NDソフトウェア株式会社
NDSコラム

介護支援ソフト「ほのぼの」シリーズのNDソフトウェアです。介護業界・障がい福祉業界の、トレンドや情報を発信しております。

介護事業所の倒産が過去最多の今、求められる事業所の対応

2023/04/12

ここ数年、新型コロナウイルスの世界的流行や国際情勢の悪化からの原油代高騰など世界全体が不安になる出来事が多発しています。日本もその影響は大きく、経済の停滞や相次ぐ値上げラッシュが家計を圧迫し、多くの人が苦しんでいます。介護施設や介護事業所も例外ではなく、例年にないペースで倒産する介護施設、介護事業所が増えています。介護施設の倒産はサービスを利用する高齢者にとってどのような影響が出てしまうのでしょうか。また、事業を終了せざるを得ない介護施設、介護事業所はサービスの利用者にどのような対応を取るべきなのでしょうか。今回は介護施設の倒産について解説します。

2022年の介護施設の倒産数が過去最多を記録

東京商工リサーチが1月11日に発表した情報によると、2022年の介護事業の倒産件数は介護保険制度が始まった2000年以降で最多の143件(前年比76.5%増)を記録したとのことです。2022年以前で最も倒産件数が多かった年が2020年で件数は118件でしたのでそれと比較してもかなりの倒産件数の増加であることが分かります。介護事業所別に見るとデイサービスが最も多く、次いで訪問介護の順でした。

倒産の理由として最も多いと見られるのが、新型コロナウイルスの影響です。収束が見えず先行き不透明な状況から利用者の利用控えから来る収益の減少や、新型コロナウイルスへの対策コストが経営を圧迫したものと見られます。

新型コロナウイルスが世界中に蔓延したのが2020年のことであり、2020年はその影響から倒産件数が急増したのですが、助成金等の支援策が功を奏し翌2021年には倒産件数は大幅減に転じたはずでした。しかし対策コストを介護サービス料金に反映できない、人員が確保できない等の反動が増したことで2022年、過去最多の倒産件数に繋がってしまったものと考えられています。

多くの介護事業所が経営難に苦しむ

倒産を免れた介護施設、介護事業所も決して余裕のある経営ができているとは言えません。今もなお多くの介護事業所が経営難に苦しんでいると見られます。

倒産理由として先述した新型コロナウイルスの影響ももちろんありますが、そのほかにも原油代の高騰、相次ぐ値上げラッシュが介護事業所の経営を大きく圧迫しています。

特にデイサービスおよび認知症対応型デイサービスでは約半数、つまり2件に1件は赤字経営に苦しんでいます。デイサービスの不調が顕著である理由は、デイサービスの数が飽和状態にあるかもしれないと考えられており、事業所数が多いことで利用者が分散しているところへ新型コロナウイルスの影響から来る利用控えが直撃した形です。

また介護事業所が経営難に苦しむのは利用者数の減少だけでなく、経営コストの増加も大きく影響しており、特に光熱費の高騰と人件費の上昇が顕著に影響しています。人材獲得のために人件費を上げたとしても、介護業界は増えたコスト分をサービス費用に転換することが難しい業界です。介護報酬の基本単位は一律で決まっており光熱費のコストや人件費のコストが上昇しても収益は変わらない事態が発生しているのです。新型コロナ対策にかかるコストや物価高、人件費の上昇の上り幅に介護報酬の対応が追い付いていない状態であるともいえます。特に老人保健施設や特別養護老人ホームといった大規模な介護施設はその規模に比例して人件費等のコスト負担が増し多くの介護施設が経営難に陥っていると見られ、経営難から倒産に至る施設が増えるのではとの見方もあります。

以上から考えて2023年も前年に引き続き介護事業所の倒産や事業の売却、合併を図るM&Aは多くなると見られています。

介護事業所が倒産すると利用者はどうなる

ところで、介護事業所が倒産した場合利用者はどうなるのでしょうか。

もちろん他の介護事業所を利用すればよい話なのですが、実は現状はもっと深刻です。

介護事業所が倒産する主な理由は先述した通りコストの上昇が収益の増加を上回るためですが、もうひとつ介護事業所が思うように収益を伸ばせない理由として、人材不足が関係しています。介護事業所の規模に対し職員数が不足していると、いくら利用者を受け入れる余地があったとしても、サービスを提供できる人員が足りなくなってしまいます。場合によっては利用者の数が増えたことで人員基準を満たせなくなる事業所もあります。

こうした事情により倒産を免れた介護事業所でも新たに利用者を受け入れられる幅には限界が生じ、倒産した介護事業所を利用していた方は次の介護事業所が見つからないという事態が発生してしまうのです。そうなってしまうと介護を必要とする方が日常生活を送るために必要な介護サービスを受けることができなくなるため日常生活の継続は著しく困難になってしまいます。

閉業せざるを得ない時、介護事業所側に求められる対応

介護施設や介護事業所が倒産してしまった場合、利用者は場合によっては必要な介護を受けることができなくなってしまいますが、閉業せざるを得ない状態となった介護事業所からすると、非常につらいところでしょうが致し方ないことであるともいえます。

しかし大半の利用者は閉業が決まってからサービス終了の事実を知ることが多く、大きな不安を抱えることもしばしばです。

介護事業所は、閉業せざるを得ない事態になったとしても、利用者が望む生活を継続するために必要な介護サービスを受け続けることができるよう、最善の処置は尽くす意識が求められます。

介護事業所の閉業を考えた際にまずすべきことは、指定を受けている自治体への相談です。閉業を考えていることを伝えた後、実際に閉業する1ヵ月前までに届け出を出す必要があります。自治体によってはその中に利用者の受け入れ先も明記しなくてはならない場合がありますので、閉業を決定してから受け入れ先を探すのは時間が足りないことがほとんどです。閉業の検討はしっかりと時間をかけ、計画的に行う必要があるでしょう。

しかし、順調に利用者の新規受け入れ先が決定したからといっても、介護事業所としての務めは不十分といえるでしょう。介護サービスの役割とは、利用者の生活の継続と安定です。これはただ利用者の次の受け入れ先や次のサービス提供事業所が決まったからといって解決することではありません。ケアプランに則り、利用者のアセスメント結果から必要な支援を導き、利用者本人の性格や生活環境を考慮して最適な支援方法を決めて、本人の望む生活を継続しています。閉業後に新たな介護サービス事業所が決まったとしても、今まで行ってきた支援が継続できなければ、利用者にとってはマイナスです。閉業を決めた段階からすぐに利用者へ閉業することを伝えるとともに、本人や家族、ケアマネージャーと相談しながら受け入れ可能な事業所を探したり、今までの支援の経過やアセスメント内容等の情報を提供し、新しい事業所にスムーズに移行できるようにするのが最後の務めといえるでしょう。

そしてもうひとつの選択肢として考えるべきはM&Aという選択です。閉業を予定している事業所は逆に言えば今は開業できているわけです。介護事業は立ち上げから利用者の確保やノウハウの確立まで比較的長い時間を要します。介護事業所としての基盤がすでに整っている状態を引き継ぎ、介護事業に参入したいと考えている個人や企業は今でも多く見られ、条件の折り合いがつけばと考える人も多いでしょう。現在の法人は撤退したとしても、基盤を別の法人が引き継いでくれるならば利用者にとっては混乱も少ないといえます。M&Aは民間で仲介しているところもあれば、日本政策金融公庫でもサポートしていますので相談してみるのもよいでしょう。

介護事業所の倒産を防ぎ、運営を継続するには

コロナや物価高の影響から閉業することは致し方ないこととはいえ、やはり介護事業を継続できることが利用者の望む生活を継続するための一番の解決方法です。今現在も経営に苦しんでいる介護事業所もおありかと思いますが、介護報酬が物価高やコロナ対応に必要なコストに対応することを待つのは得策ではありません。それよりも今の時代背景に則した体制や環境に変えていく方が現実的です。考慮すべき重要なポイントがコストへの対応ですが、まずは事業の運営にどれくらいのコストがかかっているのか詳細に洗い出し、必要なコストと、削減しないことが望ましいコストを明確にします。その中で削減できるコストがある場合は積極的に削減していくことが大切です。長年介護事業所を運営していると、形骸化されたコストが思った以上に出てくるものです。それらをすべて一新し、本当に必要なコストのみに絞ることで運営の負担を減らすことが事業継続の一助となるでしょう。

もうひとつは人員確保です。いくらコストを削減しても収益を増やす手立ても同時に展開しなければ苦しい状況は変わりません。人員確保のために重要なことは、もちろん待遇面のこともありますが、何よりも人間関係です。介護業界は決して賃金が高い業界ではありませんが、離職率の高さ、定着率の低さに繋がっている一番の理由は人間関係にトラブルを抱えやすいことです。逆を言えば、人間関係のトラブルが少ない事業所は、職員にとって働きがいのある職場です。職員が働きがいを感じてくれることは、接遇面などおのずとサービスの質にも寄与します。介護職員が働きやすくし人間関係を良くするためには法人の理念を明確にする、事業目標を見える形にする、情報共有を密にできてチームケアが促進される環境ができている、職員一人ひとりに合った働き方の選択肢がある、報連相の風通しが良いなど多岐に渡りますが、管理者から現場職員までみんなが働きやすい職場であるか全員で話し合い、改善の必要があれば抜本的に改革することも事業の継続には必要でしょう。そしてそれらの企業努力はすべて利用者への質の高いケアに繋がっていきますので、苦しい中でもピンチをチャンスと捉えてみることも大切です。

まとめ

2022年は介護事業所の倒産が過去最多となり、今もなお経営に苦しむ事業所が多いとは思います。しかしコロナ対策や物価高は今後も続くものと考え、今の環境で事業を継続するためにコストの見直しや人材確保ができる事業所のあり方を再度考えてみる時期であるともいえるでしょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

参考URL

昨年の介護事業者の倒産、過去最多143件 前年比8割増 優勝劣敗の荒波、より鮮明に

コロナ禍と物価高で急増 「介護事業者」倒産は過去最多の143件、前年比1.7倍増~ 2022年「老人福祉・介護事業」の倒産状況 ~

ほのぼのNEXT

介護事業者さまの現場をサポートする「ほのぼのNEXT」は、事業所様の運用に合わせて機能を選んでご使用いただけます。
まずはお気軽にお問い合わせください。

ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

PAGE TOP