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処遇改善加算が介護従事者全体へ!令和8年度の臨時改定を解説
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2026/03/10
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令和8年(2026年)6月から、介護従事者全体の処遇改善が強化され、介護職員の賃金が最大で月1万9,000円アップされる見込みと報道された(2025年12月22日付)ことに対し、期待を寄せている方も多いのではないでしょうか。しかし、現在議論されている内容を詳しく見ていくと、こうした引き上げが必ずしも実現するとは言い切れない状況です。
そこで本記事では、次のような疑問に答えていきます。
- そもそも「処遇改善」とは何か?
- 令和8年度介護報酬改定で何が変わるのか?
- 事業所にとってのメリットや注意点は?
これらのポイントを踏まえながら、介護職員等処遇改善加算(以下「処遇改善加算」)の最新動向をわかりやすく解説します。
目次
処遇改善とは何か?
処遇改善とは、職員の賃上げや働きやすい職場環境を整備する取り組みです。それを支援する制度が処遇改善加算です。令和6年5月以前は3つの制度がありましたが、令和6年6月以降は以下のように一本化されています。

処遇改善加算の概要
処遇改善加算の主な目的は次のとおりです。
- 介護業界と他産業との賃金格差の解消
- 人材の確保・定着の促進
- 働きやすい職場環境の整備
処遇改善加算は(Ⅰ)~(Ⅳ)の4段階に分かれており、(Ⅰ)の加算率が最も高く設定されています。つまり、より上位の区分ほど、賃上げの資金を多く確保することができます。
処遇改善加算で得られた資金は、介護職員への配分が基本で、特に経験・技能のある職員が優先されます。ただし、事業所内の他職種への配分も認められています。
処遇改善加算を取得するための条件
処遇改善加算は、3つの要件の達成状況に応じて、取得できる加算区分が決まる仕組みです。各要件と加算区分の関係は以下のとおりです。

それぞれの要件のポイントをわかりやすく解説します。
月額賃金改善要件
新たに処遇改善加算を取得する場合は、月額賃金改善要件(Ⅰ)を満たす必要があります。
具体的には、加算(Ⅳ)相当の加算額のうち、半分以上を毎月支給する賃金として職員に還元することが求められます。すべてを一時金や賞与として支給するのではなく、ベースアップにつながる形での改善が必要です。
※(Ⅱ)は制度の一本化に伴って設けられた経過措置的な区分です。
キャリアパス要件
職員がキャリアアップする道筋や制度が整備されているか確認するための要件です。以下の5つの区分があります。

職場環境要件
次の6つのテーマに分類された28項目の取り組みのうち、どれだけ実施しているかが問われる要件です。具体的には、加算(Ⅰ)(Ⅱ)は13項目以上、加算(Ⅲ)(Ⅳ)は7項目以上が必要です。

令和8年度介護報酬改定で何が変わる?
介護報酬は原則として3年ごとに改定されています。前回の改定は令和6年度だったため、通常であれば次回は令和9年度に実施される予定でした。しかし、近年の物価高騰や他産業との賃金格差の拡大を受け、令和8年度に臨時の介護報酬改定が行われることになりました。ここからは、介護給付費分科会の議論内容をもとに、令和8年度介護報酬改定のポイントをわかりやすく解説します。
改定率+2.03%の大半は処遇改善に充当
令和8年度介護報酬改定では、全体で+2.03%のプラス改定が予定されています。その内訳は次のとおりです。
- 処遇改善加算の改定:+1.95%
- 介護保険施設等における食費の基準費用額の改定:+0.09%
このように改定率の大半を処遇改善加算が占めています。
処遇改善加算はここが変わる!3つのポイント
臨時改定による主な変更点は次のとおりです。
ポイント①:介護従事者全体を対象に月額1万円の賃上げ
従来の処遇改善加算は介護職員への配分が基本でしたが、改定後は対象が介護従事者全体へと広がります。あわせて、月額1万円の賃上げを実現するため、加算(Ⅰ)~(Ⅳ)の加算率の引き上げが予定されています。
ポイント②:生産性向上・協働化で月額7,000円の上乗せ
加算(Ⅰ)(Ⅱ)を算定し、生産性向上や協働化に取り組む事業所の介護職員に対して、月額7,000円の上乗せが実施されます。この上乗せの適用可否は、令和8年度特例要件を満たしているかによって決まります。
令和8年度特例要件
次のいずれかを満たすことで取得することができます。
- 訪問・通所サービス等:ケアプランデータ連携システムに加入し、実績報告をしていること。
- 施設サービス等:生産性向上推進体制加算(Ⅰ)(Ⅱ)を取得し、実績報告をしていること。
- 社会福祉連携推進法人に所属していること。
加算(Ⅰ)(Ⅱ)は「イ・ロ」に細分化
この特例要件の有無によって、加算(Ⅰ)(Ⅱ)はさらに次の2つに分かれます。
- イ:令和8年度特例要件を満たさない場合
- ロ:令和8年度特例要件を満たす場合(加算率が上乗せ)
月1万9,000円の内訳と注意点
介護給付費分科会の議論において、介護職員に対して最大月1万9,000円の賃上げが示されています。その内訳は次のとおりです。
- 10,000円-:ポイント①の介護従事者全体に対する加算率の上乗せ
- 7,000円:ポイント②の介護職員に対する加算率の上乗せ
- 2,000円:各事業所が実施する定期昇給分
つまり、定期昇給が2,000円に満たない事業所の場合、月1万9,000円の賃上げに届かない可能性があります。
ポイント③:介護サービスの対象拡大
従来は対象外だった以下の介護サービスが新たに処遇改善加算を取得できるようになります。
- 訪問介護
- 訪問リハビリテーション
- 居宅介護支援
ただし、これらの介護サービスが処遇改善加算を取得するには、以下の2つのうちいずれかを満たす必要があります。
- 加算(Ⅳ)の取得に準ずる要件
- 令和8年度特例要件
改定後の加算率は以下のとおりです。

【図1】厚生労働省 / 令和8年度介護報酬改定について
令和8年度介護報酬改定による事業所への影響
令和8年度介護報酬改定では、介護従事者全体への賃上げが強化されるため、事業所にとってはメリットしかないように感じるかもしれません。
一方で、経営面では、注意すべきリスクも存在します。ここでは、今回の改定によって生じるメリットと、あらかじめ押さえておきたい注意点・リスクを解説します。

得られるメリット
令和8年度介護報酬改定を活用して処遇改善に取り組むことで、事業所は次のようなメリットを得られます。
介護従事者の賃上げの資金を確保できる
今回の改定で賃上げの資金を確保しやすくなります。物価高騰(光熱費・食材費・備品調達費等)により、「給料を上げたいが、資金が足りずに踏み切れない」という事業所にとっては、大きなメリットです。
採用力・定着率の向上につながる
賃金水準の改善は、採用面での競争力強化と既存職員の離職防止の両面に効果があります。
介護従事者のモチベーションを高められる
賃上げは介護従事者のモチベーションの向上に役立ちます。その結果、仕事への意欲が高まり、以下のような好影響も期待できます。
- サービス品質の向上
- 利用者満足度の向上
- 職場の雰囲気の改善
このように介護従事者の賃金が上がることで、好循環が生まれやすくなります。
押さえておきたい注意点・リスク
一方で、処遇改善加算を取得・活用するにあたっては、次のような点に注意が必要です。
1万9,000円の賃上げには定期昇給が不可欠
最大月1万9,000円の賃上げの内訳には、2,000円の定期昇給が含まれています。つまり、事業者によっては、加算を最大限活用しても月1万9,000円に届かない可能性があります。
事務負担が増える
処遇改善加算を取得するには、計画書の作成や実績報告、職員への説明など、事務作業が発生します。今回の改定では新たな区分も創設されるため、これまで以上に事務負担が増える可能性もあります。事務作業の増加により、通常業務に悪影響が出るリスクに注意が必要です。
赤字に陥るリスクがある
処遇改善加算は、介護従事者のベースアップを支援する制度です。しかし、賃金のベースアップは事業所にとって固定費の増加を意味します。また、処遇改善加算は総報酬単位数に加算率を乗じて算出する仕組みです。つまり、稼働率が低く総報酬単位数が少ない事業所では、ベースアップを実施しても、その原資となる資金を十分に確保できず、赤字に陥る可能性もあります。
処遇改善による赤字化を防ぐカギは「稼働率」
臨時改定は賃上げを後押しする制度ですが、経営の安定には稼働率の維持が不可欠です。稼働率が低下すると総報酬単位数が減り、処遇改善を継続する体力を失いかねません。
稼働率の高低は、事業所の収益構造に次のような影響を与えます。
参考として、次の介護老人福祉施設のケースを考えてみます。
前提条件
- 定員:100名
- 基本報酬:利用者1名あたり802単位(全員が要介護4と仮定)
- 介護従事者数:55名(うち介護職員45名)
- 計算対象:基本報酬+介護職員等処遇改善加算のみ
- 介護処遇改善加算率:改正前(Ⅱ)13.6%、改正案(Ⅱロ)17.2%
- 単価:1単位=10円
改正前(処遇改善加算率13.6%)の場合
| 稼働率 | 総報酬単位数(単位) | 処遇改善加算(単位) | 介護報酬(円) | 稼働率90%との介護報酬の差(円) |
|---|---|---|---|---|
| 90% | 2,165,400 | 294,494 | 24,598,940 | - |
| 95% | 2,285,700 | 310,855 | 25,965,550 | 1,366,610 |
| 100% | 2,406,000 | 327,216 | 27,332,160 | 2,733,220 |
稼働率90%と95%の事業所では、1か月あたりの介護報酬に約137万円の差が生じます。稼働率100%との差は約273万円にまで拡大し、半年単位で見ると、その差は約800万円から約1,600万円にも及びます。このように、稼働率の差はわずかに見えてもその影響は重大です。
次に、改正案が適用された場合を考えてみます。
改正案(処遇改善加算率17.2%)の場合
| 稼働率 | 総報酬単位数(単位) | 処遇改善加算(単位) | 介護報酬(円) | 改正前との差額(円) |
|---|---|---|---|---|
| 90% | 2,165,400 | 372,449 | 25,378,490 | 779,550 |
| 95% | 2,285,700 | 393,140 | 26,788,400 | 822,850 |
| 100% | 2,406,000 | 413,832 | 28,198,320 | 866,160 |
改正により処遇改善加算率が上がると、稼働率90%の事業所も介護報酬は増額します。ただし、処遇改善加算は職員の給与のベースアップが前提です。今回のケースで、上乗せ分までベースアップを行った場合は、1カ月あたり合計865,000円の人件費が増えます。
内訳
- 介護職員:45名×17,000円
- 介護職員以外の介護従事者:10名×10,000円
この金額を先ほどの改正前との差額と比較すると、以下のとおりです。
| 稼働率 | 改正前と改正案の介護報酬の差額‐人件費の増額分(円) |
|---|---|
| 90% | -85,450 |
| 95% | -42,150 |
| 100% | 1,160 |
このように稼働率が低い事業所では、処遇改善加算の見直しで介護報酬が増えても、人件費の増額分をカバーできない可能性があります。今回のケースはあくまで単純化した例であり、「稼働率が○○%以下の事業所は増額分をカバーできない」というわけではありません。とはいえ、次のことは言えます。
- 稼働率が高い事業所:総報酬単位数が増えるため、賃上げの資金を確保しやすい
- 稼働率が低い事業所:総報酬単位数が減るため、加算を取得しても人件費の負担が重くなる
つまり、安定経営には「賃上げ」よりも先に「稼働率」を意識することがポイントです。
特に今回の改定では、事務負担の増加が想定されます。その影響で、営業活動や利用者獲得への取り組みが後回しになると、稼働率が下がり、結果的に経営を圧迫することにもなりかねません。
安定した経営を続けるためには、以下のような取り組みを通じて、稼働率を高い水準で維持することが重要です。
- 営業活動を強化する
- 顧客満足度を高め、継続利用につなげる
- キャンセルを減らすためのフォロー体制を整備する
処遇改善への対応と並行して、こうした取り組みを継続できるかどうかが、今後の経営の安定性を左右する重要なポイントといえるでしょう。
まとめ
令和8年度介護報酬改定は、事業所にとって介護従事者全体の処遇改善を進めるチャンスです。一方で、人件費だけが先行して経営を圧迫するリスクもはらんでいます。この改定のメリットを最大限に活かすためには、稼働率を高い水準で維持することを最優先に考えるようにしましょう。
「ほのぼの」シリーズのような各種支援ソフトを活用して事務負担を減らし、浮いたリソースを営業活動や利用者獲得に振り分けるという視点が重要です。
当コラムは、掲載当時の情報です。
参考URL
厚生労働省 「処遇改善加算」の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算)され、加算率が引き上がります
厚生労働省 介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和7年度分)
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