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NDSコラム

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要介護者の自立支援に欠かせない移乗介助のポイント

2023/05/16

介護職は介護を必要とする方の日常生活や社会生活の自分ではできないこと、他者の助けが必要な部分を支援することで尊厳ある一人の人間としての生活を支えることが根本的な仕事内容です。
一人の人間としての当たり前の生活をなるべく自力で送るためには、移動や移乗の能力が非常に重要であり、それらの能力が低下した方は日常生活および社会生活に著しく制約がかかることになります。そうした方々を支援するために非常に重要になる介助が移乗介助です。
今回は、人間の当たり前の生活を支えるために必要となる移乗介助について、様々なケース別の介助方法のコツを交えて解説します。

移動や移乗は生活すべてに必須

私たちが何気なく行っている日常生活や社会生活は、その場面ごとに常に移動を要します。例えば日常生活では朝起床してからトイレへ行く、朝食を食べる、顔を洗う、出かける準備をするなどの行為は必ず場所を切り替える必要があります。これは仕事や遊びに行く、近所の方との付き合い、趣味活動を行うといった社会生活においても同様です。そのためには寝室からリビングなどへ移動する必要が生じ、さらには立っている姿勢から座る姿勢に移るといった移乗行為が必須となります。

起床からリビングへ移動する例で見れば、ベッドや布団上での仰臥位→身体を起こし座位→移動するための立位→移動先での座位といった動作を私たちは何気なく行っていることになります。しかし移動能力が衰えた高齢者や移動能力に障がいがある方は身体を起こして座位を取ることまではできたとしても、そこから立位を取り移動する術がありません。そうなると日常生活、社会生活のほとんどに著しく参加制約が生じ、本人の望む生活を送ることは困難になります。つまり移動や移乗を行う手段を有していることは、望む生活を送るために必須なのです。

介護職が移動や移乗を自力で行えない方に対して必要な支援を行うことは、その方の豊かな生活を守るためや、自立支援に欠かせない支援といえます。

移乗介助の基本

介護職が行う移動や移乗の介助で、移動については車いすや歩行器といった本人の状態に合わせた福祉用具が豊富にあり日常的な場面の介助にはさほど困ることはないと思いますが、介護職によっては非常に負担の大きい介助となりやすいのが移乗介助です。

なぜなら移乗介助は要介護者の身体の大きさや重さ、マヒの有無、筋力の程度など様々な要因で介助のやり方が大きく異なってきたり、支えるポイントが変わってきたりすることが理由です。さらに介護職員の身体の大きさも無関係とはいえず、身体の小さな介護職員が大きな要介護者の移乗介助をしようとするとそれ相応の負担に繋がりやすいともいえます。 そのため移乗介助は介護職員にとっては苦手としている人も多く、介護職員自身の身体を痛めやすい介助と考える人も大勢いらっしゃるかと思います。

ですが、私たちは普段立位から座位を取る、イスからイスへ移る、車に乗り込むといった自分自身の移乗動作についてはあまり重たさを感じずに行っているはずです。その理由は、いわゆるボディメカニクス(身体力学)を駆使し、無意識のうちに自分が楽に身体を動かせる条件に沿って動作を行っているためです。誰に教わるわけでもなく赤ちゃんが自分でバランスを取って立ち上がり、歩き始めるように、私たちも誰に教わるわけでもなく自分自身の動きやすい動き方を身体で覚えてしまっているともいえます。逆に言うと、身体で覚えてしまっているために動き方の理屈が分からず他者の介助が不適切になり、それが身体の負担になっているのです。

移乗介助が介護職、要介護者双方の負担にならないために必ず守るべき基本は「持ち上げないこと」です。

立ち上がる時、座る時、イスからイスへと移る時など人間は何かしらの移動動作を行おうとする際は必ず頭が斜め下方向に、おじぎをするような形を取ります。そうすることでお尻を浮かせやすい体勢をつくることができ、この体勢こそが移乗動作のすべての基本です。お尻を浮かせられる体勢をつくらないことには移乗は不可能といってもよいでしょう。

移乗介助によって腰痛など身体を痛めてしまう介護職の多くは要介護者の頭を下げずに持ち上げようとしがちです。人間の身体は決して軽くありません。それを腕だけで持ち上げて支えようとするのですから腰に負担がかかるのは当然です。移乗介助の際は上に持ち上げるのではなく、要介護者の上体を斜め前に下げる体勢を取るように介助することが基本動作と覚えましょう。その際に要介護者が自力で前傾姿勢を取れない、もしくは動作が不十分で補助が必要な場合は介護職の手は利用者の上半身の最も上、つまり肩から首あたりに手を添えると、てこの原理により少ない力で前傾姿勢を取ってもらいやすくなります。両下肢マヒや膝関節の強い拘縮がない場合ならば、お尻が浮く体勢を取ることができれば要介護者の身体を支えているのは足の裏だけになるため、方向転換等は力を入れずともできるようになります。

ケース別の移乗方法

では、様々なケース別に移乗介助を行う際のポイントを説明します。

ベッド⇔車いすの移乗

ベッドから車いす、車いすからベッドへの移乗介助は、特に介護施設では頻回に行う介助です。そのため移乗介助の基本をしっかり守らないと身体に負担がかかるため腰痛の原因になるばかりでなく、要介護者も身体を痛めやすいため注意が必要です。

ポイントとしては、移乗時に必ずベッド脇や車いすに浅く腰掛けるようにすることが大切です。座位が深い状態だと前傾姿勢をとってもお尻が浮く状態にならず力で引き上げる動作になりがちだからです。浅く腰掛けた状態から、介護職は常に移乗する方向を見る位置につきましょう。ベッドから車いすへ移る場合は常に車いすの座面を見られる位置に介護職の頭を持ってきます。反対だと腰が捻じれてしまい腰痛の原因になります。要介護者の脇の下から入れた手は腰ではなく肩甲骨あたりに添えます。指先に力を入れると腕力に頼りやすくなるので力を抜くことがポイントです。移乗動作は先述の通り、要介護者を上に浮かせるのではなく、前傾姿勢を取れるように前に引きます。手の力ではなく、足の力を使い重心を移動させることでスムーズな動作ができます。

要介護者のお尻が浮くくらい前傾姿勢を取れたら、要介護者を手で旋回させるのではなく介護職が身体の向きを変えると、要介護者もその動きについてきます。 力を入れないこと、上に引き上げないこと、浅く座ってもらうことは移乗介助すべてに当てはまるポイントですが、ベッド⇔車いすの移乗においては常に移乗する側を見られる位置に介護職の頭を置くことを意識してみましょう。

イスからの立位

イスからの立位介助では、介助が必要な理由によって介助方法が若干変わってきます。介助が必要な理由としては筋力が低下している、マヒがある、拘縮があるなどが主な理由でしょう。それぞれのポイントは以下の通りです。

筋力が低下している場合

筋力が低下している方が立位を取れなくなる理由は、前傾姿勢を取った際に足の筋肉で身体を支えることができずそのまま床に膝から落下してしまう、バランスを保てず上体が後ろや前に反ってしまうなどが考えられます。もし手でどこかをつかめば立ち上がることができる状態であれば、その方の座位姿勢から腰の位置程度の高さでつかめるもの、手を付けるものがあれば安定した立位が可能になります。例えばイスの座面はちょうどいい位置に手をつくことができますのでそこに手をついてもらい前傾姿勢を取ってもらえばスムーズな立位ができるでしょう。余分なイスがない場合は介護職の手の甲を上にして要介護者の手を上から被せるようにつかんでもらえればよいです。手のひらを上にしてしまうと、支える際に腕力で支えるようになりますので腰に負担が生じます。手の甲だと肩回りの筋肉で支えますので負担を軽くすることができます。これは手引きで立位を取ってもらう際も同様で、要介護者の手を握るのではなく手の甲を杖のようにして立ってもらうことをイメージするとよいでしょう。

マヒがある場合

脳梗塞の後遺症等により片側にマヒ(まったく力が入らない)がある場合、マヒ側から立位を介助することは非常に危険な場合があります。要介護者は健側のみで立ちあがる必要があり、その際にマヒ側を支えてしまうと健側のバランスが保てないだけでなく介護職の余計な力をかけてしまうと健側の方向に倒れてしまうことが多々あるためです。当然その際は介護職の立っている位置より反対方向に倒れようとしてしまうため、咄嗟に支えようとした介護職の腰に大きな負担がかかることになります。それを防止するためにも、介護職は健側に位置し、要介護者の壁になるイメージで立ち上がりを介助するとスムーズです。健側の手で介護者の腰あたりを持ってもらうことも体勢を安定させることに繋がります。

拘縮がある場合

関節や筋肉が固まって自力で動かせない場合は、先ほどのマヒとは違い患側からの介助が大切です。足が自力で動かせないのであれば、ヒザ裏を軽く持ち上げながら足首を前後させると簡単に位置を調整できますので、肩幅程度に足を開いてもらうことで安定した立位を取りやすくなります。前傾姿勢を取ってもらう際は健側の手を健側の膝に、患側の膝に介護職の手を添えてゆっくり前傾姿勢を取るようにすると、お尻が浮く段階で自然と膝関節の伸展をサポートでき、スムーズな立位動作が取れるはずです。

お風呂場での移乗

お風呂場での移乗介助で気を付けるべきポイントは床のすべりやすさです。基本的な動作は変わりませんが、移乗動作を行う前にシャンプーや石けんの泡が完全に流れている状態か、しっかりと確認することが必要です。介護職はお風呂場ではスリッパを着用していることがほとんどでしょうから、素足でのすべりやすさには気づきにくいものです。

さらに、いくら泡を洗い流したとしても濡れている床はどうしてもすべりやすいといえますので、移乗介助を行う時は足だけで身体を支えるのではなく、手すりを持ってもらう、手すりがない場合は介護職の肩を持ってもらうなど、足に体重がかかりすぎないようにするといざという時の事故を防ぐことに役立ちます。

トイレでの移乗

車いすからトイレへ移乗するに気を付けたいポイントは、まず車いすをトイレに近付け過ぎないことです。安全のためにと近づけすぎてしまうと十分な前傾姿勢の妨げとなり、かえって移乗動作を行いにくくなります。そして、安全のためには可能な限り車いす→トイレへ移乗→立位→ズボンを降ろすの順番で介助することが望ましいです。よく車いすから手すり等を持って立ち上がり、そのままズボンを降ろして身体を旋回させる介助を行う介護職がいますが、足に衣類がひっかかってバランスを崩すおそれがあるためおすすめはできません。一度トイレへ座ってから立ち上がり動作を行う方が、動きが直線のため安定しやすくなります。またトイレに移乗してから立ち上がってもらう場合は、先ほどまで乗っていた車いすの座面に手をついてもらうと安定した立位を取りやすくなります。

立位不可能な場合の移乗

先ほどまでの例はすべて立位が可能である方の移乗方法ですが、立位が不可能な方についてはまた別の方法が必要です。立位が不可能な場合とは、立位が可能とされる筋力がまったくない、両下肢にマヒがある、両下肢を切断している、両下肢に強い拘縮があり膝を伸ばすことができないなどの理由が考えられます。

このうち筋力がない方と強い拘縮がある方の場合はまだ可能といえますが、マヒがある方や切断されている方は立位そのものが不可能なため移乗介助を行う際は要介護者の体重をすべて介護職が支える必要があります。とは言っても、やはり抱え上げるのは腰への負担が大きくおすすめできません。重要なのは要介護者の体重をいかに分散させるかと、介護職の負担の少ない姿勢で介助できるかです。通常の移乗介助では要介護者のわきの下から手を入れ肩当たりに添えましたが、立位不可能な方の場合は前傾姿勢をとっても足に踏ん張りが利かないためそのまま前のめりで転落するか、介護職がすべて腕力で支える体勢になるため不適切な介助になります。有効な方法としては、要介護者のわきの下に介護職の頭を入れてしまう方法です。どちらのわきの下かというと、先述した通り移乗する方向です。つまりベッドの左側に車いすがある場合、右わきの下に頭を入れます。反対のわきの下には手を入れ、やはり肩甲骨あたりに添えます。そして前傾姿勢を取ることは同じですので、介護者は後ろに下がるというよりはしゃがむ体勢を取ります。そうすると介護職の肩あたりで利用者を支える形になり、安定した移乗が可能になります。注意点としては、しゃがむ際に介護職の身体を曲げないことです。常に胸を張り背筋をピンと伸ばすことをイメージすれば要介護者のお尻が浮いて身体を支える体勢になった時は介護職の身体はしっかりと真っ直ぐの体勢を取れているはずです。介護職の頭の先からへその下あたりまでが一本の直線で結べる姿勢が最適です。その体勢で要介護者の身体を支えることができたら、全身の向きを移乗する方向に旋回させれば安定した移乗が可能になるでしょう。

移乗介助の注意点

移乗介助は基本的な動作を理解して行えば、様々な場面のポイントを工夫することで安定した動作を可能にしますが、知っておくべき注意点もいくつかあります。

まず移乗介助は基本動作を守ることで様々な状態の要介護者を移乗することが可能ですが、やはり限界はあります。要介護者に大きな方や小さな方がいらっしゃるように、介護職にも大きな方、小さな方がいらっしゃいます。どんな人でもできる移乗介助というものは存在しません。ボディメカニクスを活用することで自分が思った以上に大きな人でも移乗することは可能ですが無理をしすぎると思わぬことでぎっくり腰などになってしまうこともあります。そしてもうひとつは、移乗介助は「こうすれば移乗できる」という方法があったとしても、要介護者が望む方法が何よりも優先されるということです。例えば先述したわきの下に頭を入れる方法も、要介護者がそれを望まないのであれば不適切な介助といえます。

その際は、要介護者の希望に最大限応えられるようスライディングボードなどの福祉用具を活用することも有効な手段です。もしもそれらの福祉用具を活用することで介護職の介入度合いが減るのであれば、要介護者にとっては自立支援になりますし、介護職には身体の負担が減ることになりますので何も悪いことはありません。

しかしそれらの福祉用具もやはり要介護者が望むかどうかが大切ですので過信は禁物です。介護職は、自分の身体能力でできる限りの移乗介助技術を身に付けることと、必要に応じて必要な福祉用具を活用できる技術の両方を有することが何よりも重要です。

まとめ

要介護者の状態や希望に応じた移乗介助を支援することは、本人の望む豊かな生活の実現に直結します。介護職が移乗介助に関する豊かな技術、確かな知識を身に付けることは、様々な要介護者の自立支援に大きく役立つものであると理解し、技術の研鑽に努めましょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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