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介護事業所のペーパーレス化に向けた効率的な推進方法
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介護事業所の業務は利用者の健康状態や観察結果、行ったケアを記録に残す必要があるため、毎日非常に多くの紙を使用します。その他にも送迎表、入浴や食事の管理表など日々のサービスを円滑に提供するためや契約書類、提供票、報告書など運営に必要な書類などのほとんどを紙媒体でやり取りしている事業所は今もなお多いでしょう。しかし紙媒体での記録は保管場所が必要であり、災害時の消失への懸念などから近年、ペーパーレス化が推奨されております。業務に大量の紙を使用する必要がある介護事業所にはペーパーレス化は重要な課題です。
しかし、ペーパーレス化といっても何から始めればいいのか、どのように推進していけばよいのか分からず着手できない介護事業所も多いと思います。
そこで今回は介護事業所がペーパーレス化するメリットと、ペーパーレス化の推進方法について解説します。
ペーパーレス化とは
ペーパーレス化とは、その名の通りペーパーを無くすことであり、一般的には紙媒体で行っていた業務を電子化して活用することを指します。
介護業界でも近年はDXが求められ既存の業務のデジタル化やペーパーレス化が推進されており、介護ソフトをはじめとした記録等の介護業務を電子化するソフトが多く登場しています。
ですが、介護事業所は介護事業所同士だけでなく病院や行政等とも情報のやり取りをする必要があり、紙媒体がもっとも手軽で確実な方法として定着しています。
また介護業界は幅広い年齢層の職員が従事することもデジタル化がなかなか進まない要因のひとつになっています。
しかしペーパーレス化を推進することは、慢性的な人材不足である介護事業所の業務を効率化し職員の負担を減らし、利用者へのケアの質の向上に繋げることができるため積極的に推進することが求められています。
ペーパーレス化のメリットとリスクについて
介護事業所がペーパーレス化を図ることは多くのメリットがあります。しかしペーパーレス化を推進する以上は知っておいた方がよいリスクも存在します。リスクは事前に理解し対策を立てておくことで回避が可能です。
メリット
事業所の省スペース化
介護事業所の記録類は毎日必要な上、自治体により差異はありますが最後の利用日から5年間は保管義務がある場合がほとんどです。そのため利用者数とサービスを提供した日数分、保管義務のある用紙は増え続けます。これらの書類を保管しておくには相応のスペースが必要になり、大きな倉庫がない事業所では保管場所に苦慮します。
ペーパーレス化で大半の記録をデジタル化すれば、情報は紙ではなくデータとして保存されるため、保管に場所を取らず省スペース化することができます。事業所内がすっきりと片付いていることは、不慮の事故の予防にも繋がるなど利用者、職員双方の安全面でも重要です。
印刷にかかるコストの削減
毎日大量の紙を使用する介護事業所は、記録に必要な様式や契約書や重要事項説明書等の書類、業務日誌や報告書などを毎日印刷します。
紙の消費量だけでなく印刷機のインク代等もコストとしてかかりますし、印刷するための操作や印刷そのものにかかる時間的なコストもかかります。
ペーパーレス化は事業所内の業務に必要な基本的な記録や書類はデジタル化されるため自治体への提出などで印刷をしなければいけないものだけ印刷するなど、印刷の有無を取捨選択できます。必要最低限の印刷で済むため印刷にかかる費用や時間的なコストの大半を削減することができます。ペーパーレス化により印刷に関わる業務を見直すことで印刷コストの削減だけでなく、業務自体も整理することができるでしょう。
情報参照の効率化
ケアの現場では、利用者の健康状態やADLの小さな変化に気付き、ケアの成果の評価をしたり異常の早期発見に繋げるために過去の記録を参照することがとても重要です。
参照する記録は昨日のものであったり1年前の記録であったりとシーンに応じて様々ですが、過去のものになるほど紙媒体の記録の場合は該当する記録を探すだけでも大変です。
介護ソフトを活用した記録の電子化(orシステム化)により、過去の記録を簡単に検索し参照できるようになります。これにより、効率的な情報の参照が可能となり、利用者へ質の高いケアを提供することに役立ちます。
非常災害時のデータ保護
ペーパーレス化は、非常災害時に大切なデータを守ることに大いに役立ちます。
近年は地震や大雨等の自然災害が頻発しており、被害を被った際でも業務が継続できるようBCP対策を講じることが義務化となります。紙媒体の記録は火災や水害で簡単に消失してしまいやすく、また非常時に必要な記録をすべて持ち出すことは不可能と言え、ペーパーレス化を図りデータで管理することが必要です。さらに、データを事業所内のパソコンにデータを保管するのではなく、クラウドストレージを利用し、確実にデータを守ることが大事です。万一非常時でも業務を継続するための有効なBCP対策になります。
環境保護に繋がる
ペーパーレス化を図ることは紙の消費量を削減することに繋がり、ひいてはそれが環境保護に配慮した事業所であるとの評価にも繋がります。
近年はSDGsに取り組む企業が増加しており、紙の生産に必要な森林の伐採を抑制するためにもペーパーレス化が推奨されています。
大量の紙を使用する介護事業所だからこそ、ペーパーレス化に取り組むことでSDGsに積極的に取り組む事業所である姿勢を示すことができます。
リスク
一定の導入費用がかかる
ペーパーレス化は既存の業務のうちデジタル化が可能な箇所に介護ソフトをはじめとするICT機器等を導入するため、機器導入にある程度の費用がかかります。また導入してからもシステムに使用料や保守料などの固定費用は必要です。費用面のコストはかかりますが、ペーパーレス化により人的、時間的コストの削減が図れることは介護事業所にとってプラスになる部分も大きいでしょう。
ICT機器の操作に慣れが必要
紙媒体での運用は誰でも扱いやすいというメリットがありますが、ペーパーレス化はパソコン、タブレットのほか介護ソフトなどICT機器の操作にある程度の慣れが必要になってきます。幅広い年代の職員が働く介護事業所では、機器の操作に不慣れな職員もいるため思うように推進できない事態が発生しやすいのはリスクといえます。
またペーパーレス化を推進していくためには、ある程度機器の操作や仕組みに慣れた職員がいた方が効率的に進めやすくなります。そういった人材を育成する必要があることも理解しておくとよいでしょう。
機器トラブルの影響が大きい
ペーパーレス化はICT機器等を活用するため、停電や機器の故障といったトラブルには注意が必要です。また落雷で電源がショートして機器がすべて故障してしまうというリスクも存在します。一時的なトラブルであればその際だけ紙で運用して代替は可能ですが、機器の故障は業務に支障をきたすおそれもありますので日々のメンテナンスやデータ保護は定期的に行うことが求められます。ほかにもパソコンなどネットに繋がる機器ではコンピュータウイルスをはじめとするマルウェアに感染するリスクが生じます。最悪の場合はパソコンが操作不能になる、利用者の個人情報が流出するなどの被害が出ますので、こうしたマルウェアへの対策も必要です。
ペーパーレス化の推進方法
先述した通りペーパーレス化には一定のリスクは存在するものの、国が推奨するDXの実現や、介護保険制度で義務付けられたBCP対策になるなど、それに余りあるメリットがあります。さらに、令和6年度の介護保険報酬改定では、生産性向上推進体制加算が新たに設けられ、テクノロジーを導入し業務改善に取り組み成果が出ている場合に加算が算定できるなど積極的な活用が勧められています。
しかしペーパーレス化を実現させるには段階を踏んで計画的に進めないと、思うように運用できない事態に陥ります。
では、ペーパーレス化を効率的に推進していくためにはどのような方法が有効かを見てみましょう。
職員への説明と同意
ペーパーレス化を推進していくにあたっては、現場の合意形成が非常に重要です。書類作業が非常に多い介護事業所の業務で現場の合意を得ずにペーパーレスを導入すると、現場の混乱は免れません。
ペーパーレス化をスムーズに進めていくためには導入前から職員へ説明を行い、記録や書類の運用方法を変えていく必要があることについて理解してもらう必要があります。その際に意識したいことは、職員がペーパーレス化に前向きになれるような説明です。ただペーパーレスが求められているから…といった説明では紙媒体での運用に慣れた職員はなかなか納得できません。印刷にかかっていた時間が減らせて他の仕事に集中できる、過去のサービス提供記録や介護計画書などのデータを参照しやすくなることで仕事がしやすくなる、クラウドでバックアップを取れる場合は避難の必要が生じた際利用者の避難誘導に集中でき非常災害時の動きがスムーズになる、利用者の状態変化をデータで分析できるようになり利用者のケアの質向上に繋がるなど、職員目線から見たメリットをイメージできるよう説明することで理解を得やすくなるでしょう。
ペーパーレス化推進チームを作る
介護事業所がペーパーレス化を目指すことについてある程度の合意の形成ができたら、次に必要なことはペーパーレス化を推進するためのプロジェクトチームを作ることです。施設の状況によっては職員の合意や理解を得る前の段階からプロジェクトを組むこともあるかと思います。その際はまず合意、理解を得ることもプロジェクトの目的のひとつととなるでしょう。
ペーパーレス化は、長年紙媒体での運用に慣れた事業所ほど「この業務をペーパーレス化にどう対応すればよいか」という問題が多く出てきます。
ペーパーレス化を効率的に進めていくためには、様々な職種や立場の職員で協議しながら少しずつ進めると有効です。
業務の洗い出し
チームを立ち上げたら次にやることは、今現在の事業所の業務を洗い出し、ペーパーレス化する部分を決めることです。
ここで重要なことは、いきなりすべてをペーパーレス化する必要はないということです。紙媒体での運用から一気にペーパーレス化を図るとスムーズに運用できず逆に業務の質を大きく低下させることにも繋がりかねません。
業務の洗い出しは、今現在紙を使用している業務を明確にし、ペーパーレス化することが望ましい部分を抜き出すこと、そしてどの順序でペーパーレス化に取り組むか優先順位をつけることです。
それは最も紙の消費量が多い業務が優先的になるかもしれませんし、ケアの質向上に繋がる部分や、非常災害時の備えとなる部分が最優先かもしれません。また、一部の業務についてはペーパーレス化せずに紙媒体での運用を続けることが妥当であるとの結論でもいいのです。
できる範囲から無理なくペーパーレス化を進めていくために、業務の洗い出しは重要です。
必要なICT機器の選定と運用準備
ペーパーレス化を目指す業務の洗い出しが終わったら、次は環境整備です。目的とする環境の構築に必要な介護ソフトやパソコン、タブレットといったICT機器等の選定を行います。現段階で介護ソフトを導入していない事業所であれば、この段階で希望にあった介護ソフトを選定することになるでしょう。
事業所が望むペーパーレス化のイメージについて最も近い介護ソフトをいくつか候補に上げ、メーカーに相談してみましょう。
そして、介護ソフトが選定できたらいよいよ導入、運用に向けての準備です。
機器の操作方法の説明会や、現場の業務マニュアルの変更など導入に向けてのスケジュールを立てていきます。この際に大事なことは、余裕を持ってスケジュールを立てることです。
あまりに過密なスケジュールだと職員への操作説明が思うように進まない場合などのアクシデントひとつでスケジュール全体に乱れが生じます。計画通りにいかないことは常ですので、スケジュールに乱れが生じても修正できるよう余裕を持った期間を設定しましょう。
介護ソフトのメーカーによっては導入前のスケジュール作成や職員への説明会もサポートしてくれる場合がありますので、積極的に活用しましょう。
導入後の定期的な評価
導入が終わりいざ本格的に運用が始まったからも、しばらくはスムーズに運用できているか、想定と違ったところはないかを定期的に評価しましょう。
計画の段階ではスムーズに運用できるイメージであったとしても、実際に運用するとなっては業務の流れに慣れておらずうまくいかないことが多々出てきます。また計画の段階では気付かなかった問題点に運用段階で気付く場合もあります。
こうした場合に適宜調整ができるよう、導入後しばらくは現場の意見の取りまとめや職員からのヒアリングを行うことが有効です。例えば今までの記録はケースファイルを持ち歩けたが、ペーパーレス化されてパソコンで入力になったため効率が悪くなった等の意見が出た場合、必要に応じてノートパソコンの導入や、導入した介護ソフトがタブレット端末に対応している場合はその活用を検討するなどで現場の働きやすさはますます改善されていくでしょう。
またペーパーレス化する範囲を段階的に広げていく場合も時期を見極めるためには定期的な評価が求められます。事業所が目指すペーパーレス化が完了するまでは、計画→運用準備→導入→評価のサイクルを繰り返していくことになります。
まとめ
ペーパーレス化は介護事業所のDX推進と、義務付けられたBCP対策になるほか現場の業務効率化にも繋がり働きやすい職場、質の高いケアを提供できる職場づくりにも繋がります。
すべてをペーパーレス化する必要はありませんので、ペーパーレス化したい業務のできそうなところから始めていけるよう検討を始めてみるとよいでしょう。
当コラムは、掲載当時の情報です。
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その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。