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NDSコラム

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介護事業所に求められる未収金への対応について

2023/04/19

介護保険事業は介護保険からの報酬が収益の大半を占めるため安定した経営が可能と思われがちですが利用者の自己負担金が入金されないこと、つまり未収金が発生しやすい事業でもあります。利用者の自己負担金の入金が滞り未収金が増加すると介護事業所、利用者双方に不都合が生じ、安定した経営に影を落とすおそれもあります。未収金をしっかり回収していくことは介護事業所にとってクリアすべき課題です。今回は、介護保険事業所で起こりやすい未収金が経営に与える影響と、未収金を回収するためにはどのような点に気をつけるべきかを解説します。

介護事業所の未収金とは

介護事業所の収益の大半は、介護保険からの介護報酬がそのほとんどを占めています。利用者負担は1割~3割ですので、10,000円の報酬が発生した場合、保険収益は1割負担の場合9,000円、利用者が払う自己負担分は1,000円です。

この金額だけを見ると「介護保険サービスは安い」と思われるかもしれませんが、この金額はあくまでも1回あたりのサービス費用です。利用者の介護依存度により必要なサービスが増えると、その分利用者の自己負担金は増加していきます。また介護施設やデイサービス等のサービスによっては食事代や居室代も別に自費負担としてかかってきますので、利用者によっては決して安いとは言えない金額を自己負担金として支払うことになります。

この自己負担金は月ごとに精算され利用者に請求され、その大半は銀行引き落としで支払います。しかし何らかの事情で引き落としがされず自己負担金が介護事業所に入金されない事態が時に発生します。これが未収金です。

未収金が経営に与える影響

未収金は介護保険から支払われる介護報酬と比較すると少額といえるかもしれませんが、それでもやはり積もることでかなりの金額になってしまうこともしばしばです。
また介護事業所では未収金の回収に消極的なところも多く見られ、支払いがうやむやになってしまっているケースも多々見られます。未収金が積もることによって生じる不都合は以下が考えられます。

水増し請求を疑われる事由になる

介護サービスの報酬の内訳は7~9割の保険負担分と1~3割の利用者の自己負担分であることは先ほど述べた通りです。この報酬は利用者に対して適切なサービスを提供したことによって生じるもので、保険請求分と利用者負担分を合計して正当な金額になるのですが、例えば施設ケアマネのいる介護施設や、同一法人内の居宅介護支援事業所と介護サービスの利用者が実際にはサービスを利用していないにも関わらず利用したと偽って介護保険に請求した場合はどうなるでしょうか。当然利用者は実際には利用していませんので自己負担は請求しようがありません。しかし介護保険には7割~9割の介護報酬の支払いを求めることになります。これが水増し請求です。

実際にはそのようなことをする介護事業所はないはずですが、未収金があまりにも多い事業所については、実際に利用実態があるのかを疑われてしまう要因になることは十分に考えられるのです。もちろん正しい運営をしていれば疑われたとしても不正にはなりませんが、その事業所を利用する方や働く職員にとってあまりいいイメージはないでしょう。

資金繰りが困難になる

介護事業所の会計の方法は発生主義や現金主義など異なるところもあるでしょうが、やはり収益の見通しは保険請求分と自己負担分を合わせた額で見るのが一般的です。十分な利益を出している事業所はまだしも、ギリギリ黒字かどうかというラインで運営している事業所にとっては、全額入金があることを前提としてやり繰りをする、予算を組むところも珍しくありません。しかし未収金が多くなってしまうと、その前提は全て瓦解してしまいます。

極端に言えば保険収益は450万、利用者の自己負担が50万の計500万の収益の予定から支払いが470万で30万の利益の予定であった場合、仮に利用者の自己負担金がすべて未収金となった場合は支払いができなくなります。

小規模の介護事業所ほど未収金が経営に与える影響は大きくなるのです。

回収困難になる場合もある

利用者が介護サービスをどれくらい使ったかによって自己負担金は変動しますが、ひと月の自己負担金は要介護度5の方がすべての単位を使い切ったとして1割負担でおよそ36,000円ほどです。食事や部屋代が必要な場合はそれに加えて自己負担が発生します。

この自己負担金が未収金になった理由によっては、回収が困難になってしまう場合がしばしば起こります。引き落としに十分な金額が入金されていなかったのであればそこまで問題にはならないかもしれませんが、自己負担金を支払うための金銭的余裕がなかった場合、当然未収金はすぐさま入金されなくなります。しかし、介護を必要とする高齢者はだからといってサービスを止めるわけにもいかないのが現状です。未収金が残ったままサービスを利用し続けると、新たに発生した自己負担金がどんどん積もっていき、数ヶ月経つ頃には全額回収が困難になるほどの額になってしまうこともあるのです。介護事業所側は場合によっては入金されるまでサービスをストップせざるを得ない事態にもなりますが、そうなると利用者は生活が維持できなくなります。介護の必要度合いと自身の収入とのバランスを保ちにくいからこそ介護業界の未収金は発生しやすい問題であるともいえます。

未収金を回収するには

介護事業所は利用者の生活を支えるために必要なサービスではあるのですが、決して慈善事業ではありません。利用者の生活を守るための介護サービスを提供する事業所としての基盤は、安定した経営の上に成り立ちます。そのためにはまず未収金が発生しないように最善の努力をすることが求められます。もちろん未収金は利用者の経済事情や入金忘れなどが原因で起こるので完全に発生を防ぐことは難しいといえますが、事業所として未収金が発生した場合の対応方法を契約書や重要事項説明書に明記する、契約時に口頭や文書で提示して注意を促しておくなど万が一の手順を利用者に示しておくことが大切です。

それでも未収金が発生した場合、速やかに回収できる手立てを講じるのも介護事業所の大切な業務です。利用者を支える立場であるが故に「払ってください」と言えないという介護事業所は多いように感じます。そのような場合は弁護士を立てる等の方法が最も確実であるといえますが、弁護士に依頼した場合の費用もかかりますし、何より利用者との信頼関係が損なわれてしまうでしょう。弁護士等に依頼するのは最後の手段として、その前に未収金が発生した場合の対応方法を介護事業所でしっかりと決めておくことが重要です。未収金発生時の対応方法の例を以下に紹介します。

未収金が発生した時点で通知する

未収金が発生した場合、介護事業所が必ず行うべき対応が即座の通知です。
利用者によって家族が入金を忘れていた、自身で銀行に行くことが難しかった、今月はお金が厳しかったなど支払えなかった理由は様々です。どのような事情にしても介護事業所側からの通知がなければ、未収金回収のための相談すら始まりません。利用者に通知することで支払方法をどうするかの話し合いが初めてできるのです。支払方法は法人によって現金で集金する、翌月に2ヶ月分の自己負担金を引き落とすなど色んな方法の取り決めがあるかと思いますが、数ヶ月入金が滞ってしまうと集金にしても引き落としにしても一度にはできないことが多いです。未収金の通知は、発生した段階で即座に行うことが重要です。

支払い可能であるかどうかを相談する

未収金が発生していることを通知することは「未収金が発生してますよ」というだけでは不十分です。利用者の元に請求書を発送している事業所がほとんどかと思いますが、時には金額をあまり把握していない方もおられます。

通知の際には「何月分のいくらが入金されていない」ことをしっかりと伝えた上で、支払いが可能であるかどうかの確認をしましょう。場合によっては通知の結果「払えない」という利用者もおられます。そのような時でも介護事業所としては全額回収することが大切ですので、利用者の支払える範囲をよく相談した上で少しずつでも支払いができるよう計画を立てることが大切です。

未収金がある利用者、家族とどのように接するか

介護事業所は介護保険から支払われる報酬と、主に銀行引き落としで入金される自己負担金が収益の内訳ですので、あまり利用者と直接現金のやり取りをしない傾向の強い業種です。それが故に未収金回収時に利用者や家族との接し方が分からない介護職員も多いと思います。しかし未収金の回収は介護事業所の適切な運営のために欠かせない業務です。未収金の回収にあたって介護職員として利用者や家族とどのように接すればよいかの例を以下に紹介します。

あくまで介護事業所の立場を意識する

未収金の回収にあたって非常に介護職員を悩ませることは「利用者の経済事情を考慮してしまう」が多いのではないでしょうか。特に年金のみでやり繰りをしている独居高齢者や高齢夫婦の世帯は介護サービスを利用することで生活が維持できているが、経済事情は苦しいという方が多くいらっしゃいます。利用者の生活に密着してサポートする介護職は、そうした事情も深く知っているために未収金の回収に積極的になれないことがしばしばです。
しかし前述の通り未収金の回収は介護事業所の運営のために大切な業務です。介護職としての前に、介護事業所として未収金回収の応対ができるようにしましょう。

また、未収金の回収だからといって介護事業所側が乱暴な態度に出ることはもってのほかです。滞納している側と、それを回収する側だからといってもあくまでも介護を必要とする方とそれをサポートする介護事業所という関係性を意識した上で、未収金の支払いは絶対に必要であることを説明するようにしましょう。お金に苦労している利用者の場合はその事情が分かるからこそ、介護事業所側の対応が利用者を追いつめないよう接遇を意識することが大切です。

必要に応じて行政と連携する

利用者の状態や金銭状況により、どうあっても円滑な回収が困難になってしまうこともしばしばあります。介護サービスを利用することで安定した生活を送れるはずの方が介護サービスを使うことで生活が苦しくなるというのも矛盾しているともいえますが、現実にそういった利用者が多くいらっしゃいます。

介護事業所は自分たちの未収金だけを回収できれば良いというスタンスではなく、利用者のそういった生活の苦しさも解決できるよう場合によっては行政と連携して解決にあたることも必要な視点です。

未収金が発生してしまう生活環境であること、介護サービスを利用しなくては生活がままならないことを踏まえて利用者やその家族に行政サービスや窓口の情報を提供したり、同意を得た上で行政へ呼びかけたりの包括的な支援を通して円滑に未収金を回収できるようにするのが望ましいです。

まとめ

未収金は介護を必要とする高齢者にしばしば起こる問題です。介護事業所の安定した経営のためには未収金の確実な回収が求められますが、そのためには滞納し続けないように迅速かつ細やかな配慮が求められます。利用者の生活を守る介護事業所としての立ち位置も忘れないように未収金の回収にあたりましょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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