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NDSコラム

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災害派遣福祉チーム「DWAT」について解説

2023/07/10

近年の日本では地震や台風などによる自然災害が各地で発生し、甚大な被害をもたらしています。これらの災害による被害は生活に大きな影響を及ぼしますが、高齢者や障がいを有する方が長期間の避難を余儀なくされることで心身の健康を低下させる二次被害の発生も大きな懸念です。そこで一部の都道府県ではDWAT(ディーワット)という災害時に福祉チームを派遣するというシステムを構築しており、これをもっと全国的に整備していこうという流れが加速しています。そこで今回は、介護事業所が知っておきたい自治体が取り組むDWATについて解説するとともに、介護事業所として自然災害にどのように対処すべきかを交えて解説していきます。

近年発生が頻発している自然災害

日本は地質学的に地震大国と呼ばれ、諸外国と比較しても多くの地震が発生します。時には建物の倒壊などを招く大きな地震が起こることも少なくありません。

それに加え、近年では特にこれからの季節、梅雨頃から夏にかけて多く発生する線状降水帯による大雨や台風による大雨、洪水といった水害をはじめとする自然災害が頻発しています。大雨による浸水や河川の増水による洪水は住居での生活に甚大な被害をもたらすだけでなく、命にも関わる非常に深刻な事態です。気象庁では2023年6月現在エルニーニョ現象が発生していると見られるとの見解がされており、特に西日本日本海側で降水量が多くなるかもしれない点に注意が必要です。

自然災害からの避難が要介護者に及ぼす影響

大雨や洪水による自然災害は時に床上浸水や土砂災害などで住居に深刻なダメージを与えます。しかしそれ以上に深刻なのはそこで暮らす人々です。

特に高齢者や障がいを有する方は有事の際に自力で対処しきることが困難になりますので災害発生が予測される早期での避難を求められます。それだけで済めばまだよいのですが、実際に災害が発生した場合は電気ガスといったライフラインの復旧、交通インフラの復旧、水害に見舞われた家屋の復旧など元の生活に戻れるようになるまで多くの時間を要します。そうなると実際に自宅に戻れるまで避難所での生活を余儀なくされることになります。

しかし避難所での長期間の避難生活は介護を必要とする高齢者、障がいを有する方にとって必要なサービスを必要な分だけ受けられるとは限りません。また十分な運動量が得られない、精神的な負荷が強くかかるなどから心身の状態を悪くしてしまう場合もあります。

その結果、ADLの著しい低下、認知症の発症や進行、精神機能の低下からの生活不活発病などで避難前に有していた生活機能が失われることや要介護度が重度化すること、健康状態のさらなる悪化といった二次災害が生じる場合があります。

こうした状態は、高齢者や障がいを有する方といった要介護者の健康寿命を脅かし、生きる希望を奪いかねない重篤な事態です。そこで近年の自然災害の頻発から国が各自治体に整備を求めているのが「DWAT」と呼ばれる災害時の福祉の支援体制です。

災害派遣福祉チーム「DWAT」とは

災害が発生した際に介護等を要する高齢者や障がいを有する方のニーズに的確に対応し避難生活中における生活機能等の防止を図ることを目的に、各都道府県が主体となって一般避難所で福祉的な支援を行う「災害時派遣福祉チーム」を「DWAT:ディーワット」(Disaster Welfare Assistance Team)と呼びます。こうした災害派遣チームは他にも医療(DMAT)精神医療(DPAT)といった様々な種類があり、その分野の専門職でチームが組成されています。そのなかでDWATは福祉専門職を中心としたチームを組成します。

福祉の専門職とは一例として介護福祉士、介護支援専門員、社会福祉士、看護師、理学療法士、精神保健福祉士、保育士、その他介護職員等が挙げられます。看護師や理学療法士等の福祉職意外の専門職が入っているのは、あくまでも目的の違いです。

目的

例えば災害時派遣医療チームである「DMAT」にも看護師は構成メンバーとして入っていますが、そのDMATは「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており、大地震や自然災害及び航空機・列車事故等の災害時や、新興感染症等のまん延時に、地域において必要な医療提供体制を支援し、傷病者の生命を守ることを目的としています。つまり「一人でも多くの命を助けること」を主たる目的として据えているわけです。

DWATは先述の通り、自然災害等の有事の際に日常生活に支援を要する方へ必要な支援を提供し、生活機能の低下を防止することを目的としています。生活機能の低下を防止するためには介護事業所の通常の業務と同じく介護職だけの支援では不十分です。様々な専門職が協働することで初めて支援が成り立つのですから、DWATには介護福祉士、社会福祉士といった介護に特化した専門職以外にも看護師をはじめとする医療職が必要なのです。

今現在、国は各都道府県にDWATの整備を進めるよう求めており、その実態の把握に努めています。すでに仕組みが構築されている自治体、現在構築中である自治体があり全国的に整備が行き届いている状態ではありませんが、DWATの構築および活動はさらに加速していくものと見られています。

DWATの仕組み

DWATの基本的な仕組みは都道府県が主体となった非常時のネットワーク体制を構築することです。自治体によって運営の仕方には差がありますので、全国的に共通したDWATの仕組みは厚生労働省が発表している「災害時の福祉支援体制の整備に向けたガイドライン」を参照しましょう。

自然災害というものはいつ起こるか分かりませんし、いざ起こってから行動を始めてもまともに機能はしません。

そのためDWATは災害が起きていない平時から都道府県と都道府県から委託契約・協定を結んだ社協やその他団体が事務局を運営し、参加を表明している都道府県の介護福祉士会や老施協といった職能団体とのネットワークを構築します。平時の活動としては、有事の際にどのようにチームを組成するか、またどのような活動をするか、どのように被災地から情報を収集、集約するか。役割分担をどうするか、チーム員に対する研修をどのように行うか、地域住民にどのように広報するかなど、いざという時に備えた下準備をすることが主な活動です。

そして災害の発生時は事務局が支援ネットワーク本部となり被災地から情報収集し派遣の可否を検討。派遣が決定すると派遣福祉チームに要請し、その活動のバックアップを行うというのが基本的な仕組みです。1チームの構成メンバー数は平均して5~6名としている自治体が多いようです。

つまりDWATは国および都道府県が有事に備えて地域とネットワークを構築し支援体制を整える公的な機関ということですが、自然災害はその自治体の地域性に大きく左右され、その支援に必要なネットワークも当然自治体によりニーズが異なるはずですので、ガイドラインでは必要な変更を加えることを期待しています。地震災害が多い地域では地震災害に特化した支援体制を、水害が多い地域では水害に特化した支援体制を構築することを国は求めているわけです。

介護職員もDWATの対象となる場合がある

ここまでの話を見る限り、介護事業所に従事する介護職員には関係ない話に一見思えますが、そんなことはありません。DWATの組成メンバーには介護の専門職が含まれますので、普段介護事業所に従事している介護福祉士や社会福祉士といった介護職員も当然組成メンバーになりうることが想定されます。

DWATメンバーについて

組成メンバーをどのように集めていくかは、また自治体によって方法が異なります。福祉専門職個人単位で応募の形式をとっている自治体もあれば、構成団体である職能団体から出動を要請する形をとっている自治体もあります。お住まいの都道府県がどのようにDWATを整備しようとしているのか、情報をチェックしておきましょう。

普段業務に従事している介護職員からすると、急に派遣要請があったからといってそう簡単に業務に穴を開けるわけにはいかないと考えてしまうところですが、このDWATは非常時に相互に助け合うというネットワークが基本的な性格です。そのためDWATで派遣された結果生じた人員基準の不都合等には柔軟の対応が認められています。もし派遣要請があった場合は事務局に確認するとよいでしょう。

またDWATで組成メンバーとして派遣される場合、その支援はボランティアではありません。支援にかかった費用は県から支給されますが、日当については県が支給するところもありますが、所属する介護事業所から支払われるものとしているところが多いようです。一部職能団体では日当としていくらかを負担するシステムを採用しているようです。

しかし、いざ自らの事業所が災害に見舞われたとしたらどうでしょうか。介護職員も不足するなか、限られた物資、人員で利用者の生命を守ることは想像以上に神経が張り詰めます。なにより支援を必要とする利用者は精神的にも不安の中、必要な支援を受けられないことは心身を衰弱させかねません。しかしそこへDWATが派遣されてきた場合、状況は一変します。いざという時に備え研修、訓練を受けた専門職が要介護者の生活機能低下を予防するための支援をサポートしてくれるのです。そこで働く介護職員、利用者双方にとってこれほど心強いものはないでしょう。

しかしこうしたDWATの活動も、派遣要請に応じて出動できるメンバーが揃っていなければ叶いません。つまりDWATは、自治体にある介護施設や介護事業所が積極的に参加することで有事の際の助け合いに初めて寄与できるのです。事業所から離れた市町村での災害であっても支援に駆けつけるネットワークを広く構築し、多くのメンバーを養成しておくことがいつ起こり得るか分からない災害への有効な手立てとなるのです。

介護事業所は自事業所の都合だけでなく、自事業所がDWATに積極的に参加することで国全体の福祉を支える意識を持つことがDWATの円滑な運営には必須といえます。

介護事業所が備えるべきBCP対策にDWATを

介護事業所が有事の際に事業を継続できるよう定めておくことが2021年の介護報酬改定で義務付けられた「BCP対策」は、介護報酬改定時点で指定を受けて業務を開始していた事業所については3年間の猶予措置が設けられました。つまり2024年の4月の時点ではすべての介護事業所はBCP対策を策定しておく必要があります。

すでに策定している、現在策定中である、これから策定するなど、介護事業所によって差は生じることと思いますが、BCP対策は策定して終わりではありません。組織体制に変更が生じた場合や介護保険制度からの通達、ガイドラインの変更があった際などは見直しや更新を行うことは事業者の責務としており、それ以外であっても約1年ごとには見直しを行うことが望ましいとされる、BCP対策で定めた内容については研修、訓練の実施が必須となっているなど、介護事業者には多くの義務があります。

BCP対策の策定・見直し時

そこで、今後のBCP対策の策定や見直しで積極的に検討したいのがDWATへの参加です。先述の通りDWATは相互にネットワークを構築し平時から支援に必要な研修や訓練を受けるものとしています。介護事業所で有事が発生した場合も、当然DWATで受けるべき研修や訓練の内容を踏襲しているといえます。つまり介護事業所がDWATの活動に積極的に参加することは、有事の際に必要な支援を提供できるノウハウを持った職員を養成することにもつながるのです。事業所内での避難訓練等においてもDWATで必要な研修を受けている職員がいる、いないではその成果にも大きな差が生まれるばかりか、意見を反映させていくことでいざという時に備えた質の高いBCPの策定に役立つはずです。

地域からもいざという時に駆けつけてくれるメンバーが揃っていると認識されることは、地域に根差した介護事業所として大きく信頼を集めることにもなるでしょう。

互助、共助の理念が重要な介護業界です。介護事業者としてDWATに積極的に参加し、BCP対策にもそれを盛り込んで策定しておくことは結果的に大きなメリットになるといえます。

まとめ

DWATは自治体で自然災害などが発生した場合、DWATに所属する関係団体が駆けつけることで利用者の健康と安全を守る広域ネットワークです。 自然災害は頻発している現在だからこそ、多くの介護事業所が参加しDWATを盛り上げていくことが、いざ災害が発生した際の有効な手立てとなり得ます、ぜひ積極的に参加を検討しましょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

参考URL

「災害時の福祉支援体制の整備に向けたガイドライン」の概要

災害福祉支援ネットワーク、DWAT の実態把握、課題分析 及び運営の標準化に関する調査研究事業 報告書 (データ版)

厚生労働省 DMAT事務局 DMATとは

中小企業庁 中小企業BCP対策運用指針

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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