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介護職員から退職を申し出された時の対応

2022/12/12

介護業界は慢性的な人手不足が問題となっており、いかにして人材を確保するかが重要な課題です。しかし人手不足に拍車をかけるもう一つの問題に離職率の高さが挙げられます。新規流入が少ない状況で、さらに退職となると最悪の場合は利用者に対してケアを提供できる人員を確保できない事態にも陥ります。介護事業所の管理者や、法人の運営者は職員が退職したいと申し出た時にどのように対応することが望ましいでしょうか。今回は介護業界の退職問題について考えてみましょう。

介護業界は離職率が高い産業である

令和3年度「介護労働実態調査」によると、介護業界の離職率は14.3%という数字が出ています。過去最大であったのは平成19年度の21.6%で、そこと比較すると随分と介護業界の労働環境は改善されてきているのではないかとの推測もできます。しかし令和3年度の全産業の離職率は13.9%という数字が出ており、介護業界が上回っていることが分かります。

職員不足により倒産する事業所が増加

離職率の高さと重なり増加しているのが介護事業所の倒産件数です。東京商工リサーチの発表によると、2022年1月から9月の倒産件数は100件で、過去最多を更新しそうなペースとなっています。倒産理由としては新型コロナ感染拡大による利用者の利用控えや物価の高騰による経営コストの圧迫も挙げられますが、職員不足により十分なサービスを提供できずに売り上げを伸ばせないことも背景として挙げられています。

今後さらに需要が拡大すると見られている介護業界において、既存の職員が離職してしまうことはサービスの質の低下やサービスそのものが提供できなくなり、事業所の存続が危ぶまれる事態に陥ります。介護事業所を運営する側としては、なんとか職員に働き続けてもらえるようの対策が求められます。

介護職員が退職したいと申し出た時は?

事業所の管理者や法人の運営者は職員の「辞めたい」との申し出に少なからず動揺した経験があると思います。もちろん人手が少ない中でさらに退職となると職員配置に非常に頭を悩ませることになります。ですので、なるべくなら考え直してもらいたいですよね。ですが「困るから辞めないでほしい」と伝えたところであまりいい結果は得られません。考え直して働き続けてもらうためには、職員の辞めたいと申し出る理由を明確にすることが大切です。では介護職員の経験年数や役職によってどのような対応が望ましいかを見てみましょう。

新人職員の場合

私の経験上ですが、離職する介護職員の大多数は入職して半年以内に固まっている傾向が強いと思います。事実、職業紹介を通じて入職したがすぐに辞めてしまったと答えた方の実に95.2%は半年以内に退職しています。

新人職員が早期に退職したいと願い出た際にその理由をヒアリングした結果、多かったのは以下の3点です。

仕事が覚えられない

新人さんで最も多い退職理由です。介護の仕事は利用者への直接ケアのみではなく洗濯や掃除、事業形態によっては料理などの業務があり、さらには利用者の観察記録やケアの提供記録業務、送迎業務など非常に多岐に渡ります。初めて介護の仕事をする方がすぐに覚えられる業務量ではないことがほとんどです。

事業所に長く勤めている職員は、すでに体で覚えている段階ですので自然かつ無意識に業務をこなせるでしょうが、新人さんはひとつひとつを意識しながら業務にあたるしかできないのです。

介護の現実にショックを受けた

私が面接を担当していた時、必ず「なぜ介護の仕事をしようと思ったか」という質問をしていましたが「おじいちゃん、おばあちゃんが大好きなんです」といった返答をする職員さんは現実の介護現場を見てショックを受ける方が多かったように思います。ひと言で言ってしまえば、世間の介護の表面的なイメージを介護の仕事と捉えてしまった場合です。実際には食事、入浴、排泄の支援や認知症を有する方への対応など「可愛い」の言葉で済まされないものであり、決して楽しいことばかりではありません。

人間関係がストレス

新人さんは当然ではありますが、仕事を覚える立場です。するとその新人さんに仕事を教える職員の存在も必要です。それだけの関係性であればよいのですが、介護職員によっては新人さんの人間性を勝手に評価したり、使える、使えないという判断を短期間で下したりと新人さんにとって非常にストレスのかかる関係性を構築してしまうことがあります。希望を持って介護の現場に飛び込んだのにそのような扱いをされたのでは誰でも働く意欲を失くしてしまうことでしょう。

以上のように新人職員は介護の現場に不慣れなことが退職理由の根本にあることが多いです。その際には新人職員が介護の仕事は続けたいと考えているのか、どうなれば続けたいと思える環境であるのかをできる限り話し合うことが望ましいです。

私は新人職員さん一人ひとりが仕事の覚えるスピードは違うことを常に意識し、また職員によって教える内容に差があってはいけないと考え、新人さんが覚える業務のリストを作成していました。教育を担当する職員がリストを見て覚えた業務やそうでない業務を見える形にし、新人職員に合わせた教育を意識していました。ただ、先述の「介護の現実にショックを受けた」という職員は引き止めるのは困難でした。自身が働きたい世界と違ったことを説得できる材料はほぼありませんでした。

ですが、そうではない職員には介護業界の先達として話を聞いてやるという姿勢ではなく、新人職員の置かれている立場や気持ちになって話を傾聴することが重要です。かける言葉は「そのうち慣れる、そのうち覚える」ではダメです。新人職員にとって「今慣れないこと、覚えられないこと」が問題なのです。

中堅職員の場合

経験が5年前後の中堅職員の退職理由をヒアリングした場合最も多く挙がったのが「人間関係」です。男性職員の場合は「給与」や「キャリアアップが見込めない」といった理由が多く、女性職員の場合は「結婚する」といった理由が多かったように思います。

ある程度の勤続年数を経た職員は、仕事そのものには慣れていると見てもよいでしょう。ですが、慣れた頃だからこそ「今後続けていけるのか」という考えが去来する時でもあります。法人がしっかりとキャリアアップの道筋を提示しているのであればモチベーションの保ちようもあるのですが、ない場合は中堅職員にとって「いつまで一般の介護職でいればいいのか」という悩みは当然出てきます。これは、真摯に介護業界で働くことを望むからこそ出る悩みです。誰もが一所懸命に頑張ったことには相応の報いを求めます。それが報われないとなると、何のために頑張ればいいのか分からなくなり仕事への意欲を失くす、他者を攻撃してしまうようになります。職員一人ひとりが目的や目標を持って働いている職場では人間関係が悪化するような事態は少なく、離職率はおのずと低い状態にある傾向が強いように思います。

中堅職員の退職の申し出があった場合もしっかりとヒアリングを行い、その職員が今の職場でどう自己実現を図っていきたいのかを知る必要があります。給与面や結婚等で退職せざるを得ない場合に考え直してもらうことはほぼ難しいといえますが、そうでない場合はいかにして自分のキャリアにやりがいを感じてもらえる道筋を立てられるかが主な焦点になるでしょう。

管理者の場合

事業所の管理者が退職したいと申し出る場合も当然あります。この場合、話を聞くのは人事部や部長といった上司がその役を担うことになるでしょう。

管理者が退職した主な理由として挙がるのは「メンタル面、体調面の不調」であることが多いように思います。ですので、管理職が退職の話をしてくる時にはすでに意思は固いことがほとんどです。介護業界は管理者やサービス提供管理責任者といった役職にはそれに応じた業務量や責任感が生じやすく、業務全体が忙しくなりやすいです。その上介護職員のケアやフォローなどの立ち位置を期待されているのも役職者です。しかし管理者は当然事業所に一人だけですし自分が責任者となるわけですから、誰にも自分に悩みやつらさを相談できない事態に陥りやすいです。

話を聞く立場の方は、「退職を申し出た段階」で引き止めるのは困難と思ったほうがよいでしょう。であれば、常日頃から管理者が自分の悩みを相談できる関係性を組織としていかに構築するかが課題であるといえます。事業所の責任を預かる役職とはいえ、組織の一員の職員であることは変わりません。事業所の運営で困ることはないか、悩みはないか、解決方法はないかの意見を傾聴し、共に考える姿勢が求められます。

退職したい職員を引き留めてもよい?

職員が退職したいと申し出る理由は経験年数や役職によって様々ではありますが、そもそも「辞めたい」という申し出に対して引き留めても良いものなのでしょうか?

日本では憲法で「職業選択の自由」が保障されています。職業を自由に選べるということは退職も自由に選べるということです。したがって、原則的には退職を希望する職員を引き留めることはできないと考えてもいいです。しかし人手不足が慢性化している介護業界ではしばしば職員を引き留めようとすることがありますが、その引き留め方には悪影響しか及ぼさないやり方があるのも事実です。

絶対にやってはならない引き留め方、説得は「人がいないから」です。もちろん事業所側の人手不足だからという理由は理解できますが、辞めたいと申し出ている本人にとってはなんら関係のないことです。辞めたいと申し出た自分に寄り添ってくれるわけでもなく事業所の都合を押し出されると、辞めたいと願う気持ちはさらに強固になるでしょう。

退職を希望する介護職員に対して事業所として引き留めできるケースは、退職理由が現場や組織の改善が必要だと考えられる場合のみです。いわばその職員は会社のここが不満だからという旨を明確に提示してくれているのです。退職を希望する方が感じている不満は、現在働いている他の職員も同様に感じていることでもあり、改善しなければさらに次の退職希望者が出てきてしまうおそれがあります。ですから不満の内容が事業所や組織の質を向上させることに繋がるのであれば積極的に意見を汲み、改善していくことを退職希望者を含め他の職員にも伝えていくことが大切 です。

私が管理者をやっていた際の話ですが、業務がきついから辞めたいと願い出た職員に対し、どうすれば改善できそうかを話し合ったことがあります。その結果、業務量に対し人手がどうしても不足する勤務帯に新たな勤務時間帯を設定することで改善に繋げたことがあります。その職員も納得して従事してくれました。職員が現場を見てくれているからこそ持つ不満をしっかり拾い上げることが結果的に職場の改善となるのです。話を聞く者は決して自身の都合や感情論に走らず、職員の話を傾聴する姿勢が必要です。

どうしても退職する職員へはどう対応する?

もちろん話し合いの結果で退職の意思が変わらない、希望する改善内容にどうしても応じられないといった職員もいます。その場合は事業所側としては無理に引き留めることはできません。事業所側はそのような職員に対してはどのような対応をすることが望ましいでしょうか。

答えは「気持ちよく送り出してやる」です。介護業界である程度の経験がある人ほど、退職後の次の職種にやはり介護職を選択します。ですが、介護業界全体に失望したというような介護職員は業界そのものから離れることを選択してしまいます。業界全体で人材不足が問題の介護業界においては、それは業界全体の人材損失に繋がってしまいます。

どうしても辞めるという職員を無理に引き留められはしませんが「今までありがとう」「また帰ってきてくれたらいいよ」という意思は伝えておきたいものです。介護職員にとっても、離れてみて分かることもあり、実際に一度退職した人間が再び戻ってくるケースもしばしば見られます。介護事業所として、また戻ってきてくれる関係性を構築することはとても重要なことです。そのためには本人の意思を尊重し、袂を分かっても介護業界でお互い頑張ろうと励まし、お互いが前向きになれるような意識が必要です 。

また入職時に取り交わしていることが多いと思いますが、退職後の個人情報の取り扱いや事業所内の情報を持ち出さないことなど、事業所側の情報を守ることをお互いに再度話しておくことも大切です。現在は個人情報の取り扱いについての罰則が厳罰化されておりますので、事業所のみならず退職する職員を守ることにもつながります。

まとめ

介護職員はその経験年数や役職によって様々な退職理由があります。退職の申し出を受ける者は可能な限り傾聴を行い、現場や組織の改善が必要なことであれば積極的に改善し職員の満足度を上げられるよう取り組むことが重要です。もちろん退職の話し合いになる前に改善に繋げていけることが最も大切ですので、常日頃から職員とのコミュニケーションに努めることが離職を減らしていく助けとなるでしょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

参考URL

令和3年雇用動向調査結果の概要

令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について

医療・介護分野における職業紹介事業に関するアンケート調査 集計結果(概要)

ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

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