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傾眠傾向のある方の誤嚥を防ぐための取り組み

2022/04/19

介護を要する高齢者にしばしば見られる状態が「傾眠傾向」です。日中にも発生するこの傾眠傾向は、一日のメリハリのついた生活を送りにくくなるだけでなく、食事時の誤嚥のリスクを飛躍的に向上させる因子でもあります。介護職は高齢者の安全を守り健康的な生活を送っていただくために、傾眠傾向のある方への対応や誤嚥のリスクを把握してケアにあたることが重要です。今回は傾眠傾向のある方の誤嚥を防ぐための取り組みをご紹介します。

傾眠傾向とは

傾眠傾向とは、軽度の意識障害のことをいいます。

主に肩を軽くたたく、声かけを行うなどの軽い刺激で開眼する状態で、それ以外の際にはウトウトしやすくなる様子が見られます。傾眠傾向にある方は、軽い刺激を与え開眼したとしても意欲が低い、注意力の散漫、全身の脱力感などがしばしば見られ、介護者が居眠り程度だと認識して放置してしまうと脳機能がさらに低下しせん妄、幻視幻覚といった意識障害の悪化や生活不活発病に陥るおそれもありますので、注意が必要です。

傾眠傾向になる原因

傾眠傾向となるにはいくつかの原因が考えられます。高齢者の特性のものもあれば、重大な疾病が潜んでいる場合もありますので、傾眠傾向の利用者がいる際は注意深く観察することが重要です。

認知症の症状

アルツハイマー型認知症の初期症状の抑うつや無気力状態など、認知症の症状として脳の興奮作用がうまく機能せず、無気力な状態になってしまう場合があります。また認知症を有する方は昼夜逆転に陥る場合も多く、その影響で日中に傾眠傾向になってしまうこともあります。

脱水症状

一般的に高齢者は老化の影響から体内の水分保有量が少なくなる傾向が見られます。また、自律神経の低下により喉の渇きを自覚しにくいこともあり、若い世代に比べ自覚がないまま脱水症状に陥ってしまうことがしばしばあります。脱水症状になってしまうと脳機能の低下や全身の脱力感が生じ、意識障害を起こして傾眠傾向が見られます。さらに悪化すると幻覚幻視、せん妄を引き起こすおそれが強くなり、重度の脱水症状では死に至ることもあります。

薬の副作用

高齢者は様々な慢性疾患を併せ持ちやすいため、内服薬が多くなる傾向が強いです。また肝臓の代謝が低下し薬の分解が遅くなりやすい方は副作用が生じやすくなります。睡眠薬や抗てんかん剤などを内服している方は特に副作用として傾眠傾向が出るリスクが高くなります。

食後低血圧

一般的に人間の体は食後に、消化のためのエネルギーを必要とします。腸に必要な血液を集めようとした結果、脳やその他の部位への血液は不足することになってしまいますが、自律神経の作用により心拍数を増やし、血管を収縮させることで血圧を上昇させています。 しかし高齢者は自律神経の低下などから十分に血圧を上昇させることができず低血圧に陥ってしまう場合があります。高血圧の方や、パーキンソン病、多系統萎縮症、糖尿病など自律神経系統に障がいを抱える疾病を持つ方は注意が必要です。

内科的疾患

発熱や体内の炎症、内臓の代謝異常など体内の疾患により傾眠傾向が出る場合があります。一般に体内に異常が生じた際、人間の体は休ませようとする働きを持ちます。風邪のような軽度の病気や肺炎などの炎症反応、脱水症状などの重度の意識障害もすべてに共通するのが眠たくなることです。特に傾眠傾向として見られやすいのは軽度の病気を患っている場合です。一般に、内科的疾患が原因で傾眠傾向に陥る場合は疾患から回復すると傾眠傾向も回復します。

慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫とは、頭蓋骨の下部にある硬膜と脳の間に血が溜まり脳を圧迫することで意識障害を引き起こす疾患です。血腫が大きくなることで傾眠傾向になります。高齢者は骨がもろくなりやすく、さらに転倒しやすくなるほか、反射神経が鈍ることから防御姿勢が取れず頭を打ち付ける場合があり、その際に頭部の血管が傷付くことで慢性硬膜下血腫になってしまうことがあります。血管の損傷程度により、頭を打ち付けてから1~2ヶ月ほどしてから急激に症状が発現する場合もあります。損傷が軽微な場合は自然治癒することもありますが、症状が悪化すると麻痺や発語障害も見られることがあり、外科手術を要します。高齢者の転倒時は頭部を打ったかどうかをしっかりと見定め、状態の観察に努めることがとても重要です。

傾眠傾向時は誤嚥リスクが高い

傾眠傾向は軽度の意識障害であり、ただの居眠りとは原因からもその性質が違います。介護者がそのことを理解せずに食事を提供してしまった場合に非常に重大なリスクとなりうるのが誤嚥です。

居眠りの場合は覚醒を促せば食事を摂取することはできますが、傾眠傾向のある方は傾眠傾向になる原因があるためしっかりと覚醒し安全に食事を摂ることは困難であり非常に危険です。場合によってはあまり噛まずに飲み込んでしまう、口腔内に食物が残ってしまう、汁気がダラダラと咽頭に流れ込んでいってしまうなどから誤嚥を生じさせてしまうのです。

誤嚥は肺に流れ込んだ食物や水分がもとで炎症を引き起こす、誤嚥性肺炎を起こすリスクが非常に高く基礎体力の低下した高齢者では死に至るケースも多く見られます。近年の新型コロナウイルス感染症の流行により、高齢者への感染を防ぐために様々な感染対策を介護事業所は行っていることかと思いますが、こうした傾眠傾向の方の誤嚥性肺炎による体力、免疫力の低下が新型コロナウイルスに感染してしまう要因にもなります。

傾眠傾向の正しい知識と理解を持ち、食事時の誤嚥リスクを減少させていくことが大切です。

傾眠傾向の方の誤嚥を防ぐために

水分摂取量の管理

傾眠傾向が見られる高齢者に比較的多いのが脱水症状です。先ほど述べました通り、高齢者は脱水を起こしやすい傾向にありますので、体に充分な水分が不足し傾眠傾向になることが多いためです。軽い脱水症状でも体の脱力や倦怠感、頭がボーッとするといった症状を引き起こし、さらに水分量が不足する事態に陥ることが考えられます。

介護事業所として必要な取り組みは、利用者の水分摂取量をしっかりと管理することです。もしも水分摂取量が少ない場合、利用者の覚醒状態が良好な頃に充分な水分を摂取できるようにしましょう。覚醒状態が不鮮明な状態での水分摂取はさらに誤嚥のリスクを高めるため絶対にしてはなりません。利用者がどれくらいの水分を摂取できているか、チーム内で情報共有することも重要です。

日中の活動量を増やす

水分量や疾患の影響がないと考えられるが傾眠傾向にある方に多いのが、日中の活動量の低下です。施設や在宅でイスに座ったままやベッド上で過ごす機会が多くなってしまうと脳への刺激が不足し、自律神経の働きが鈍くなってしまいます。その結果脳の興奮作用がうまく働かず傾眠傾向に陥ってしまうのです。また日中に傾眠してしまうことで夜間の睡眠の質が低下し、また昼間に傾眠してしまう昼夜逆転も引き起こしてしまいます。

予防のためには日中にその人に合った活動をしてもらい、脳への刺激を与えることが傾眠傾向を和らげ、食事を安全に摂取できることにつながります。ベッド上で過ごさざるを得ない方には、頻回に訪室しコミュニケーションを取ることで生活のメリハリをつけましょう。

食事は必ず覚醒してから

傾眠傾向にある方に絶対にしてはならないのは、覚醒状態が不鮮明なまま食事を提供してしまうことです。特に食事介助を要する方々は自発的な活動が少ない傾向にあるのがほとんどです。ADLが自立に近い方々に比べると発語量の低下や下肢筋力の低下といった全身機能の低下が咀嚼、嚥下力も低下させてしまいます。つまり食事介助を要する方々はそもそも誤嚥しやすい方々であるとの認識が必要です。

傾眠傾向のまま食事を介助してしまうことは誤嚥のリスクを飛躍的に高めてしまいます。食事摂取時には必ず都度の声かけや肩を軽くたたくなどして覚醒状態を確認してから介助を行いましょう。それでも傾眠傾向が強い場合には、食事を一旦中止し休んでいただくことも必要な選択でしょう。中止した場合でも栄養を確保するのに越したことはありません。中止した原因とその後の対応も含め、職員間で密に情報共有を図ることで覚醒状態が確認できた際に食事を摂取することができるよう連携しましょう。

一口の量は少なくする

傾眠傾向にある方でも声かけなどで刺激を与えると開眼する場合があり、食事を食べる意思も見せる方々もおられます。本人が摂取する意思を見せていても、傾眠傾向の状態から一気に覚醒状態に至るとは考えにくいのが実情です。そこで大きなスプーン等で大量の食物を口腔内に入れてしまうと、しっかりと咀嚼できず口腔内に残渣物が残る、咀嚼不十分なまま嚥下してしまうなどのリスクが生じます。

ティースプーンのサイズ程度の量を一口量にすることでいざ再び傾眠傾向に陥ってしまった際の誤嚥リスクを少なくすることができます。

数日間の生活状況を把握する

傾眠傾向は原因が様々ですので、はっきりとした理由を探るためには3日~1週間程度の利用者の生活状況を把握することが重要です。その日だけの判断で対応してしまうと傾眠傾向に至る本当の原因が把握できず利用者の心身機能は日を追うごとに低下してしまうことでしょう。そうなるとさらに食事を安全に食べることが困難になり誤嚥性肺炎のリスクを高めてしまいます。

日中の活動量は日によって変わりますので、数日間の状況を記録に残していればおおよその活動量が把握できます。また夜間に眠剤を内服しているなら夜間の睡眠状況や睡眠時間のアセスメントも重要です。

まとめ

傾眠傾向は正しい知識認識を持たなければただウトウトしているように見えてしまいます。しかしその背景には利用者の心身機能をさらに低下させてしまう要因や重大な疾病が隠れていることもあります。健康な生活のためには欠かせない食事を傾眠傾向の状態で摂取させてしまうことは、誤嚥のリスクを高めてしまいます。介護職として利用者の健康を守るために職員間の情報連携を図りながら利用者個々のケアに努めましょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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