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尿失禁しやすい高齢者の自尊心に配慮した排せつケアのポイント

2022/08/26

暑くなってくると高齢者に多く発生するのが熱中症です。熱中症の予防には水分摂取が非常に重要ですが、高齢者はしばしば尿失禁を恐れて水分を摂取しようとしないこともあります。尿失禁は自尊心を傷つけてしまうため、介護職員は高齢者が自尊心を保持できる排せつケアを心がけることが大切になります。今回は高齢者が尿失禁してしまうメカニズムと自尊心を保持できる排せつケアについて解説します。

熱中症対策には水分摂取が重要

夏になると全国で多く発生するのが熱中症です。熱中症は重篤な場合は命にも関ります。また熱中症の患者は高齢になるほど発生率が高いため、介護職員は介護を必要とする高齢者が熱中症に陥らないよう健康管理により一層の注意が必要です。

高齢者が熱中症に陥らないようにするには何よりも水分の摂取が重要です。高齢者は老化の影響により体内の水分量が若い世代に比べ減少します。高温により汗をかいてしまうと体内の水分がどんどん失われ脱水症や熱中症に陥ります。高齢者は体内の水分量が少なくなりやすいため非常に熱中症になりやすいのです。夏場は充分に水分を摂取し水分不足にならないよう配慮が必要です。

高齢者が水分摂取を控える理由

熱中症予防のために水分摂取を促したとしても、高齢者はしばしば水分摂取を控える傾向があります。理由としては以下が考えられます。

喉の渇きを自覚しにくい

高齢者は老化の影響により体内のバランスを一定に保つための生体恒常性機能の働きが鈍くなりやすく、体内の水分量が不足したとしても脳がそれに気づかずに喉が渇いたと自覚することができない状態になります。当然口渇感の自覚がなければ水分を摂取しようという意欲は生じません。

尿失禁への心配がある

介護を必要とする高齢者にしばしば見られるのが尿失禁してしまうことへの心配です。たくさん水分を摂る行為は多量の尿につながってしまい、スムーズに排せつ行為ができない高齢者ほど「間に合わなかったら」「汚してしまったら」を心配して水分摂取を我慢してしまうのです。特に要介護3以上の状態になるほど移動のADLは低下しやすく、排せつ行為に対して第三者が介入する機会が多くなります。他人に迷惑をかける申し訳なさからも水分摂取を控えてしまう傾向が強いです。

高齢者の尿失禁の種類

介護が必要な高齢者に多い尿失禁には以下の種類があります。

腹圧性尿失禁

お腹に力が入り腹圧がかかることで尿が漏れてしまう状態です。女性に多く、骨盤低の筋肉が緩むことで起こります。

切迫性尿失禁

急に尿意が襲ってきて、トイレに行こうとしても間に合わずに出てしまう状態です。脳の機能低下の場合が多いですが、原因不明のものもあります。

溢流性尿失禁

自分で出したいのに尿が出せず、膀胱から溢れるように少しずつ漏れ出します。特に男性の前立腺肥大が原因として多いです。

機能性尿失禁

排尿に関する機能は正常でも、歩行状態の低下といった身体機能低下や、認知症で目的に応じた行動を計画的に取りにくくなる認知機能の低下により失禁してしまう状態です。

尿失禁は自尊心を大きく傷つける

高齢になり老化の影響を受けたり疾病が関係したりで多く発生する排尿のトラブルは、高齢者の自尊心を大きく傷つけてしまいます。

通常私たちは6歳前後で排せつ行為が自立し、以後の長い期間排せつは自力で行うものと認識しています。また、私たちは排せつ物に対して決して清潔なイメージを持っていません。できれば人に見せたくないものとして考えていることでしょう。そしてそれは介護を必要とする高齢者も同じです。私たち以上に長い年月を生きている高齢者は、排せつは自力でするものという認識を強くもっています。

しかし様々な事情で自力での排せつが正常に行えず尿失禁してしまうと、自身が長らく「自分がコントロールしている」と認識していた排せつができなくなったという虚無感、屈辱感、恥辱感、喪失感が襲ってきます。さらにその世話を他人に委ねなくてはならないとなると、決して人に見せたくないもの、触らせたくないものを見られる、触れられるという申し訳なさや情けなさが1人の尊厳ある人間としての自尊心を大きく傷つけてしまうのです。

つまり尿失禁を心配して水分摂取を控えてしまう高齢者は、必死に自らの自尊心を守ろうとしていると捉えてもよいでしょう。介護職員は高齢者が自尊心を保持できる排せつケアを行っていくことが高齢者の尊厳を保持していくことだけでなく熱中症や脱水症の予防にもつながっていくと意識していくことが大切です。

高齢者の健康と自尊心を守る排せつケアとは

介護を必要とする高齢者の尿失禁は原因にもよりますが避けようのない場合もあります。しかし、だからといって高齢者の誰もが「排せつの世話をされること」を受け容れているわけではありません。私たちが自分で排せつするのを当然と考えているように、高齢者も自力でできる限り自力でしたいと考えているのが自然です。それが叶わない場合は尿意があっても我慢してしまう、喉が渇いても水分摂取を控えてしまうなど高齢者にとって非常に危険な行動を取ってしまいがちです。

高齢者がかかりやすい感染症には、誤嚥性肺炎に次いで尿路感染症が多くその原因は水分摂取量が少ない、尿意を我慢してしまう、尿失禁した状態で長く過ごしてしまうなどです。尿路感染症は高熱や排尿時痛が主な症状ですが、時には敗血症で死に至ることもある危険な感染症で予防策には水分摂取、尿意を我慢しない、陰部を清潔に保つことが有効です。

高齢者の健康を守るためには、高齢者が気兼ねなく水分摂取でき、自尊心を保って適切な排せつができるように支援することが求められます。介護職員は排せつに関する高齢者の気持ちを十分に理解し、高齢者の健康と自尊心を守る意識を持って排せつケアに臨むことが大切です。介護職員が排せつケアを行うにあたり考えていきたいポイントを見てみましょう。

トイレで排せつする場合

高齢者の多くは当然トイレで排せつすることを望んでいます。介護職員の排せつケアの考え方で重要なことは「トイレで排せつできる能力がある限りトイレでの排せつを目指すこと」です。スムーズなトイレでの排せつを阻害する要因には移動能力の低下や身体機能の低下が関係します。その方の状態を十分にアセスメントし、スムーズな排せつを「自力で」行うためには何が必要かというエンパワメントの視点でしっかりと見極めていくことが高齢者の排せつに対する自尊心を守っていくことに大切です。 高齢者の「自分でできる」を引き出していくための例を以下に紹介します。

トイレへの動線を短くする

高齢者に多い排せつの失敗は切迫性尿失禁や機能性尿失禁といった排せつしようと思っても間に合わずに出てしまうことです。高齢者の移動ADLを把握し、自力でトイレへ移動できるよう動線を短くすることが排せつ行為の自立にはとても重要です。またトイレへの移動が困難な場合であっても安易にオムツを着用せずポータブルトイレの使用を提案することも自尊心を守っていくためには重要です。

排せつしやすい服装にする

高齢者が排せつに間に合わずに失禁してしまう理由に多く挙がるのが、排せつできる態勢に時間がかかる場合です。高齢者は円背や膝関節の拘縮といった姿勢の変化が起こりやすく、手先も動きにくくなります。排せつしやすいようにベルトの着脱を要しないゴム紐のズボンを着用する、スカートを着用するといった着脱しやすい服装の工夫は自力で排せつする力を高めるために考えるべきポイントです。

排せつリズムを把握する

人はその人それぞれの排せつのリズムを持っています。長年の生活習慣や仕事環境などが関係しており、ある程度決まった時間に出やすい傾向があります。特に自力で排せつしたいと感じてもうまく気持ちや行動に表すことのできない認知症を有する方々には、介護職員が排せつリズムを把握して適切な時間に排せつできるよう支援することが尿失禁のトラブルから高齢者の自尊心を守ることにつながります。

トイレへの移動が困難な場合

座位が保持できない高齢者はどうしてもトイレでの排せつは困難になるといえますが、その際でも介護職員が意識したいことは「なるべくオムツに頼らずに自力で排せつできる方法」を考えることです。本人に尿意や便意がある場合や姿勢の保持が可能な場合など本人の希望と状態に応じた最善の方法を提案していくことは介護職員の大切な排せつケアです。

本人の望む方法を選択する

ベッド上で排せつせざるを得ない場合に必ず行うべきことは、本人が望む排せつスタイルであるかどうかです。たとえ座位が困難であっても尿意や便意があるならばオムツではなく尿器や差し込み便器を使って自力での排せつが可能です。介護職員は高齢者の自尊心に配慮して、本人が納得できる方法を選択してもらうよう十分な選択肢の提示と説明を行うことが大切です。

自尊心に配慮した声掛け

オムツ内で排せつせざるを得ない状態であっても、高齢者はその自身の姿を好意的には受け容れません。常に情けなさ、恥ずかしさ、申し訳なさを感じています。排せつ交換は他人に排せつ物や陰部を見られないと実施できません。介護職員は高齢者が感じている気持ちに配慮した声掛けが絶対的に必要です。ただ事務的に排せつ交換を行ってしまうと高齢者の自尊心を大きく傷つけてしまうことにつながります。丁寧な声掛けはもちろんですが、そういった高齢者の気持ちに共感を示していくことも必要な対応といえます。

オムツは適宜交換する

オムツ内で排せつした場合、オムツの中は非常に湿度が高い状態になります。ベッド上で臥床する時間が長くなりやすい方は、長時間交換がされない状態だととても気持ち悪い感覚のまま過ごすことになります。「自分でトイレへ行けたらこんな思いしなくていいのに」と、自身を悲観的に捉えてしまう方は非常に多く見られます。特に介護施設の介護職員は、時間で一斉に交換ではなく、排せつしたら適宜交換していくことが自尊心の保持には大切です。その際に高齢者が申し訳なさを感じて遠慮しないように排せつしたら知らせてくれる関係性も重要です。

まとめ

熱中症や脱水症予防に重要な水分摂取は、高齢者にとっては尿失禁の心配につながってしまいます。尿失禁はその人の自尊心を大きく傷つけ、一人の人間として尊厳ある生活を困難にしてしまいます。尿失禁の心配をせず気兼ねなく水分を摂っていただくには、高齢者の気持ちに共感していくことと、高齢者のADLに応じて排せつの自立度を高めていくことが重要です。

当コラムは、掲載当時の情報です。

ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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