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NDSコラム

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老人保健施設の役割と在宅復帰率向上のための取り組み

2022/10/18

介護保険事業の中で介護保険施設サービスに位置する老人保健施設(略称:老健)は近年、経営状態が悪化している施設が多くなっていると見られています。経営の安定化には、利用者の在宅復帰を目指して必要なサービスを提供する老人保健施設に求められる役割と、在宅復帰率を高めて質の高い施設を目指すことが必要で、強化型や超強化型の施設類型を取得することが求められています。
しかし在宅復帰を目指すためには退所率を上げるだけでは不十分で、ベッド稼働率をどのようにして保つかが重要になってきます。そこで今回は老人保健施設が大きな役割を担う高齢者の在宅復帰と、老人保健施設が在宅復帰率を高めるために必要な取り組みについて解説します。

老人保健施設の役割

現在介護保険に定められているサービスは大きく3つのサービスに分かれています。

居宅サービス

介護施設以外の住居を主な生活の場として訪問介護や通所介護といった在宅生活の維持に必要なサービスを提供します。

介護保険施設サービス

介護保険施設に入所し、必要な医療・介護その他のサービスを24時間体制で受けることができます。

地域密着型サービス

小規模サービスや認知症に特化したサービスなど、住み慣れた地域で暮らすことの支援に特化したサービスです。

老人保健施設は「介護保険施設サービス」に位置しており、利用者は老人保健施設に入所することで24時間必要なサービスを受けることができます。
しかし同じ介護保険施設サービスに位置する「介護福祉施設」いわゆる特別養護老人ホームも同様に利用者が入所し24時間必要なサービスを受けることができ、老人保健施設と役割が被ってしまいます。
実は老人保健施設は介護保険施設サービスの中でやや特殊であり「在宅復帰を前提とした」介護施設なのです。
つまり老人保健施設とは「在宅復帰を目指す利用者が一時的に入所し、医療・介護サービスを受けながら在宅復帰に必要な能力の獲得、向上を図る」ことが役割といえます。

在宅復帰のメリット・デメリット

介護が必要になった高齢者が施設入所ではなく、自宅での生活を希望し在宅復帰を目指す場合、高齢者本人や家族に考えられるメリット・デメリットを以下に見ていきましょう。

メリット

利用者

住み慣れた自宅で生活ができる

介護が必要になった高齢者の多くは、住み慣れた自宅で生活することを望みます。施設で暮らす方が安心感があると考える人もいますが、やはり自身の生活の歴史の価値は本人にしか分からない格別の思いがあります。特に自宅から離れて生活している高齢者にとって、在宅復帰を目指すことは何にも代えがたい強い動機になることでしょう。

必要な介護サービスを選択して受けられる

在宅生活の場合、受ける介護サービスは訪問看護、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護等の居宅介護サービスになります。居宅介護サービスは高齢者本人のニーズや心身の状況に合わせて必要なサービス、不必要なサービスを自らが自由に選択して利用することができます。つまり在宅介護では、本当に必要な介護サービスだけを厳選して必要最小限に留め、自らでできることは自らで行っていく生活スタイルを作りやすくなります。

生活に役割を持ちやすい

施設介護は例外もありますが、基本的に高齢者はサービスを受ける側になりやすいです。他者に対し何かしらの支援をする側から、支援を受ける側になることは自身の社会的な役割の喪失につながりやすく、心身の不調を招くおそれもあります。在宅生活の場合、居宅介護サービスは24時間の提供が実質不可能で、介護サービスが関わらない時間は自力でやらなくてはなりません。しかし「自分でできる」「自力でやっている」ことは本人にとっては自らの役割を持っているという自己認識につながります。自分が何もかも支援を受ける側ではないという意識を持ってもらうことは生活意欲の維持、向上に大きく役立ちます。

家族

介護にかかる費用が少なくなりやすい

施設介護に比べ、在宅介護はかかる費用が少なくなる場合はあります。家族と居を共にする場合は部屋代が必要ありませんし、必要な介護サービスだけを選択して利用すれば介護保険サービス費も必要最低限に抑えることができます。

常に近くにいれるので心配が少ない

施設に入所した場合、家族は当然利用者と一緒に暮らすことはできません。専門職がいてくれることは安心でもありますが、同時に常に様子が見られないという不安につながることもあります。在宅介護を同居してやっていく場合、常に近くにいて見守ることができるのはメリットのひとつです。

最期を看取ることができる

近年は介護施設でも看取り介護を行っているところは多くありますが、家族に連絡が入るのはコミュニケーションも難しくなった段階であることがしばしばです。家族のグリーフケアの際によく聞かれるのが「もっと顔を見てあげたら良かった」などの後悔の念です。実際は家族に悪いところはないのですが、施設に入所していることを引け目に感じてしまう家族も中にはいらっしゃいます。在宅介護では、生活を続けていった結果の看取りをすべて自宅での生活を中心に行いますので、家族は大変だったという思いの反面、介護をやりきったという思いも持てるのです。

デメリット

高齢者

急変時の対応リスクがある

施設介護では24時間介護職や看護職といった専門職が常駐しているため、健康状態のちょっとした変化にも気付きやすくなりますが、在宅生活では24時間専門職が付いているわけではないので不調を見落とす、急変時の対応が遅れるというリスクが生じます。

事故リスクがある

急変リスクと同じくデメリットになってしまうのが事故リスクです。自宅は住み慣れた安心感はあっても、介護施設に比べるとやはり高齢者には暮らしづらいところが多いです。またサービスが関わらない時間帯での移動も転倒リスクをゼロにすることは困難で、転倒や転落といった事故リスクは施設に比べ飛躍的に高くなるといえます。

環境が合わないことがある

いくら住み慣れた自宅であっても、身体状態、疾病の状態によっては住みやすい家であるとは限りません。段差が多い、間口が狭い、階段を使わないといけない等、高齢者の状態によってはどうしても環境が適さない場合も出てきてしまいます。不適切な環境で暮らすことは、本人の生活範囲を狭めてしまい、却って心身の健康に悪影響を及ぼす場合もあります。

家族

介護の負担が大きくなる

施設ではなく在宅生活を送る場合、家族には少なからず介護の負担がかかります。自身の子育てや仕事がある、遠方に住んでいる等の場合は却って家族の状況を悪くしてしまうこともあります。

自分の時間が取りにくくなることがある

介護が必要な高齢者のADLによって家族介護の負担は大きく変わります。特に移動に介護が必要な場合、日常生活の多くの場面で支援を要しますので家族負担はとても大きくなりやすいです。その場合、家族は常に介護に手を取られてしまい心の余裕を無くしてしまいがちです。

福祉用具の購入や住宅改修が必要なことがある

自宅の環境が高齢者のADLに合わない、介護をするのに適さない場合、必要に応じて福祉用具の導入やバリアフリー化、扉の変更、スロープや手すりの設置等の住宅改修を行わなくてはなりません。特に排泄関連や入浴関連用具はレンタルできず購入する必要があるため、施設介護に比べ必要以上のお金がいることもあります。

老健の経営状態が厳しくなっている

老人保健施設は高齢者が在宅復帰することを目指してサービスを提供することが役割ですが、近年の調査では全国的に経営状態が厳しくなっていることが分かっています。

理由として考えられるのが新型コロナウイルスによるベッドの稼働率の低下です。老人保健施設は特別養護老人ホームと違い入所できる日数に限りがあります。つまりベッドの稼働率を高い水準で維持することが経営の安定化に直結します。しかし新型コロナにより利用控えが生じたり、職員が感染することで人員不足に陥り新規受付を制限したりしたことが全国的に経営状態の悪化を招いていると考えられます。

老人保健施設は在宅復帰を大きな目標に掲げリハビリ等を頑張る高齢者にとって非常に重要な意味を持つサービスです。未だ収束したとはいえないコロナ禍においていかに経営状態を安定させていくかは重要な課題であるといえるでしょう。

在宅復帰に特化した「超強化型」老健

全国の老人保健施設を対象とした調査において、経営の安定化を図れている施設は「超強化型」という施設類型が多いことが分かっています。超強化型とは、在宅復帰率や在宅療養を支援する機能が高いと認められた老健であり、いわば質の高さを認められた老健でもあります。また超強化型はその他の施設類型に比べ介護報酬が高く設定されているため、経営の安定化にもつなげやすくなります。また、要介護度4、5といった高い要介護度の割合は超強化型が多く、それもまた介護報酬に直結します。

超強化型の要件を満たすためには以下の5つの要件が必要です。

  • 在宅復帰・在宅療養支援等指標(10項目)が合計70点以上である(最高90点)
  • 退所時指導などを行っている
  • リハビリテーションマネジメントを行っている
  • 地域貢献活動を行っている
  • 充実したリハビリを行っている

これらの要件をクリアし超強化型老健と認められることで基本単位や加算報酬を多く受け取ることができるのです。

特に重要なことはいかにして在宅復帰率を高め、在宅復帰・在宅療養支援等指標の基準を満たすかです。中でも在宅復帰・在宅療養支援等指標の基準に設定されている「ベッド稼働率」は、在宅復帰率と相反する方向性ともいえ、その両立には在宅復帰を正しく見据えた質の高い施設づくりが重要です。在宅復帰率はただ老健を退所しただけでは不十分で、入所中に高齢者の在宅復帰後の生活を見越したサービスを提供していくことが求められます。

老健にて在宅復帰率を高めていくためには

在宅復帰率を上げ、超強化型の施設類型要件を満たすためには先述の通り、高齢者の退所後の生活を踏まえたケアが重要です。在宅復帰率を高めるために大事なポイントを見てみましょう。

退所先との連携

在宅復帰率は、単純に老健からの退所率を指すものではありません。老健を退所することで在宅での生活を可能にしてこその在宅復帰です。その際に重要になってくるのは、老健を退所後もスムーズに在宅介護に移行できる体制を整えることです。

ケアマネージャーはもとより、必要な居宅介護サービスやかかりつけ医等退所後の医療機関との綿密な連携が在宅復帰の質を高めることに非常に重要です。

質の高いリハビリサービス

老健の利用者にとって必要なリハビリとは、在宅で生活していくために必要な機能のリハビリです。それは運動機能だけでなく本人の在宅で生活するという意欲や自尊心も含まれます。ただADLを高めようとするリハビリではなく、本当に必要な機能のリハビリを図っていくことが大切で、そのためにはリハビリチームだけでなく介護、医療チーム等、老健全体の職員がしっかりと情報共有し連携していくことが大事です。

在宅ケア機能を高める

質の高い超強化型老健の多くは、入所前後、退所前後訪問指導割合が他の施設類型に比べ非常に高い数値です。また、在宅サービスの提供割合も高い傾向が見られ、老健の中だけで完結するのではなく、在宅に訪問するサービス体制を整えていることで在宅復帰率を上げることにつながっていると考えられます。これらの在宅ケアに関する体制を整え、関連する加算を算定していくことが大変重要です。

ベッド稼働率と併せたシステム管理を行う

超強化型老健、強化型老健の基準を満たすためのハードルは非常に高く、取得したいと考えていても現実的に困難である施設も多いと思われます。特に在宅復帰率を高めると同時に下がってしまいやすくなるベッド稼働率を維持することが困難であり、その両立に悩まれているところも多いと思います。

改善のためのひとつの方法として、ベッド管理をシステム化することが挙げられます。在宅復帰率とベッド稼働率を自動で取得できるシステムを導入してベッド管理を一括して行えるようになると最適なベッド管理の大きな手助けとなることが期待でき、同時に在宅復帰率、ベッド稼働率の維持もしやすくなるでしょう。

まとめ

高齢者の在宅復帰を目指す老人保健施設では、新型コロナウイルスの影響とみられるベッド稼働率の低下が経営状態の悪化を招いています。

高齢者のニーズや在宅復帰後の生活を踏まえた質の高いサービスを提供していくことで在宅復帰率を上げ、高い介護報酬を受け取ることができる超強化型の施設類型要件を満たすことが質の高い老健であることの証明にもなり、ベッド稼働率も上昇を見込めるでしょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

参考URL

2020 年度(令和 2 年度)介護老人保健施設の経営状況について

介護老人保健施設の報酬・基準について

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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