らかになっているものや、これから審議するものも含め財政制度分科会での提言された重要な内容を以下に見ていきましょう。

介護の改革の必要性

結論が先送りにされた介護保険料の引き上げや自己負担の見直しは、介護費用が今後確実かつ急激に増加することを踏まえて検討されているものですが、利用者の金銭的な負担を増すことですべては解決しませんし保険料等の負担を上げるのにも限度があります。また、介護業界の慢性的な人材不足を解消する有効な手立てを打ち出せない限り、費用を賄えても安定したサービスを提供できる体制が整いません。

これらの問題に対処するためには大幅な介護の改革を行うことが重要であり、以下の3つのアプローチが必要だと提言されました。

1.ICT機器の活用による人員配置の効率化

近年は見守りカメラやベッドセンサーなどICT機器を活用した遠隔での見守り、モニタリング等で業務の効率化を図るための手段が豊富になってきました。多くの事業所はこれらの見守りや健康管理すべてを介護職員の身体ひとつで行っており、人員が手薄になる夜間帯は特に負担は大きいものとなっています。

人材不足であっても利用者へ安心と安全のサービスを提供することは、それ自体が介護職の大きな業務負担となりさらなる人材不足へと拍車をかけます。ICT機器を活用することはこれらの業務の効率化を図り介護職員にかかる負担を軽減することだけでなく、計測や分析といった機械の得意分野を取り入れることで介護の質を向上させることも期待できます。

ICT機器の活用による人員配置の効率化はすでに夜勤を要するサービスでは一部人員基準の緩和が認められていますが、この度の審議でこれらの機器を活用することの業務上のメリットをどこまで見出せる内容になるかが介護事業所にとっては気になるところです。

2.協働化・大規模化による多様な人員配置

利用者へのケアには介護職だけでなく医療職、リハビリ職等多様なスキルや専門知識を持った人材の関わりが欠かせません。しかし実際は十分な連携が図れなかったりサービスに必要な人員が揃わなかったりが現状です。

これらの問題への対処として複数の介護事業所やその他の事業所との連携を緊密にするための協働組織化や、大規模化を図ることで人材配置を効果的にすることが重要であると提言されています。

先立って施行された地域の異なる事業所間で社会福祉の効果的な推進のために協働するためにひとつの法人を作るという「社会福祉連携推進法人制度」をさらに発展させた内容になることが期待されます。協働化、大規模化は効率的なケアの提供に直接関与しますので、限られた人員でも質の高いケアを提供できる体制を整備しやすくなるというメリットがあります。また大規模化は事業所の安定した収益に繋げやすく、経営の安定化にもメリットがあります。ICT機器の活用と合わせて効果的なケア、効率的な運営を可能にすることで限られた人員であっても最大限の質の高いケアを提供できる体制を整えやすくなると見られます。

すでに確定している情報として、次回改正時に新たなサービスが新設されることが発表されており、具体的な内容についてはこれから審議されることではありますが、通所介護に訪問介護を組み合わせたようなサービスであるといわれています。こうした流れも協働化・大規模化の考えに沿ってのものであるといえるでしょう。

3.給付の効率化

介護報酬改定のたびに見直しが図られている給付単位の見直しや給付範囲、利用者負担の見直しなどは、介護保険制度の財政を持続可能なものにするために必要であるとの提言がされています。

先述の介護保険料や自己負担割合の見直しと合わせ、介護報酬がどのような形になるかは介護事業所にとって大いに気になるところでしょう。この度の提言では直近のコロナ禍において介護事業の収益は上がっているとの報告がありました。理由としてはひとつに介護事業の需要が増加しているため一定の収益を確保しやすいこと、もうひとつに介護事業を運営する社会福祉法人が平均して費用6ヶ月分前後の預金や積立を保有していることが挙げられました。

しかし実際2022年度は介護事業所の倒産は過去最多を記録しており、介護業界全体が安定した収益を上げ預金や積立を確保できているわけではないようです。特に収益は上がっているにも関わらずコロナの影響や人件費の増大にかかる費用がそれを上回る形で増しているのが経営悪化に直結しているようで、これらの実態を正しく把握したうえでの給付の効率化を図らないとますます苦しくなってしまう事業所も出てくるのではないかと危惧されます。

その他の提言まとめ

では、この度の財政制度分科会で他にどのような提言がされたのかを以下に見ていきましょう。

介護老人保健施設の在り方の見直し

老人保健施設は今、経営的にも苦しいところが多いとされています。

本来老人保健施設の役割とは在宅復帰を目指す利用者に必要な医療・リハビリ・介護を提供し、最短で在宅復帰ができるよう支援する事業所です。

施設の人員基準や報酬体系もそれに合わせた形で設定されていますが、実際は特養への入所待ちでの長期間の利用が多く見られ、リハビリ目的の短期間の利用者は確保が難しくなっているようです。この度の分科会ではこれらの事実を踏まえて老健そのものの特養への移行や特養に近い人員配置基準、報酬体系を検討する必要があるとの見方がされています。

老人保健施設は病院以外で医療、リハビリを必要とする利用者にとって本人の望む生活を可能にするための医療的なケアを受けることができる重要な施設です。報酬体系が整備され安定した経営が可能になることは老人保健施設側だけでなく地域で暮らす高齢者にとっても非常にメリットの大きい話です。どのような形で見直されるかに期待です。

人材紹介会社の規制強化

介護業界の人材不足を解消するためのひとつの手立てとして民間の人材紹介会社の存在があります。介護職員が欲しい事業所に人材を紹介し、平均して年収の30%程度を手数料として支払う形が一般的です。これらの人材紹介会社を経由して採用することにより人材不足が解消するならば、高い費用を支払うこともひとつの決断となるでしょうが、実際のところは人材紹介会社を介した採用は離職率が高いとされる調査結果があることも指摘されました。すべてではないでしょうが、一部の人材紹介会社では紹介した職員が採用されることで就職お祝い金と称したマージンを支払うところもあり、それを受け取れる期間従事したら辞めてしまうということもあるようで、結論としては安定的な職員の確保には繋がっていないということです。

これを受け、介護事業者向けの人材紹介会社に関しては就職お祝い金の禁止や規制の徹底手数料水準の設定など一般の人材紹介会社よりも厳しい対応が必要との見方がされています。また民間の人材紹介会社の規制を強化するだけでなく、ハローワークや自治体を介した公的な人材紹介の強化も検討すべきとしています。

サービス付き高齢者向け住宅におけるケアマネジメント等の適正化

サービス付き高齢者向け住宅、いわゆるサ高住は介護サービスを受けやすい体勢が整った高齢者が暮らしやすい集合住宅で、生活相談や見守りサービスを受けることができるという事業形態です。実態としてはサ高住を運営する法人が同時に訪問介護や通所介護、居宅介護支援を提供するケースが多く、それがケアプランの画一化や過剰サービスの提供に繋がっているとの指摘がありました。また同一法人がサ高住内で提供するケアマネジメントについては所要時間が他と比較して約30%少ないことも指摘し、これを受け分科会ではサ高住でケアマネジメントを提供する事業者には同一建物減算を適用すべきであるとの提言がされました。また利用者がサ高住内に集中している場合は訪問介護においてもさらなる減算を行い、適正化を図ることが重要との考えを示しており、サ高住を利用する方へのサービスは、同じ法人が提供する場合には報酬が減る方向で議論が進むと考えてよいでしょう。

特に利益を上げることを目的とした過剰サービスは利用者の希望を考慮せず不必要なサービスを多く入れることで利用者の自立支援の妨げとなるおそれとなるばかりか、本当にサ高住が必要な方への費用負担の増大にも繋がります。報酬体系が提示されてから運営を見直すのではなく、現段階からサービス提供体制の最適化を検討することが肝要でしょう。

介護におけるアウトカム指標の強化

介護事業の報酬、介護サービス費は通常利用者の要介護度が高いほど高い単位が設定されています。しかしその一方で本来の介護保険法の目的である要介護者の自立を目指す考えのもと提供されている介護サービスについては評価が不十分であり、例えば要介護度3の利用者を要介護度1になるほどまでケアの成果を上げた場合においての報酬はそれに見合うものとなっていません。そうなると、介護事業所としては利用者の状態改善を目指すより高い要介護度を維持できたほうが安定した経営に繋がりやすいという結論になってしまうのです。これでは介護保険法の目的や理念を遵守したケアの提供は困難になってしまうと言わざるを得ません。

そこで分科会では介護保険法の目的・理念に順じて自立支援や重度化防止に係る取組の成果(アウトカム)の指標を重視した評価の枠組みを作ることが重要であるとの見方です。 そのために活用が期待されているのがすでに多くの事業所で算定されているであろうLIFE加算の活用です。LIFEは現在のフェーズでは加算を算定する事業所から多くの利用者データを収集することが目的となっており、加算を算定する事業所ではその成果を体感できていないところも多いと思われますが、令和6年度の改定では本格的なLIFEの活用が始まると見られ、それに合わせた関連加算が多く新設される、現行の加算にLIFEを活用した場合の上位加算が設定されると見られます。また現在はLIFEの対象事業所となっていない居宅介護支援事業所もLIFEの対象となる見込みであり、多職種協働の要であるケアマネージャーがLIFEに関わることになれば自立支援や重度化防止に資する関係職種の連携はさらに強固になることが期待でき、介護保険制度もそれが狙いであると考えられます。

以上から現在LIFE加算を算定している事業所は、LIFEをただ利用者情報を報告するだけの加算として活用するのではなく、利用者の自立支援や重度化防止に資する取り組みとして活用していくことが令和6年度の介護報酬改定では最も評価される形として審議されていくことが考えられます。

まとめ

令和6年度の介護保険法改正、介護報酬改定に向けての財政制度分科会で提言された内容について紹介しました。

これからピークを迎える超高齢化社会と、それに伴う介護ニーズの需要増加に対してケアの安定した供給を持続していくためには、財政の安定化と介護事業所の報酬体系の見直し、介護サービスの効率化が主な争点となっていくでしょう。

ICT機器を活用した環境改善を図ることで人材不足の中でも質の高いケアを可能にすることと、LIFEを活用した利用者の自立支援および重度化防止が正当な評価として報酬体系に反映されることは介護事業所の未来を大きく変えるきっかけになると期待しています。

今介護事業所を運営している法人は、これからの介護ニーズを支える地域資源として活躍してもらわねばなりません。そして提供されるべきケアは介護保険法の理念の本質に沿った上でテクノロジーを最大限に活用した効率的な運営を目指してほしいと思います。

令和6年度の改正は新たなサービスの新設もありかなり大規模な改正となることが予想されます。介護事業者は審議の動向をしっかり把握し、法改正にすぐさま対応できるよう事業所の環境を整えておく心構えをしておく必要があるでしょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

参考URL

財務省 財政各論③:こども・高齢化等

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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