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NDSコラム

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【令和4年度】処遇改善加算の方向性

2022/10/13

福祉系サービス事業所で働く職員の処遇改善のために活用される加算である処遇改善加算は、新型コロナウイルス等の時代背景の影響も受けて様々な形で交付されていますが、この度の令和4年度10月より、「介護職員等ベースアップ等支援加算」という新たな処遇改善加算が創設されました。
今回は福祉系サービスにおける処遇改善加算の方向性と、新たに新設された「介護職員等ベースアップ支援加算」の概要について解説します。
※ベースアップ加算と呼ばれることがあります

令和4年度における処遇改善加算の現状

令和4年度9月までの介護事業所を対象とした処遇改善加算の現状は以下の通りです。

介護職員処遇改善加算

介護職員を対象とした加算で、算定するためには以下のキャリアパス要件及び職場環境等要件を満たす必要があります。

キャリアパス要件
  • 職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
  • 資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること
  • 経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
職場環境等要件

賃金改善を除く、職場環境等の改善について、以下のすべての項目を1つ以上実施する

  • 入職促進に向けた取組
  • 資質の向上やキャリアアップに向けた支援
  • 両立支援・多様な働き方の推進
  • 腰痛を含む心身の健康管理
  • 生産性向上のための業務改善の取組
  • やりがい・働きがいの醸成

なお、現在は処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)の3つの区分が設けられており、算定要件は以下の通りです。

加算(Ⅰ)※月額3.7万円相当

キャリアパス要件のうち、①+②+③を満たすかつ職場環境等要件を満たす

加算(Ⅱ)※月額2.7万円相当

キャリアパス要件のうち、①+②を満たすかつ職場環境等要件を満たす

加算(Ⅲ)※月額1.5万円相当

キャリアパス要件のうち、①もしくは②を満たすかつ職場環境等要件を満たす

介護職員等特定処遇改善加算

介護職員等特定処遇改善加算は、介護事業所が勤務する職員の①経験・技能のある介護職員②その他の介護職員③その他の職種にそれぞれ配分することができる加算で、介護職だけが対象ではありませんが、配分には一定のルールが以下のように設けられています。

  • 経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善の見込額が月額平均8万円以上、または賃金改善後の賃金の見込額が年額440万円以上であること
  • 経験・技能のある介護職員の賃金改善の見込額の平均が、他の介護職員の賃金改善の見込額の平均より高いこと
  • 他の介護職員の賃金改善の見込額の平均が、その他の職種の賃金改善の見込額の2倍以上であること
  • その他の職種の賃金改善後の賃金の見込額が年額440万円を上回らないこと

算定要件は、以下の要件をすべて満たすことが必要です。

  • 処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得していること
  • 処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を行っていること
  • 処遇改善加算に基づく取組について、ホームページ掲載等を通じた見える化を行っていること

なお、介護福祉士の配置割合等に応じて、介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)、(Ⅱ)の2区分が設けられています。

介護職員処遇改善支援補助金

介護職員処遇改善支援補助金とは令和4年2月~9月を対象期間として、令和3年11月の閣議決定に基づいた「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の施策です。

介護職員を対象に、「賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として」収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置が講じられました。
介護職員の常勤換算1人につき9,000円相当が補助金として交付されます。

この補助金の交付を受けるための要件は以下の通りです。

賃金改善を除く、職場環境等の改善について、以下のすべての項目を1つ以上実施する

  • 処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得している
  • 令和4年2、3月(令和3年度中)から実際に賃上げを行っている
  • 賃上げ効果の継続に資するよう、補助額の2/3以上は介護職員等のベースアップ等の引上げに使用する

対象は介護職員としていますが、事業所の判断で介護職員以外の他の職員にも処遇改善に使用することができるとしており、柔軟な運用が認められています。しかし、上記のようにこの補助金は令和4年2月~9月までの限定的な補助金です。

令和4年度10月より新設された「介護職員等ベースアップ等支援加算」

介護職員処遇改善支援補助金は令和4年9月で終了しますが、10月以降も同等の措置を継続できるよう新設された加算が「介護職員等ベースアップ等支援加算」です。

新設とは言いますが、介護職員処遇改善支援補助金の内容を引き継ぐ形ですので算定要件は同様です。ただ介護職員処遇改善支援補助金は公費が10割の補助であったのに対し、介護職員等ベースアップ等支援加算は報酬単位にサービス区分ごとの加算率を上乗せし介護報酬として一体的に支払われるものとなっており、1/4が国費で賄われます。

介護職員等ベースアップ等支援加算を算定するには

介護職員処遇改善支援補助金を引き継ぐ形で令和4年10月から新設された介護職員等ベースアップ等支援加算を算定するためには、新たに申請が必要です。

現在補助金の交付を受けている事業所も新たに申請をしないと、自動的に引き継がれるものではないことに注意が必要です。算定要件は補助金と同様ですので、既に交付を受けている事業所は問題なく申請できるでしょう。今まで補助金を交付していなかった事業所においても「介護職員・その他の職員の月額の賃金改善額等を記載した計画書」、「加算等の届出」を所轄の自治体に提出することで算定することができます。

介護職員等ベースアップ等支援加算の活用法

介護職員等ベースアップ等支援加算は毎月のサービス実績にサービス事業所ごとの加算率を付して請求するシステムです。算定するためには介護職員処遇改善支援補助金と同じく「補助額の2/3以上は介護職員等のベースアップ等の引上げに使用する」ことと定められています。ここでいう「ベースアップ等」とは“「基本給」又は「決まって毎月支払われる手当」の引上げ”と明確に定義されており、想定される加算報酬額の2/3以上を毎月の介護職員の給与に反映させる必要があります。またこの加算においてもベースアップの対象は介護職員だけに限定しておらず、事業所単位での柔軟な対応を認めています。

毎月想定される加算の報酬額を試算し、どの職種までのベースアップを行うのか、どれくらいのベースアップが可能であるのかを把握して計画的に取り組むことが必要です。

処遇改善加算の今後の課題

介護業界では、介護職員の処遇改善のために様々な加算を創設し介護職員の待遇を向上させようとしている現状ですが、今後の見通しについては多くの課題が指摘されています。

利用者の負担増に繋がる

介護職員等ベースアップ等支援加算が創設されたことにより、10月以降の処遇改善の基本形はすべて加算によるものです。加算は基本報酬にさらに上乗せして支払われるものであるため、利用者にも一定の負担増が生じます。今後処遇改善加算を継続または充実させていくにあたり、利用者の負担も増していくことが懸念されており、その影響でサービスの利用控えが生じてしまうとの見方があります。また国は介護職員等ベースアップ等支援加算の財源について「社会保障改革の中で捻出する」との方向性を打ち出しており、利用者の負担増を抑えるために介護保険料の値上げや、基本報酬の引き下げが図られることも考えられます。

訪問看護や介護支援専門員の処遇改善を望む声への対応

現行の処遇改善加算の対象はあくまでも介護サービスを提供している介護事業所であり、訪問看護や居宅介護支援事業所は加算の対象になっていません。

今後もこれらの加算を充実させていくことは、介護事業所で働く職員と訪問看護師やケアマネージャーの職に従事する職員との格差を広げることにつながります。

このことから訪問看護事業所や居宅介護支援事業所でも処遇改善加算の創設を求める声や、併設されている事業所についての柔軟な対応を求める声が挙がっており、今後の方向性として介護保険事業所全体の格差をいかに是正していくかが重要なテーマになりそうです。

「3階建ての構造」の簡素化

介護職員等ベースアップ等支援加算が創設されたことで、処遇改善加算に構造はすべての加算の基となる「介護職員処遇改善加算」に「介護職員等ベースアップ等支援加算」が上乗せされ、「介護職員等特定処遇改善加算」を算定できる事業所はさらに報酬を上乗せできるという3階建て構造になります。

これら3種の加算はそれぞれ使途が明確であることから算定要件も異なるため、それぞれの加算を算定するために必要な手続きが非常に複雑化しています。これらが業務負担、事務負担につながるとの指摘があります。

今後も処遇改善に関する施策は必要不可欠なことから、それぞれの加算の一本化や簡素化が求められますが、一本化や簡素化を行うことで各加算の趣旨が不明瞭になってしまい、効率的な処遇改善の妨げにならないよう慎重に検討されています。

まとめ

介護の仕事は業務負担に対して賃金水準が低いといわれており、継続的に介護職員の処遇を改善するため令和4年度10月から処遇改善に係る加算3種類が基本構造となります。 介護職員の待遇向上を図り、介護業界で働く人材の呼び込みや定着を図ることがこれから高まる介護ニーズへの対応として必要ですが、その一方で事務負担増、費用増や職種間格差が広がることにつながるとの懸念もあるのが現状です。次回の介護報酬改定は令和6年度を予定しており、それに向けて今後議論が活発化していくと見られます。今後の動向に注目しましょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

参考URL

令和4年度介護報酬改定の概要

介護職員処遇改善支援補助金の概要

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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