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ACPとは?基本と推進の重要性を事例で解説
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2024/08/23
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2021年度介護報酬改定において、看取りへの対応にアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の取り組みが求められるようになりました。さらに、2024年度診療報酬改定では、入院医療や在宅医療の際にACPが義務化されました。
このように、介護や医療で推進されるACPですが、聞きなれない方もいるでしょう。
本記事ではACPについて知りたい医療・介護従事者に向けて、意味や目的、進め方を解説します。
ACPとは
ACPとはAdvance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング)の略で、自分で意思決定ができなくなる場合に備えて、人生の最期の過ごし方やどのような治療方法を望むのかを家族や医療・介護従事者と話し合い、共有するプロセスのことです。なお、厚生労働省は啓蒙活動の一環としてACPの愛称を募集し、「人生会議」を採用しました。
また、ACPは従来のリビングウィルや事前指示書を発展させた概念です。そのため、リビングウィルや事前指示書についても理解を深めましょう。
リビングウィルと事前指示書の違い
リビングウィル(Living Will)は、日本語で「生前の意思表明」を意味する言葉です。終末期に意思表示ができなくなった場合に備えて、延命措置や治療方法などに関する希望を文書に書き残すことを指します。例えば、人工呼吸器の使用や心肺蘇生の可否、食事を口から摂取できなくなった場合の対応方法などを記載します。
一方、事前指示書は自分が意思決定の能力を失った場合に、自分が望む医療やケアなどを意思表示するための文書です。文書に記載する内容は、代理意思決定者の指定や治療方法などの具体的な希望です。治療方法などの具体的な希望はリビングウィルに該当するため、事前指示書はリビングウィルを含む、より広い概念といえます。
このように、厳密には事前指示書とリビングウィルは違いますが、同意語として使われる場合もあります。
事前指示とACPの違い
事前指示書は(Advance Directive)を略してADと呼ぶため、ADとACPを混同するかもしれません。
ADは希望する治療方法などを記載した文書を指すのに対して、ACPは家族や医療・介護従事者と将来どのような最期を迎えたいかを話し合うプロセスです。
ACPの結果、ADを作成する流れになるため、ADのより広い概念がACPといえます。
事前指示書からACPに発展した背景
ACPをしなくても事前指示書やリビングウィルがあれば、意思表示ができない状態でも代理意思決定者が対応できると思うかもしれません。しかし、事前指示書やリビングウィルでは限界があります。
例えば、リビングウィルで具体的な治療方法を希望しようにも、そもそも将来起こり得る病気をすべて予想するのは困難です。また、さまざまな治療方法を理解していないと自分の望む生き方に沿った治療を選択することもできません。そのため、リビングウィルにすべてのケースを想定して書面に残すことは非常に難しいでしょう。
事前指示書においても同様に課題があります。それは本人が作成したときの気持ちや思いを代理意思決定者が理解しきれない可能性があることです。そのため、事前指示書で代理意思決定者が決まっていたとしても、本人の意思を尊重できるかは別問題となります。
アメリカでは実際に、事前確認書の有効性を検証したSUPPORT研究(A Controlled Trial to Improve Care for Seriously III Hospitalized Patients)が1995年に行われました。研究内容を簡単に説明すると9,000人以上の重症の患者を対象に、事前確認書を作成したグループと作成しないグループにわけて比較し、優位性を見つけるというものです。研究の結果、事前確認書の有効性は認められませんでした。
このような研究結果などから、事前確認書やリビングウィルに限界があると知られ、課題を乗り越えるための方法としてACPに発展しました。
ACPの目的や推進する重要性
「ACPはなぜ重要なの?」や「ACPの必要性は何?」などと感じる方もいるでしょう。そのような方に向けて、ACPの3つの目的を解説します。
本人の望みを叶える
介護現場でよくある本人の意思決定ができなくて困る事例は、食事を口から摂取できなくなった場合に、経鼻経管栄養や胃ろうの造設を選択するかどうかです。健康な方であれば、食べる楽しみをなくしてまで生きたくないと考える方も多くいます。
しかし、本人の意思表示が難しい場合に、経鼻経管栄養や胃ろう造設を拒否することは代理意思決定者にとって簡単な選択ではありません。
本人が少しでも長生きするために、最大限の医療を受けたいと考えているかもしれませんし、家族が長生きしてほしいと強く願う場合もあるためです。
どちらを選択するにしても代理意思決定者は、「本当に本人の望みを叶えられたのか」と葛藤を抱えるでしょう。
このような事態を避けながら本人の望みを叶えることがACPの目的です。そのため、ACPは本人が意思表示できるうちに、実施しておく必要があります。
家族の負担を軽減する
本人が意思表示できない場合、治療方針を決定するのは家族などの代理意思決定者です。しかし、本人の意思がわからないまま、治療方針を決定するのは精神的な負担となります。
介護現場でよくある事例は、心臓が止まった場合に心臓マッサージをするかしないかの意思を確認されることです。本人の命に直結する判断のため、ほとんどの代理意思決定者は、どちらを選択するにしても精神的な負担を感じるでしょう。そのまま安らかに眠らせてあげれば良いのか、それとも多少の苦痛を与えても延命すれば良いのか判断に迷うためです。
そこでACPにより事前に本人の意思を確認しておくことで、本人が意思表示できなくなっても治療方法を選択しやすくなり、家族や代理意思決定者の精神的な負担を緩和できます。
本人の思いを多くの関係者で共有する
ACPの特徴は家族や医療・介護従事者の複数人で話し合い、内容を記録に残して共有することです。本人の望みを予め関係者が共有しておくことで、万が一の際に家族間の意見が対立することを防げます。
介護現場でよくある事例は、代理意思決定者と遠方に住む家族の意見が対立し、医療やケアの方針を決められなくなることです。例えば、代理意思決定者は本人の望みを理解して延命を希望しない選択をしたくても、遠方の家族が本人の望みを知らずに延命を強く希望することがあります。
ACPを共有することは、このようなトラブルの発生を防ぎ、本人の望みを叶えることが出来るので、本人や家族の満足度を高めることにもつながります。
また高齢者の一人暮らしや身寄りがない方の場合は、とくにACPが重要です。近くに家族がいないと、緊急時に医療・介護従事者がどのように対応すれば良いか判断に困るためです。
つまり、医療・介護従事者の立場からすると、緊急時などで迷わずに対応できるのがACPのメリットといえます。
ACPの進め方
これから初めてACPを実施する医療・介護従事者は、「どのように話を進めれば良いのか」と不安に感じているかもしれません。そこで、ACPの進め方を6つの手順でわかりやすく解説します。
ステップ1:何を大切にしているか聞き出そう
まずは、以下のように本人が生きるうえで何を大切にしているか、どのような最期を迎えたいかを聞き出します。
- 家族や友人のそばにいたい
- 仕事をできる限り続けたい
- 可能な限り医療を受けたい
- 家族の負担になりたくない
- 少しでも長く生きたい
- 家族に経済的な負担をかけたくない など
ステップ1のポイントは、本人と良好な信頼関係を築けているかです。最期の過ごし方は本人にとって信条に関わる情報のため、信頼されていないと本心を聞き出すことが難しいためです。
ステップ2:どのような医療・ケアを受けたいかを話し合おう
次に、どのような状況になれば「生き続けたくない」と感じるかを話し合います。例えば、「口から食べられなくなる」「機械の助けがないと生きられない」「完治する見込みがないのに苦痛が続く」などです。またそのようになった場合に、どのような医療やケアを受けたいか、あるいは受けたくないかも本人に確認します。
ステップ3:信頼できる人を確認しよう
次に意思表示ができなくなった場合に、本人の気持ちを深く理解していて、代わりに医療やケアについて病院や介護施設の担当者と話し合ってほしい人を決めます。例えば、以下のなかから信頼できる人がいないかを本人に確認しましょう。
- 配偶者
- 子ども
- 親
- きょうだい
- 親戚
- 友人
- 医療・介護従事者 など
また、必ずしも信頼できる人を1人に絞る必要はありません。配偶者と子どもといったように複数人になることもあります。
ステップ4:話し合いで本人の思いを関係者に伝えよう
本人をはじめ家族や信頼できる人、医療・介護従事者に集まってもらい、ステップ1からステップ3で検討したことを伝えます。
この際のポイントは、ステップ1からステップ3の話し合いに参加していない医療・介護従事者にも伝えることです。医療やケアを提供する側が把握していることで、本人の希望が優先されやすくなるためです。また医療・介護従事者は、医療・ケアの方向性について専門的な知見をもとにアドバイスをします。本人の知識では、より良い選択肢があることに気づかない場合もあるためです。
そして、本人の思いを関係者に伝えるのと同時に、それに対して家族や信頼できる人がどのように感じているかも確認します。
本人が望んでいる医療やケアと家族や信頼できる人が望む医療やケアが異なる場合があるためです。本人が延命治療を拒否しているのに、家族が延命治療を希望するなどです。
本人と家族の意見が異なった場合は、どのように対応するかを話し合いましょう。例えば、以下のような考え方があります。
- 本人の意思を尊重する
- 本人の望みを優先しつつ、家族や信頼できる人、医療・介護従事者で話し合って決める
- 本人の望みと違っても良いので、家族や信頼できる人、医療・介護従事者で話し合って決める
このように、意思決定の優先順位を決めることは、家族間のトラブルの発生や代理意思決定者の負担軽減につながります。
ステップ5:情報を共有する人を確認しよう
遠方にいる家族など、話し合いに参加できない方もいるでしょう。そこで、ステップ4で話し合った内容を文章化し、家族や利用者の大切な人に共有します。
話し合った内容を文章として保存することは、本人が後で振り返る際にも役立つのでおすすめです。
また、ACPの情報を家族や大切な人と共有することで、家族間で医療やケアの方針を巡ってトラブルになるのを防ぐ効果も期待できます。
ただし、本人はACPの情報をすべての関係者と共有したいと思っているわけではありません。どの人に共有するか、しないかを本人に確認する必要があります。
ステップ6:何度も繰り返そう
人は心身の状態によって、考え方が変わることも珍しくありません。そのため、ACPは一度実施したからといって終わりではなく、何度も繰り返す必要があります。
例えば、1年に1回や心身の状態が変化したときに実施するなどです。このようにして最期を迎えるまで何度も行い情報を更新することで、本人や家族の満足度を高められるでしょう。
医療・介護の連携強化によりACPがますます重要に
2024年度の介護報酬改定や医療報酬改定では、医療機関との連携体制が強化され、入院医療や在宅医療の際にACPが義務化されました。このような制度上の変更から介護施設でもACPの推進がますます重要になるとみられます。介護施設においては、利用者や家族の満足度を高めるためにACPを積極的に活用してみてはいかがでしょうか。
当コラムは、掲載当時の情報です。
社会福祉実習指導者や施設主任の経験を活かし、現在は介護関係の記事を執筆するWebライターとして活動中。
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