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【転倒予防】転倒事故を防ぐための対策や運動、介助方法について解説
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2024/04/17
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介護現場では施設内での高齢者の転倒事故が多く発生するため転倒予防対策が欠かせません。高齢者は、加齢に伴う身体機能の低下や疾患の影響で、歩行時の安定性が損なわれ、小さな段差でも転倒しやすくなります。転倒は、骨密度の低下が進んでいる高齢者にとって、下肢の骨折など重大な怪我に直結しやすく、過去には転倒事故をきっかけに訴訟に発展し問題となるケースもあります。
また、高齢者の転倒事故は、その後のADL(日常生活動作)の低下にも繋がります。ADLが低下することで、高齢者が望む自立した生活やその人らしい生活を送ることが一層困難になります。そのため、介護職は高齢者の転倒を予防するために、体操や適切な環境整備、安全な介助技術の提供など、様々な対策を講じることが重要です。本記事では、介護事業所で実践したい転倒予防のための対策に焦点を当てて解説します。
高齢になると転倒しやすくなる理由
人は20~30歳をピークに、加齢により徐々に身体機能や運動機能、感覚機能などの機能低下がみられます。機能低下の程度には個人差がありますが、機能低下の影響で歩行状態にも次のような変化が見られるようになります。
前傾姿勢になる
膝関節などの関節の硬化により、直立が難しくなり、バランスを取るために前傾姿勢に。この姿勢は足を高く上げにくくし、つまずきやすくなります。また、身体を捻る動作が難しくなることで、方向転換時にバランスを崩しやすくなります。
すり足歩行になる
筋力の低下と関節の硬さから、足を高く上げることが困難になり、すり足で歩くように。これは特に滑りやすい床での転倒リスクを高めます。
歩幅が狭まる
平衡感覚と筋力の低下で、歩行時に足を大きく踏み出すことが難しくなり、歩幅が狭まります。足が揃った状態では重心が後ろに傾きやすく、後方へ転倒しやすくなります。
これらの歩行状態の変化に加え、視力の低下や心肺機能の衰えが、転倒につながりやすくなります。
高齢者の転倒が及ぼすリスク
高齢者は全身の機能低下により、転倒しても身を守るための反応が遅れがちです。その結果、頭部を強く打つような体勢になりやすく、脳挫傷や硬膜下血腫といった深刻な傷害に至ることがあります。転倒時に即座に異常が見られなくとも、数日後に状態が急変し、最悪の場合死亡に至るケースもあります。そのため、高齢者が転倒した場合、ぶつけたところはないか、特に頭部を打っていないかなどを確認し、しばらく注意深い観察が必要です。
高齢者は骨密度の低下から軽い転倒でも骨折するリスクが非常に高く、特に尻もちをついた際に起こりやすい大腿骨の頸部骨折や、転倒時に手をついたことによる肩周りの骨折、脊椎の圧迫骨折などが転倒時の骨折に多く見られます。高齢者が骨折すると、回復には長い時間がかかり、それがさらなる身体機能の低下を招きます。例えば、自力で歩行できていた人が骨折を機に歩行能力が低下し、車椅子を必要とするようになることで、要介護状態が悪化する原因となります。
高齢者が転倒することで運動量が低下し、これがADLのさらなる低下に繋がることも重大なリスクの一つです。運動機能だけでなく、精神的な要因によって「動かない方が安全」と考える高齢者が増え、「生活不活発病」に陥りやすくなります。これは筋力のみならず、内臓機能や精神機能の低下をもたらし、健康寿命を短縮させる要因となります。
転倒を防止するためのポイント
高齢者の健康を維持し、充実した日常生活を送るためには、適切な運動量の維持と転倒予防が重要です。介護職は高齢者が転倒しやすい状況を理解し、転倒しにくい環境の整備と身体のサポートを行うことが求められます。転倒予防のために効果的な対策は、以下のようなものがあります。
転倒予防体操
運動不足が転倒の一因となるため、転倒を予防するには日中の活動量を増やすことが大切です。転倒予防体操は、身体を動かし運動不足を解消するとともに、転倒につながりやすい部位を強化し、バランス感覚を向上させるのに役立ちます。食事前やレクリエーション時間に定期的に実施することで、高齢者の身体機能の維持・向上に貢献します。
実施の際は高齢者の身体機能に合わせて無理のない範囲で行いましょう。
体操例①椅子に座ってできる体操
椅子に座ったままできる体操で、立ち上がりや歩行に必要な下肢の筋力の向上を目指します。
- ① 椅子に深く腰掛け、足の裏を床にしっかりつけます。
- ② 足を少し前に出し、踵が床から離れないようにつま先をゆっくりと上げてしばらくキープ。その後ゆっくり下ろします。
- ③ 足を戻し、次はつま先が床から離れないように踵を上げて下ろします。
- ④ 足を曲げたまま片足ずつゆっくり上げて、下ろしていきます。上体が曲がらないようにしましょう。椅子に座っていても片足を上げた姿勢はバランスを崩しやすいため、グラグラしてしまう方は手すりや座面を掴むようにしましょう。
- ⑤ 片足ずつ伸ばしながらゆっくりとなるべく高く上げていきます。
体操例②立って行う体操
立位での体操は、より高い負荷をかけることができ、平衡感覚を養うのに適しています。椅子を使って、つま先立ちや片足立ちを行い、バランス能力を高めます。安全のため、介助者は近くで支えることが重要です。
- ① 椅子の後ろから背もたれに手をつかみます。足は自然な幅に開きます。
- ② ゆっくりとつま先立ちをして数秒キープし、ゆっくり下ろします。
- ③ 片足を上げて、伸ばしながら後ろに引いていきます。上体は真っ直ぐ立ったままできる範囲で伸ばしていきましょう。勢いをつけずにゆっくりと実施しましょう。数秒キープして戻したら反対の足も伸ばします。
- ④ 片足ずつ真横に伸ばしていきます。膝が曲がらないようにつま先はまっすぐ正面を向くようにしましょう。
- ⑤ その場で足踏みをしていきます。高齢者のできる範囲で太ももを高く上げると効果的です。
転倒を防ぐ介助方法
前述のとおり、転倒は高齢者にとって深刻な影響を及ぼす可能性があるため、歩行介助においても注意が必要です。歩行介助で特に注意したい点をまとめました。
ズボンを持たない
人間は重心が床に近付くほど状態が安定し、バランスを崩しにくくなります。人間の重心はおへその下あたりです。歩行介助時に転倒しないようにとズボンのゴムあたりを持ってしまうと重心が上に持ち上がりバランスを崩しやすくなるだけでなく足に力が入りにくくなり余計に転倒リスクが増します。また鼠径部にズボンが食い込むことで衣擦れを起こすおそれがあることや、介護職の腕や腰にも負担がかかる体勢になりやすいのでズボンは持たずに骨盤あたりに手を添えるように介助しましょう。
手引き歩行は肩より下の位置
利用者の手を引いて歩行介助する場合、手の位置が肩の高さと平行になってしまうと足の負担が軽減できず介助の意味を為さなくなります。
手を引く際は、利用者が少しだけ前傾姿勢で手を伸ばした位置で引くことが重要です。これにより利用者の支えとなり、足の負担を軽減させることができます。また介護職員の手のひらが上を向いた状態では、利用者が前方にバランスを崩した際に力を入れにくく支えきれないことがあります。介護職の手は親指が上に向くように真っ直ぐの状態で、親指から人差し指にかけての部分を利用者に握ってもらうと利用者も支えやすく、職員の負担も軽くできます。
片麻痺の方の歩行を介助する際は、介護職は利用者の患側の半歩ほど後ろに立ちます。利用者の肘を90度ほど身体の内側に曲げて肘の外側に手を添え、もう片方の手は健側の骨盤あたりに触れない程度の位置で構えておきます。そうするともし健側にバランスを崩しても素早く対応することができます。
歩幅を合わせる
歩行介助は介護職員が利用者を引っ張るのではなく、利用者の歩行ペースに合わせることが大切です。そのために大事なことは、利用者の歩幅に合わせて利用者がバランスを崩さないように一緒に歩くことです。また利用者と向かい合って手引き歩行介助を行う場合、利用者が右足を出すなら職員は左足を引くように、利用者が真っ直ぐ歩きやすいよう合わせることも重要です。
もしも歩行介助時にバランスを崩したら
歩行介助に十分に気をつけていても急に膝が折れる、躓くなどといった事態の発生を完全にゼロにすることは困難です。もし利用者がバランスを崩してしまい転倒しそうになったら介護職は咄嗟に身体を支えようとします。しかし利用者の体の方が大きかったり、姿勢が大きく崩れていしまったりなどの場合は、咄嗟に支えることによって介護職の腰に大きなダメージを与えることもあります。
こうしたリスクを少しでも減少させるためのポイントが2つあります。
ひとつは、利用者の身体を支えるのではなく、関節を支えることです。特に肩、骨盤を支えると状態を安定させやすいだけでなく、介護職が支える力を有効に使いやすくなります。膝折れ時には膝関節に職員の足を当てることも有効です。
もうひとつは、無理をせず一緒に倒れてしまうことです。もちろん骨折等を起こさないように手を床につけず、ドスンと勢いをつけないように自然と床に座るような姿勢で衝撃を逃がす必要はあります。利用者の倒れ方に合わせて職員も身体を床に向かって下げていけば、大きな衝撃にはなりにくいです。無理に支えようとするより双方が安全に済む場合が多いので、いざという時の支え方や倒れ方は学習会等で練習しておくといいでしょう。
転倒を予防する環境づくり
転倒の危険性は、高齢者の身体機能低下の影響に加え、生活環境にも大きく左右されます。安全な生活空間を作ることは、転倒事故を防ぐ上で非常に重要です。以下に、効果的な環境整備のポイントを挙げます。
動線上の障害物の排除
高齢者が日常的に移動する経路は、障害物がないことを確認しましょう。小さな物でも足に引っ掛かり、転倒につながる可能性があります。特に、電気コードなどは床面に固定するか、できるだけ壁沿いに配置することで、躓きのリスクを減らせます。
明るさの確保
視力の低下は高齢者に多く見られ、暗い場所では足元が見えにくくなります。廊下や部屋の明るさを十分に確保し、夜間でも安心して移動できるように、足元灯の設置を検討しましょう。
滑りにくい床面の維持
水濡れや油分などで滑りやすくなった床は、転倒の直接的な原因となります。特にバスルームやキッチン、入口など、水がかかりやすい場所では、定期的な拭き取りや滑りにくいマットの使用を心がけましょう。
これらの対策を講じることで、高齢者が安心して生活できる環境を整えることができます。また、これらの環境整備は日常的な注意と定期的な見直しが必要です。介護職員だけでは気づかなかったことや日々の中で新たに見つけた注意を更新していくことが必要です。また、ヒヤリハットやリスクマネジメントから見直しを行っていくよう事故予防委員会等の会議で情報共有し、第三者の様々な目線からリスクを発見していくことが重要です。
まとめ
高齢者にとって、転倒は生活に大きな影響を与えます。健康や自立性の低下、そして生活の質の大幅な悪化に直結するリスクがあるからです。加齢による身体機能の低下は避けられない現実であり、それに伴い転倒のリスクも高まります。しかし転倒の危険性を十分に認識し、転倒予防体操など適切な予防措置と環境整備を行うことや、歩行や日常活動のサポートを行う際には安全な介助方法を心がけることで、これらのリスクを大きく軽減することが可能です。
高齢者自身が自信を持って、より安全で充実した日々を送ることができるよう介護職員は転倒リスクの軽減に向けて、積極的に取り組んでいくことが大切です。
それでも転倒事故は起こり得ます。その際は発生の経緯をできる限り詳細に把握し、高齢者側の転倒発生原因と介護事業所側の環境や対応に不備がなかったかの両面から分析しましょう。分析結果から見えたリスクについての対策を会議等で協議することで、同じ事故の発生を確実に予防できるように努めることが大切です。
当コラムは、掲載当時の情報です。
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その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。