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介護職が行う陰部洗浄の方法と注意点について
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2023/05/11
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排泄行為を自力で行うことができなくなった方は、紙パンツや紙おむつといった排泄用具内で排泄する機会が増えるため陰部周りは清潔を保ちにくくなります。
介護職は陰部の清潔を保つために必要に応じて陰部洗浄を行うことも大切な業務ですが、陰部洗浄は慣れない職員にはどう実施すればよいか分からず迷うこともあると思います。
そこで今回は効果的に陰部洗浄を提供するために知っておきたい陰部洗浄の方法について解説します。
陰部の清潔を保つ重要性
介護を必要とする方のうち、移動能力に支障がある方や認知症を有する方などは排泄行為を自力で行えなくなることがしばしばです。しかし尿や便はある程度の量が溜まると体外に排出される仕組みですので、トイレに行けない方はその場で出てしまいます。その際の汚染を防ぐために受け止める排泄用具が紙おむつです。これらの排泄用具は自力でトイレへ行けない方々の尊厳を守るためにも非常に便利な用具なのですが、本来排泄物とは体外へ排出するものであり、紙おむつ内に留めておくものではありません。紙おむつ内の排泄物は陰部周囲を汚染し、時には健康を大きく損なうおそれもあります。
そもそも排泄物には多量の菌が付着しています。そのため排泄口である陰部や肛門の周囲は非常に感染トラブルの多い箇所です。代表的な陰部周囲の感染症に尿路感染症が挙げられます。尿路感染症は陰部周囲を不潔にしている場合に雑菌が尿路へ侵入することで感染し、高熱を出すことが特徴です。高齢者の場合は肺炎等の危険な二次感染を招くこともあります。紙おむつを着用している方は排泄物が漏れ出ないように陰部周囲で受け止めている状態ですので尿路感染症のリスクは飛躍的に高まります。
また、紙おむつ内で排泄すると排尿によるムレや便の皮膚付着などで皮膚が爛れやすくなり痒みが生じる、真菌感染症にかかる、褥瘡が発生する等の皮膚トラブルも起こりやすくなります。
介護が必要になった方々すべてに言えることですが、特に排泄の自立が困難になった方々は、陰部の清潔を保つことは健康を保つことに直結するのです。
介護職が行う陰部洗浄
介護を必要とする方々の中でもトイレへ行けないので紙おむつを着用している、ベッド上での生活で入浴することが困難といった方々の陰部の清潔を保つことは介護職にとっても非常に重要なケアであり、陰部の清潔保持のために行うのが陰部洗浄です。
陰部洗浄とは文字通り自力での陰部の保清が困難な方の陰部を洗浄し、清潔を保つために提供するケアのことです。
主にベッド上で行うことが多いケアですが、場合によっては認知症を有する方が便失禁された時などにトイレ内で陰部洗浄を実施することもあります。
頻度は陰部洗浄を要する方々の環境によって差はありますが、最低でも1日に1回、尿路感染症や褥瘡のリスクが高い方々によっては排泄交換のたびに実施することもあります。介護現場で陰部洗浄を実施するのは介護職が多いため、陰部洗浄の効果的な実施方法や陰部洗浄の必要性をしっかり理解しておく必要があります。陰部洗浄を要する方が、どれくらいの頻度で、何のために陰部洗浄を行うのか医療職と緊密に連携してチームでケアする姿勢が求められます。
陰部洗浄の方法
陰部洗浄の方法として、一般的なベッド上での陰部洗浄の手順について解説します。
必要物品の準備
陰部洗浄は排泄交換と同時に行うことが多いため、必要な物品をすべて用意して実施することが大切です。その都度物品を用意するために現場を離れることは利用者にとっては永らく陰部を露出したままになるので尊厳が傷付くことになってしまいます。そのために最初にしっかりと用意を整えておくことが重要です。
陰部洗浄に必要な物品は以下が一般的です。
- 使い捨て手袋数枚
- マスク
- 必要に応じてビニールエプロン
- 交換用のおむつ
- 洗浄剤(石けん水や泡タイプの洗浄剤など)
- 39度程度のお湯を入れた陰部洗浄用のボトル
- 清拭用タオル
- おしり拭き
- ティッシュ
- 防水シーツ
- 下腹部の目隠し用タオル
- 処理用のバケツ
基本的な実施方法
防水シーツを敷く
陰部洗浄はお湯を用いるためベッド周囲を濡らしやすいです。ベッド上の清潔を保つためにも、予防として防水シーツをお尻の下に敷きます。防水シーツがない場合はバスタオルを2重にして敷きましょう。
仰臥位でおむつを開く
陰部洗浄は陰部を洗うだけでなく陰部周囲も清潔にすることが大切です。鼠径部等のしわになりやすい箇所を確実にキレイにするためには仰臥位で少し足を開いていただくことが望ましいです。仰臥位が困難な方については側臥位で実施します。しかし側臥位での実施は利用者に腹圧がかかりやすく陰部洗浄の刺激が排尿を促すこともありますので注意が必要です。またおむつを開く際には保温と羞恥心への配慮のためタオルで目隠しをしましょう。 陰部洗浄は排泄交換時に実施することがほとんどですので、おむつを開いた際に便等の汚れがある場合は、先におしり拭きで汚れを取り除くとよいでしょう。
陰部洗浄の実施
陰部洗浄の実施手順はまず陰部をボトル内の湯で濡らす、洗浄剤で洗う、泡タイプの洗浄剤の場合は泡を拭き取る、そしてボトルの湯で流す、最後に清潔なタオルで水気を拭き取るといった手順です。洗浄剤は様々なタイプがあり、ボトル内の湯と混ぜるものや泡タイプのものなどがありますので、介護施設や在宅の現場で用意されているものにもすぐ順応できるよう基本的な対応方法を把握しておくことが求められます。
陰部周囲の洗浄が終わったら、側臥位を取り臀部、肛門周囲の陰部洗浄を実施します。手順は陰部と同じです。
もし陰部洗浄の際にお湯が身体やベッド周りに飛んでしまった場合は、ティッシュですぐさま拭き取るとよいです。身体の場合は清潔なおしり拭きでもよいですが、ベッド周りの場合は水気のあるおしり拭きよりティッシュのほうが使いやすいです。
新しいおむつを着用して終了する
陰部洗浄を実施する際はおむつカバーもできる限り新しいものに交換することが望ましいです。排泄物で汚染されていないように見えても排泄した際の臭いや菌は付着していることが多く、汚れていないからといってそのまま再利用してしまうとせっかくの陰部洗浄が無駄になってしまいかねません。
男性利用者の場合の注意点
男性利用者の陰部洗浄を実施する際の注意点は、陰茎の亀頭部周囲、陰嚢の裏側をしっかりと洗浄することです。男性の陰部の汚れ、恥垢は亀頭部に溜まりやすく普段は包皮に包まれていることが多いため表面を洗っただけではなかなかキレイにできません。また陰嚢の裏側は肛門近くと陰嚢が重なり非常にムレやすくなっています。不潔なままで放置していると赤く爛れて痒みを生じやすい箇所ですので丁寧な洗浄が求められます。
女性利用者の場合の注意点
女性利用者の陰部洗浄を実施する際の注意点は、大陰口、小陰口の間にしわができ恥垢が溜まりやすいため、しっかりと開きながら洗浄することです。もう一点男性と大きく異なる点が拭き取りの方向です。女性利用者の場合は必ず陰部から肛門に向かって拭き取ることが大切です。女性の陰部は粘膜が露出した形であるため肛門周囲から拭き取ってしまうと雑菌が粘膜に触れやすく不衛生です。陰部洗浄だけでなく排泄交換の際の清拭でも必ず肛門に向かって拭き取るようにしましょう。
陰部洗浄で気を付けること
男女ともに陰部洗浄を行う際に気を付けたいポイントを解説します。
陰部はこすらない
陰部は非常に繊細です。汚れを落とそう、キレイにしてあげようと考えてゴシゴシとこすってしまうとかえって皮膚が荒れてトラブルの元になることもあります。手袋を着用する場合は指の先ではなく指の腹で、タオルを使用する場合は力を入れずに優しく円を描くように洗浄するとよいでしょう。
お湯はゆっくりとかける
先述の通り、陰部は非常に繊細かつ敏感なため、陰部洗浄ボトルでお湯をかける時は強い水流を当てるのは厳禁です。可能な限り、介護職員の手を介してお湯をかけるようにしましょう。また強い水流を当ててしまうとベッド周囲や利用者の身体にお湯が飛び散ってしまうこともありますので注意が必要です。
陰部洗浄ボトルは専用のものも販売していますが、ペットボトルを加工したものを使う介護事業所も多く見られます。フタに千枚通しで数箇所穴を開けるとシャワーのように使用でき一気に出てしまうことがなくなります。ペットボトルに取り付ける園芸用のシャワーも有効です。
羞恥心に配慮した声掛け
陰部洗浄は自力で陰部周囲の保清ができない方に対して大切なケアですが、陰部洗浄される本人にすると自身の陰部を他者に洗われる行為です。人によっては強い羞恥心を覚えるでしょう。陰部洗浄を行う時は「汚いから洗いますよ」という声掛けは厳禁です。利用者は誰しもが汚くしようと思っているのではありません。できることなら自分でしているはずの行為が何らかの事情でできないだけなのです。私たちが自分の陰部を他者に晒すことに強い羞恥を感じるように、自力で保清できない方も強い羞恥を感じていると考えた声掛けはとても大切です。認知症を有する方はその羞恥心から拒否される方も大勢いらっしゃいます。その際は行動を制する、理屈で説得するのではなく、「洗ったら気持ちいいですよ」といったメリットを感情として想像できる声掛けや、手が動く方であれば実際にボトルを持ってもらい自力で陰部を流してもらうことも有効です。
特に男性職員は女性利用者に対して声掛けひとつが強い拒否感に繋がることもありますので、恐怖感、威圧感を与えないよう落ち着いた声色や声の高さ、ゆっくりと話す、笑顔で話すといった丁寧な応対が求められます。
皮膚観察をしっかり行う
陰部洗浄は陰部を洗浄するだけでなく、陰部周囲の皮膚を観察できる非常に重要な機会です。陰部周囲や臀部の皮膚トラブルは発生してからの対処ではなく、発生前にリスクを発見し予防することが何よりも大切なため、陰部洗浄の際は陰部周囲に発赤がないか、臀部に褥瘡の予兆はないか、鼠径部は赤くなっていないか、痒みを訴える箇所はないかなど観察をしっかりと行いましょう。
もしすでに褥瘡が出来ている場合は、褥瘡の創傷部を強くこすることは褥瘡の治癒を遅らせてしまいます。褥瘡の周囲の皮膚を清潔に保つことはとても重要ですので極めてやさしく洗いましょう。
皮膚観察の結果気付いたことは必ず医療職に報告し共有することも大切です。陰部洗浄はただの業務ではなく、利用者の健康を守るためのチームケアでもあることを意識して取り組むことが重要です
まとめ
陰部洗浄は自力で陰部の清潔を保つことができない方の健康を支える非常に大切なケアです。同時に陰部洗浄は非常に羞恥心を強く感じさせる行為でもあるため、介護職は陰部洗浄の実施手順や注意点をしっかりと把握し、利用者に安心感を与えるとともに健康維持のための重要なケアであることを意識したチームケアであると捉えましょう。
当コラムは、掲載当時の情報です。
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その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。