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介護事業所の入浴における浴槽内のお湯の取り扱いについて

2023/07/24

介護サービスは、介護を要する方々への日常生活上に必要な支援を提供する仕事です。
特別養護老人ホームや老人保健施設といった入所型施設や、通所介護や短期入所生活介護といった在宅サービスなど、多くの介護サービスで提供する支援に入浴があります。
施設規模によっては1日に数十名の方が入浴されることもあり、介護事業所の水道光熱費における入浴が占める割合は多いといえます。
少しでも節約したいと考える介護事業所では、浴槽の残り湯の活用など節約方法に苦慮されている事業所もあることでしょう。
しかし基礎免疫が低下しやすい高齢者や障がいを有する方に入浴を提供する介護事業所では、そのお湯や残り湯の扱いに注意を払わないと、思わぬトラブルになることも。
そこで今回は介護事業所の入浴業務におけるお湯の取り扱いの注意点について解説します。

要介護者のニーズに多い「入浴」

介護を必要とする方々が介護事業所に望むサービスは、その方の生活スタイルによって様々ではありますが、多くの利用者、その家族の介護ニーズとして常に上位に挙げられるサービスが「入浴」です。

幼少期から現在に至るまで、私たちにとって入浴は日常生活に深く根差した行為といえ、特に日本人は毎日のように入浴することが自然と捉えている方も多いほどお風呂好きな方が多いといえます。そして、私たちは服の着脱、洗髪、洗身、浴槽への出入りといった入浴に関わる行為を長らく人の手に依らずに自力でやっています。

しかし、介護を必要とする状態になるとそうはいきません。服の着脱から浴槽への出入りまで多くの入浴行為に他者の手を要することになります。自力でできなくなった場合、入浴を諦めることが適当かといえば、それも不適切です。

入浴には皮膚の表面の汚れを落とし清潔を保つ、陰部の保清を図ることで尿路感染や皮膚トラブルを避ける、温かいシャワーや浴槽へ浸かることで身体を温め血流の促進を図る、静水圧作用や温熱作用、浮力作用により心身のリフレッシュを図るなど、非常に多くの良い効果があるためです。

先述の通り、私たち日本人の多くは毎日入浴することを基本的な考えと持っている方が多く見られます。それほどに日本人は世界的に見てもお風呂好きの文化なのです。介護が必要な状態になってもお風呂に入りたいとのニーズは大変根強く、入所型施設や通所介護などの通いサービスでも入浴を楽しみに利用される方がとても多くいらっしゃいます。

入浴を提供する介護事業所の介護職員は、利用者が入浴することにどれほどの楽しみを抱いているかを意識して入浴を提供することが大切です。

介護事業所の入浴業務は忙しい

利用者からのニーズの高い入浴は、介護事業所にとっては非常に忙しいといえる業務です。一般的に介護業界では利用者が週に2~3回の入浴ができるようにサービスを提供します。特養などの入所型施設ならば利用者ごとに1週間の入浴日を設定する、通所介護では週の利用回数や曜日によってその方の入浴日を固定するなどして利用者に入浴を提供しているところがほとんどかと思います。それでも事業所の規模によっては一度の入浴業務で20名以上が入浴する場合もしばしばです。例えば定員50名の特養であれば、週に2回の入浴ならば述べ100回/週です。それを1週間で割ると平均して1日14名前後は入浴していることになります。さらに入浴業務に割り当てられる時間も決して長くはなく約2~3時間で入浴を行うところが多いのではないでしょうか。つまり事業規模が大きくて入浴対象の利用者が多い事業所ほど、非常にバタバタした動きになってしまいがちです。

では事業規模が小さいところは楽かと言われると、これもそうではありません。当然利用者数が少ないのであれば入浴される方の数も少なくなりますが、そもそもの職員数が少なくなるため、入浴業務にあたることのできる人員も少なくなります。例として1ユニット9名のグループホームでは、入浴者3名を職員1人で対応することが一般的です。やはり時間に追われてバタバタしやすいのです。

浴槽のお湯の取り扱い

このように非常に忙しい介護事業所の入浴では、浴槽のお湯の取り扱いについて様々な方向性があります。というのも、介護事業所の入浴では浴槽にお湯を張る、シャワーで頭や身体を洗うなどお湯を使う機会が非常に多いため、水道光熱費がとても多くかかってくるという実情があり、なるべくなら節約したい箇所でもあります。しかしそれと同時に基礎免疫力が低下しやすい高齢者や障がいを有する方の入浴では、過度の節約が感染を招いたり、利用者のクレームに繋がったりする場合もあります。利用者の大きな楽しみでもある入浴ですので、介護事業所は色々な考えで入浴の満足度を上げようと努力しています。以下に一例を見てみましょう。

お湯を利用者ごとに入れ替える

利用者一人ひとりの入浴のたびに、浴槽のお湯をすべて新しい湯に入れ替えます。利用者は常に新しいお湯ですので非常に衛生的といえます。入浴サービスを介護事業所の特色として打ち出している事業所に多く見られ、利用者の入浴への満足度を最大限に高めた結果といえるでしょう。しかしこれらの実施の条件になるのは利用者一人がひとつの浴槽にて入浴する「個別浴槽」が必須です。利用者宅に訪問して持参した組み立て式浴槽で入浴を提供する訪問入浴サービスは間違いなくこの形ですが、通所介護や特養などに多く見られる複数人が一度に入ることのできる「大型浴槽」では利用者ごとに入れ替えるタイミングを計ることも困難ですし、入れ替えるのに膨大な時間を要します。個別浴槽はお湯を抜く、入れるが比較的短時間でできることもあり、小規模な事業所で多く用いられているほか特養など大規模な事業所でも採用されているところも多く見られます。デメリットとしては、いかに短時間とはいえお湯の入れ替え時間が発生するため、入浴業務の時間がどうしても長くなることです。

お湯を入れ替えない

一度の入浴業務で浴槽に張ったお湯を、入浴業務の終了まで使い回します。どちらかといえば一度に5名以上が入ることのできる大型浴槽で入浴サービスを提供している事業所に多く見られます。大型浴槽では浴槽に張る湯の量が膨大なため、少々は汚れが気になりません。入浴は必要不可欠なサービスであり大量の湯を使うことは避けられないコストであるため、お湯を入れ替えないこともコスト削減としてひとつの選択肢ではあります。

しかしデメリットとして、やはりあまりに大人数の入浴となると皮膚の落屑や髪の毛などが湯の表面に浮き、お世辞にも気持ちの良い見た目ではなくなることです。あとに入る人ほど不快な気持ちを抱きやすいといえるでしょう。

お湯をオーバーフローさせて使う

先述した2通りの方法のちょうど中間をとった方法で、お湯を入れ替える時間と、なるべくお湯の清潔を保ちながらコストもできるだけ削減したい場合によく用いられる方法です。浴槽には常に流量を調節したお湯を流し続け、表面を溢れさせることで浮いた汚れを流します。すべて入れ替えるのに比べ待機時間は発生せず、まったくお湯を入れ替えないよりは清潔です。湯の温度は時間とともに下がっていくため、適宜様子を見ながら温度を調節できるのもメリットといえます。

感染対策とその対処法

介護事業所で入浴する方は高齢の方や障がいを有する方であり、銭湯や温泉といった一般的な公衆浴場と比較すると、やはり医療的に気を付けたい点がいくつかありその代表が感染症です。高齢者や障がいを有する方は何かしらの基礎疾患を持っている場合も多く、感染に対しての免疫力が低下する傾向があります。そして浴室や浴槽は温度と湿度が高く、皮脂汚れといった栄養が豊富なため、感染性の菌が繁殖しやすい環境にあります。すべての感染症に配慮する必要がありませんが、浴槽内だからこそ気を付けるべき感染症を紹介します。

レジオネラ

浴槽内で感染のリスクが高い代表格がレジオネラです。

レジオネラは自然界の土壌に生息し、レジオネラによって汚染された空調冷却塔水等により、飛散したエアロゾルを吸入することで感染します。その他、施設内における感染源として多いのは、循環式浴槽水、加湿器の水、給水・給湯水等です。循環式浴槽とは浴槽の排水を下水に流すのではなく、ポンプで吸い上げろ過することで循環させ再利用する浴槽です。お湯の中の不純物をろ過して使い回すのですから、経済的といえます。

しかし循環式浴槽はその管理を怠るとレジオネラが繁殖しやすいため、介護事業所での使用は控えたほうがよいでしょう。浴槽内に吐水口と吸水口がある、24時間入浴できる環境である、ポンプがあるといった場合はほぼ循環式浴槽であるといえますし、機械浴にも循環式浴槽を採用しているものもあります。もし現時点で循環式浴槽をお使いの場合であれば、1週間に1度は消毒をすることが推奨されています。しかし万が一の感染が発生した際はレジオネラ肺炎という二次感染を起こし死に至ることもあります。できうる限りは入浴終了後に毎回消毒処置をすることが確実でしょう。

消毒方法として有効なのが塩素消毒です。一定濃度の塩素を浴槽内の循環装置内を数時間循環させることでレジオネラ菌を死滅させます。しかし消毒したあとの残留塩素には注意が必要であり、どれくらいの量の塩素を入れればよいかはタンクの湯量によって異なります。もし循環式浴槽をお使いの事業所でしたら、管轄の保健所に確認することが望ましいです。なお、年に1回以上は水質の検査を受けることが望ましいとしていますので、定期的に検査を受け安全を確保することが必要でしょう。

循環式浴槽を使用していない事業所であってもレジオネラの繁殖がないわけではありません。清掃を怠っている、湯を抜かずに洗濯などに再利用しているなどを日常的に行っている場合、レジオネラ菌は繁殖の可能性があります。入浴業務終了後は常に湯を抜き、浴槽内をしっかりと清掃しましょう。

疥癬

疥癬とは、免疫力が低下した方の角質にヒゼンダニが寄生する感染症で激しい痒みや痛みを伴うこともあり人から人へと感染するリスクがあります。ベッド上で過ごすことが多い方の環境が不衛生なことで発症することが多く、治療には長時間を要することもしばしばです。疥癬が疑われる方は皮膚の清潔を保つことが重要ですので入浴はできる限りはした方がよいですが、他者への感染リスクを考えると感染疑いの方が使用したお湯やタオル類等は他者に触れないことが適切です。ですので入浴の順番を一番最後にし、入浴が終了したあとの湯は必ず抜き浴槽を徹底的に洗浄することが有効としています。特に消毒までは要さないとの見方もありますが、アルコール消毒をしたほうが疥癬だけでなくその他様々な菌の消毒に有効なため実施したほうがよいでしょう。

なお、使用したタオル類やシーツ等は50℃以上のお湯に10分 以上浸すか、大型の乾燥機で20~30分処理すればヒゼンダニを死滅させることができます。

その他の感染症

梅毒やMRSA、C型肝炎といった要介護者に見られる感染症が浴槽内のお湯を介して感染するリスクは一般的に低いと見られていますが、高齢者や障がいを有する方は免疫力が低下しているだけでなく、褥瘡等の皮膚状態悪化により粘膜感染を起こしやすい状態にあることも多いため、油断は禁物です。血液感染や接触感染が感染経路である場合、やはり入浴の順番を最後にし、他者と湯の共有は行わないよう注意が必要です。

残り湯の使用はせず、清潔を保つことが重要

介護事業所では入浴にかかる水道光熱費は多くの割合を占めるため、できることなら入浴に使用したお湯は洗濯やその他湯水を使うことに置いておきたいと考えるのも理解できますが、結論的には介護事業所で残り湯を使用することは一切行わないことが適切です。

先述の通りですが、浴槽内の水は毎度入れ替える事業所であれ、使い回す事業所であれ最後には必ず誰かが入浴しています。その方の皮脂汚れ等を栄養に、温かく湿った湯の中はレジオネラをはじめ真菌が発生しやすい環境にあることはお分かりいただけたかと思います。

洗濯に使用する場合、当然高温処理などはされず塩素消毒もされません。微量ながらもレジオネラが繁殖していた場合、その感染源をどんどん広げることに繋がってしまいます。 どのような理由であっても入浴した後の湯を再利用することは介護事業所の標準的な感染対策として厳に慎みましょう。

そしてもう一点重要なことが清掃の徹底です。浴槽内やその排水口、給水口の清掃が不十分なままだと、溜まった湯垢や皮脂汚れが膜を形成し、その中でレジオネラをはじめとする真菌が繁殖しやすい環境構築の手助けをします。入浴後は、細部に至るまで毎回しっかりと洗浄し清潔な状態を保つことが感染を防ぐための最低限の備えです。非常に忙しい入浴業務を終え通常の業務に戻ろうとする時、仕上げである清掃は不十分になっている事業所もしばしば見られます。何のために清掃をするのか、どこをきれいにすることが重要なのかを入浴に関わるすべての職員間で共有し、浴槽および浴室の保清を保つ意識を高めることがとても重要です。

まとめ

要介護者の中でもニーズの高い入浴サービスは、その浴槽内の湯の取り扱いに細心の注意を要します。水道光熱費との兼ね合いもどうしても頭に残るでしょうが、利用者の満足度を上げるため、そして感染のリスクを下げるためには常に清潔な湯、浴槽での入浴を提供できるよう今一度入浴環境を見直してみるのもいかがでしょうか。

当コラムは、掲載当時の情報です。

参考URL

循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルについて

高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版

疥癬とは

入居型高齢者施設における日常的な入居者介助のための感染対策手順書

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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