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NDSコラム

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無意識にやっているかもしれない介護職員間で起こりやすいハラスメント

2023/06/19

すべての業界には業界に応じた悩みがあるものですが、介護業界にもやはり介護業界ならではの悩みが存在し、長年の問題となっているのが職員間のハラスメント行為です。
介護の仕事は利用者のケアのためにチームが力を合わせて臨むものでありながら、ハラスメント行為が根強く存在してしまうのは大きな問題です。
介護業界に根付く職員間のハラスメント行為は、ハラスメントとの意識がなくやってしまっていることもあるため、無くしていくためには、法令やコンプライアンスの遵守の意識が何よりも重要です。今回は、介護業界ならではの職員間のハラスメント行為とコンプライアンス遵守の必要性についてと、気付かずにやってしまっているかもしれないハラスメント例について解説します。

介護業界に根付く「ハラスメント」とは

介護業界の人材不足は長年の課題とされています。介護職員が不足している最も大きな理由は何よりも介護ニーズの増大に対して人材確保が進んでいないことですので、実際は毎年介護職として従事する人数は増え続けてはいます。

しかしその一方で介護の仕事を離れてしまう人の割合も依然として多く見られ、離職率を低下させることができれば人材不足の解消にさらに近付くはずです。

なぜ介護業界は離職率が高いのかというと、最も多く理由として挙げられるのが「人間関係」です。その人間関係を悪化させる最たる理由がハラスメント行為です。極端な「いじめ」ではなく、また無意識な日常の行為がハラスメントとなり、介護職同士の人間関係、信頼関係に亀裂を生じさせ、人間関係を悪化させてしまうといえます。

なぜ介護業界にハラスメント行為が多く存在するのかについては一概には言えませんが、年齢や性別など多様な人材が集う職種であるが故の多様な価値観の衝突や派閥の形成が多く見られると考えられます。もちろんこれらは介護業界の話だけでなくどのような産業でもあり得ることなのですが介護の仕事は対人支援であり、さらに仕事の成果がすぐに実感できにくいことも特徴です。それだけに様々な考え方やケアの方法についての衝突や仲違いが起こりやすいともいえ、それが最終的にはハラスメントへと繋がるともいえるでしょう。

職員間のハラスメントは生産性低下に直結する

介護の仕事は必ずチームで進める必要があります。ひとりの利用者に対し複数の介護職が同様のサービスを途切れることなく提供することで、初めて利用者の日常生活を支えることができるためです。そして質の高いサービスを提供し続けるためには介護職同士の情報連携も欠かすことはできません。

しかし、ハラスメント行為により介護現場の人間関係が悪化しているとすればどうでしょうか。緊密な情報連携や、チームが一丸となったケアの提供は著しく困難になることは想像に難くありません。

情報の行き違いや言った、言わないの話、さらにはその日関わるメンバーによっては連携が取れず十分なケアの支障になるなど介護現場の生産性が低下する事態を招いてしまうのです。

現状では介護現場の人材不足はまだまだ解消されていないところがほとんどです。限られた人員の中で質の高いケアを提供し続けるためには、介護の知識や技術はもちろんのことですが、それ以上に円滑なチームケアを可能にする人間関係の醸成が大切であり、そのためにも職員間のハラスメント行為は根絶を目指すことは大前提です。

コンプライアンス遵守の必要性

介護職同士でのハラスメント行為を起こさないために必要なことはコンプライアンスの遵守です。コンプライアンスとは従来は関係法律をしっかりと守る「法令順守」という意味合いで用いられていましたが、現在はさらに社会の道徳や倫理といったモラルを守るという意味も含めて用いられることが一般的です。

つまり介護事業所および介護職員が守るべきコンプライアンスには労働者が守るべき法律に加え、介護保険法、高齢者や障がい者の人権擁護について定めた法律といった関連法規と、普遍的道徳のほかに介護職員としての職業的倫理観も含んだ非常に広域を指すものとなります。

極端に言えばハラスメントに関する法律を遵守すればハラスメントはなくなるはずなのですが、おそらくは何がハラスメントであるかを正しく認識できていないが故に起こる問題なのだと思います。またハラスメントに関する法律は事業者が措置を講じるとされているものが多いため、介護職員一人ひとりへ働きかけ続け、意識を変えていくことが重要です。

介護職員一人ひとりが意味を正しく理解し、その内容を遵守して職務に臨むべき法律が介護保険法です。介護保険法はその目的に「利用者の尊厳の保持と有する能力に応じた自立した生活を送ることができるよう必要なサービスについて給付を行う」と明記してあります。つまり介護保険制度が適用される事業所で働く介護職員は、利用者の尊厳の保持と有する能力に応じた自立生活の実現のために働くことが何よりも大切な役割なのです。

この目的を正しく理解していれば、おのずとチームケアの重要性や情報連携の重要性は明らかになりますし、利用者の利益のためという共通認識を職員たちが持ち、到達目標に対し同じ方向を向くことができればハラスメントが生じるおそれは大きく減少するでしょう。

有り体に言ってしまえば、介護の仕事について介護保険法の理念、事業所の理念や目標を周知徹底できていないからこそハラスメントが起こる隙を生じさせているともいえます。

そのためには、介護職員一人ひとりがコンプライアンスとして介護保険法を遵守する体制づくりが何よりも先んじることです。もちろんその他の法律や職業的倫理も重要ですので、少しずつであっても確実に理解を進めていくよう定期的に勉強会や研修会を行うことが大切です。

職員間のハラスメント例

ハラスメントはしてはならないことだと分かっていても、長年介護職として従事していると慣れや無意識の習慣化によって気付かないうちにハラスメントになってしまうかもしれない行動や言動をしてしまうかもしれません。

介護職員同士で、場合によってはハラスメントになってしまうかもしれない事例を一部紹介します。

挨拶関連

介護職員間の人間関係を悪化させるきっかけになりやすいのが挨拶です。挨拶をしたのに無視をされた、素っ気ない対応をされたなどから話しかけにくさや圧を感じるといった例は少なくありません。介護の現場は人手不足もあり常に何かしらの仕事をしている場合はほとんどです。またシフト制で勤務する介護事業所では職員全員が同じ時間帯に出勤せず、昼からの出勤や午前中での退勤も珍しくありません。誰もが出勤時には挨拶をすることは共通認識かと思いますが、例えば出勤時に挨拶をされたがパソコン作業が忙しかったから無視した、業務で忙しかったから無視したとなると挨拶をした側は全員が「忙しいからしょうがない」と捉えてくれるわけではありません。場合によっては「感じの悪い人だな」と思われてしまうこともあるでしょう。特に入職して日の浅い介護職員の場合は委縮してしまい、円滑なコミュニケーションの妨げとなってしまうこともあります。また、無視とは言わずとも挨拶をした職員の顔も見ずに挨拶を返すことも同様です。相手にしてくれていない、片手間で返事されている、偉そうに対応されているなどの思いを抱かれやすいでしょう。小さなきっかけですが、忙しさを理由にした不十分な挨拶は、毎度繰り返す行為でもあり気付かないうちに無意識化しやすい行動です。自身の立場が上の場合は特に高圧的なパワハラ、嫌がらせと見られやすいので、日頃から自身を客観視するとともに挨拶の重要性をしっかり認識することが大切です。挨拶されたら相手の言葉を受け止めた姿勢を示すために、必ず相手の顔を見て挨拶を返すようにしましょう。

性別差による言動

介護業界は男女比率としては依然として女性が多く働く業界です。そのため女性上位というわけではありませんが、女性中心のコミュニティが形成されるのは致し方ないことといえます。男性職員から女性職員の身体に触れる、身体的特徴について言葉にする、執拗にデートに誘うなどの行動、言動は一見してすぐにセクハラと分かる行為です。男性の身体的特徴として女性に対し腕力で勝っていますので、これらの言動がただの興味本位や悪気のない屈託のないコミュニケーションのつもりだったとしても、相手には恐怖感や嫌悪感を抱かせることもしばしばです。あくまで仕事は仕事であると認識して職員のプライベートに踏み込むような発言は絶対に控えましょう。

一方で、女性職員から男性職員へのセクハラも決して軽んじてはなりません。性別差によるハラスメントは決して男性からのものではなく女性からの発信も含まれるのです。例えば男性が女性と比べ力が強い人が多いのは覆しようのない性別差です。しかし、だからといって「男なんだから」「男のくせに」と性別を理由に仕事を押し付ける、できるできないを決めつけるといった言動は決していい気にはなりません。しかし女性が多数を占める介護業界では「力仕事は男」という雰囲気が知らずのうちに出来上がっていることも少なくないのです。男性職員側の立場に立ってみると、仕事内容に男女の差がないのであればなぜ力仕事はすべて押し付けられなくてはいけないのだとの思いが生じるでしょう。しかし女性が多数のコミュニティを占めている以上、表立って反発するのはためらって従いストレスを溜め続けることもあります。これらは男性から、女性からの発信どちらの場合でも立場が上位の者から発せられる言動によって生じやすいです。男性だから力が強い、だから力仕事をしてほしいと願うのは業務の適正な割り振りとしては効率的といえます。だからこそ高圧的な上からの言葉ではなく、相手を尊重した敬意あるコミュニケーションが必要なのです。

勤務形態の違いによる言動

介護業界は様々な環境の方が自分に合った働き方をしている場合が多く、短時間勤務や扶養範囲内での勤務、フルで働いてはいるが子育てがあるので夜勤はできない、子どもが休みになる土日祝は勤務できないなど様々な条件で働いています。

多様な人材が働く条件と整えている事業所が多いとはいえ、それでも介護業界は人手不足です。さらに介護業界は例えば介護の提供を商品としたサービス業の側面もあるためショートステイなどは世間で休む人が多い日ほど忙しい傾向にもあります。ゴールデンウィークやお盆休み、年末年始などが代表的でしょう。そのためシフトを組む際に夜勤者が足りない、そもそもの人員が足りないなどはしばしば起こる事態です。ですが自身が働ける条件で勤務している職員に対し「こっちは夜勤もして忙しい」「あなたは楽でいいね」「もっと働いてもらわないと困る」などの言葉を投げてしまうとどう思われるでしょうか。自分では働ける条件でできる限りやっているのにそれを疎まれる、嫌がらせをされたという方もいれば「みんながフルで働いているのに自分はそれに合わせられなくて申し訳ない」という思いを抱く方がいても不思議ではありません。その結果職場に居づらくなり離職されては、シフトを組むことがさらに困難になるのは明らかです。

介護業界は多様な人材を呼び込むことで人材を確保することは急務ともいえますので、自身が働ける条件で働こうと思ってくれる職員が気兼ねなく働けるよう勤務時間や勤務日数、勤務の条件などを引き合いに出すことは厳に慎みましょう。もし出勤できないか尋ねる場合も、「自分はフルで出ている」や「こんなに勤務日少ないんだからちょっとは助け合わないと」など自分目線での発言も厳禁です。限られた条件で働いてくれているんだと認識し、相手を尊重して話をしましょう。

まとめ

介護職員間のハラスメントは往々にしてコミュニケーションや相手への理解不足や欠如であるディスコミュニケーションから生じます。人手不足で忙しいからといって自分本位のコミュニケーションはハラスメントに発展しやすいことに注意が必要です。介護職員はケアの技術としてのコミュニケーションを豊富に身に付ける必要があります。その技術の対象を利用者だけでなく、職員間にも発揮できるようになれば介護業界のハラスメントはおのずと減少することが期待できます。さらに介護保険法の理解を深めるとともにコンプライアンスの遵守を意識付けていくことで職員間のハラスメント撲滅に努めましょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

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ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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