NDソフトウェア株式会社
NDSコラム

介護支援ソフト「ほのぼの」シリーズのNDソフトウェアです。介護業界・障がい福祉業界の、トレンドや情報を発信しております。

利用者のハラスメント行為に対しての介護職の応対とコンプライアンスについて

2023/06/08

介護の仕事は高齢や障がいを理由に日常生活に何かしらの支援を要する方々が、一人の人間として当たり前に生きることができるようその方に必要な支援を提供する仕事です。
介護サービスの利用者は第三者からの支援を要する方であり主体的な生活、尊厳を保持した生活が脅かされやすいため、介護職はその職務上、憲法や法律の遵守、コンプライアンス遵守の視点を持ち、利用者の矢面に立って権利を擁護していくことが求められます。
しかし利用者も様々であり、中には介護職員に対していわゆる「ハラスメント行為」をしてくる利用者も決してゼロではありません。その際に介護職はコンプライアンスの視点からどのような対応が求められるのかについて解説します。

利用者から介護職員への「ハラスメント」

介護職員が利用者に対し虐待とも取れる行為をすることは決してしてはなりません。それは叩くといった分かりやすい身体的な虐待のみならず暴言を吐く、無視するといった心理的虐待、必要な介護サービスを提供しないといったネグレクトなど利用者の心身にダメージを与える行為がすべて含まれます。介護サービスの利用者は日常生活の維持に第三者からの支援を要する方々であるため、その主体性が侵害されやすいといえます。

介護職は介護サービスの利用者の主体性を尊重した支援が大前提ですので、利用者に対し嫌がらせやいじめ、迷惑行為といったいわゆる「ハラスメント」は厳禁です。

しかし実際に介護の現場を見てみると介護職が利用者の主体性を守る姿勢を貫く中、当の利用者が職員への「ハラスメント」ともとれる行為をしてしまっている場面も少なくありません。一般的に介護サービスは高齢の方が多数を占めるため、介護職と利用者の間には年齢差がある場合が多く、またどうしてもサービスの利用者と提供者という関係性やサービス費を支払う側と受け取る側との関係性から利用者は顧客であるため、介護職員が下手に出やすい立場になることもあります。

しかし近年カスタマーハラスメント、通称「カスハラ」という言葉が聞かれるようになり、顧客が従業員に対してハラスメント行為をすることが問題視されています。介護業界も同様に利用者からのハラスメント行為がしばしば見られ、さらには介護業界ならではのハラスメントと取れる行為も存在します。

介護業界でのハラスメントの実情

会社内での嫌がらせやいじめ行為は今の社会では決して許されるものではなく、ハラスメント行為を行った者は何かしらの処分を受けることが近年では当たり前になっています。さらに飲食店等で顧客の迷惑行為に対しても店側が毅然とした対応を取る姿勢が求められるようになってきているなどハラスメントには毅然とした対応と然るべき処置を取るべきといった世論が形成されつつあるように思います。

介護業界も当然顧客のハラスメント行為には毅然とした対応を取って然るべきなのですが、やはりその業界の特性上慎重にならざるを得ない部分も見受けられます。

ひとつが顧客である利用者は心身のバランスを崩している方や自身の思う生活が自身の思い通りに送りにくいことから苛立ちや空虚感等を感じ情緒が不安定になりやすい方が多くおられるという事実です。

そしてもうひとつに利用者に高齢の方が多いという事実です。一般的に人は高齢化に伴い頑固になりやすいといわれています。頑固といっても偏屈になるというわけではなく自らの価値観が強固になるという方が正しいでしょう。長年自分の人生を生き、日常生活や社会生活を通して得たその方の処世術はそのままその人の価値観となり積み重なっていきます。若い間は新たな価値観に触れることで価値観の再構築をすることも比較的難しいことではありませんが、高齢となると新たな価値観に順応することが難しくなりやすいのです。

例えるならピラミッドの石を2~3段積んだ状態ならまだやり直そうという気も持てますが、6~7段積んだ状態やそれ以上ともなると、長年かけて苦労して積んだ石をすべて捨ててやり直すことは自分の功績を否定することになります。またやり直すにしてもその体力が衰えやすくなっているためおそらくやり直す気になれないでしょう。その結果自らの功績、生きた結果を信じることがその方の自我を保つための所作となるのです。高齢の介護サービス利用者は、一人ひとり生きてきた経緯が違いますので当然価値観も一人ひとり異なります。そのために介護サービスの提供者とは価値観の軋轢を生みやすく、時としてハラスメントとも取れる行為に至ってしまうといえます。

介護職に求められるコンプライアンスの視点

介護業界はそういった利用者の特性を理解して介護を提供することが求められるためハラスメント行為に対しても理解受け容れようとしてしまう土壌ができあがっているともいえますが、それも決して正しいとはいえません。

利用者からのハラスメント行為に対して、介護事業所側はただひたすら受け容れてしまっては介護職員の心身に大きな負担がかかり離職してしまう、また些細なハラスメントにもすべて厳しい姿勢で臨んでしまうと高齢や障がいへの理解が及ばず結果的に利用者が社会から孤立してしまいます。つまり極端なやり方では介護事業所の円滑な運営に支障をきたすおそれがあります。

そのため介護業界で強く求められるのが法令遵守、コンプライアンスの視点です。
コンプライアンスは今では広く世間に知られた言葉ですが、その意味は非常に多岐に渡っています。本来は法令遵守を意味する言葉であり、法令順守とは法律や規則を守ることを指します。しかし現在ではコンプライアンスには社会道徳や社会規範、社会倫理を守ることの意味も含んでおりただ法律や規則を守っているだけではコンプライアンスに沿った対応ができているとはいえないのが現状です。

つまり介護業界における利用者からのハラスメント行為に対しては、法律や規則に則って対応すること以外にも、社会的な道徳、ルール、人として求められる倫理観、介護職として求められる倫理観にも照らしながら適切な対応をしていくことが望まれます。

これを一人ひとりの介護職員がそれぞれ個別に理解して利用者の応対をしていくことは困難と言わざるを得ません。法令遵守に関しては明確に定められていることを守ればよいのですが、道徳や倫理観の部分では介護職も人であるため一人ひとり差異が生じるのが一般的であるためです。介護職一人ひとりの裁量に委ねてしまうと別のトラブルを招く結果となるでしょう。そのため介護事業所でコンプライアンスの基準をしっかりと定めて明文化することで介護事業所としての対応の基準を設けることが非常に大切です。

介護職へのハラスメントの例と対応例

では介護業界でよくあるハラスメントとなりうる行為とその対応例をいくつか紹介します。 ここでいうハラスメントとはただ介護職に危害を加えようとするものだけを指すのではなく、事業所として、介護職員として応対に困る行為も含んでご紹介いたします。

例1:お礼を渡そうとする

利用者がサービス中や送迎時等に何かしらのお礼を渡そうとする行為はよく見られます。特に困るのが現金です。

対応

現金の授受はサービスの利用料以外では厳に慎む行為です。随分前になりますが、短期入所のお送りの際にご家族がお礼にと、お金を入れた封筒を渡そうとして固辞したのですが、車を発車する際に窓を叩かれ何かあったのかと窓を開けた瞬間隙間から封筒を放り込まれ家に入られてしまったことがありました。だから「しょうがない」ではなく、こちらとしてはポストに(ドアの内側に落ちるタイプのものでした)現金を入れ、事業所に戻った後にお電話にて現金は受け取れないこと、お気持ちは非常にありがたく頂戴する旨をお伝えしました。

大切なことはお礼を渡そうとする行為そのものに拒否を示すのでなく、固辞しつつも「なぜお礼をしようとするのか」に対しての理解を示すことです。

例2:食事を作って待っている

訪問介護で利用者の自宅に訪問した際にご家族が料理等でもてなそうとする場合があります。それを食する時間は当然サービス提供に入っておらず、時間も限られているため対応に困るのがしばしばです。

対応

現金などとは違い非常に対応に困りやすいのが食事やコーヒー、お茶などの飲食物の提供です。固辞して感謝を述べても料理そのものを食べないというのは食材そのものを無駄にすることに繋がります。食でもてなすことを良しとしていた時代、生き方をしてきた人にとって、それを断られることはとても悲しいことでありご家族によっては怒り出す方もいらっしゃいます。事業所の方針を定めておくことが一番なのですが、初めてそういったケースに出会うこともあるでしょう。その際はサービス提供を最優先にし、時間が余るようであればいただくことをはっきりと告げるようにしましょう。また仮にいただいた場合、お礼を述べるとともに次回からの用意は不要であることを、「いりません」ではなく受け取れない規則であることを告げ、お気持ちだけで充分ですと拒否ではなく感謝の気持ちを前面に出して伝えるようにすると良いでしょう。それでも食い下がる方には介護職ではなく管理職に応対してもらうことが適切です。

例3:連絡先を聞いてくる

通所介護や訪問介護の現場では介護職員の個人的な連絡先を聞いてこられる方がいます。 理由は様々であり、利用者自身が信頼している職員だから何かあったら職員個人に連絡を取れる状態を作りたい方や、介護職員と個人的に仲良くなりたいという思惑を持っている方もおられます。

対応

原則的には介護職員のプライベートな情報を利用者とやり取りすることはコンプライアンスの観点からはよろしくありません。利用者にとっては信頼しているからであっても、本来利用者は介護事業所と契約を結んでいる関係です。一定の介護職のみに傾倒してしまってはサービスの提供体制に不和が生じることもあります。

法人で用意した携帯電話の場合は職務上での利用ですのでやり取りすることは悪くありませんが、個人的な電話番号を教えることはできないと毅然と告げることが適切でしょう。

例4;全否定してくる

利用者が介護職のやることなすことに対し文句を言ってくる、否定してくる場合があります。「それは違う」「それはこうだ」と自身の考えややり方を押し付けてくる場合です。

対応

先述の通り、利用者は自分の価値観に誠実です。それはもちろん介護職も同様であり、自らの価値観を否定されることは時に苦痛や苛立ちを感じることもあるでしょう。

しかしここに関しては「人の価値観は多種多様であること」を深く理解して職務に臨む介護職の受容姿勢が求められます。介護職の職業倫理に深く関わる話であり、利用者の考えや価値観を傾聴し合わせていくこともコンプライアンスとして必要な対応です。

「人の価値観は違う」ということを意識し「ああ、この方はこういう考えの人なんだな」と俯瞰で見た対応ができれば介護職自身の価値観は脅かされずに済みます。

しかし否定の矛先が人格否定や罵倒までに及ぶと話は別です。その際は承服できない旨をはっきりと告げ、介護事業所側と利用者間で対応を協議するようにしましょう。決して介護職個人と利用者とのやり取りにしないことがトラブルを最小限に済ませるコツです。

例5:他の職員と比較してくる

「あの人はやってくれるのに」とか「あの人はうまいのにあなたは下手だ」など他の職員と比較してくる利用者は多く見られます。さらには対応する介護職によって全然違う態度を取られ、自分だけに当たりが強いなどの場合もありそれが職員のストレスとなることもあります。

対応

できることであれば当然、どの職員に対しても同様の接し方をしてほしいと望むことではありますが、やはり人である以上それは困難と言わざるを得ません。私たちでも社会生活で人や場所によって接し方を変えるでしょう。介護サービスを利用する方にとって介護の現場とは日常生活であると同時に他者と関わる社会生活の場でもあるのです。そこを理解することはやはり介護職の職業倫理に深く関わります。

自分とは合わない方なんだなと理解することや、自分にだけ当たりが強いのには何かその方の価値観に合わない部分があるのかなど客観的に見ることで心の余裕を生んだり、改善の機会としたりする等の柔軟さが求められます。介護職個人ですべて解決することは難しいため、応対の違う介護職に相談してみる等で自分の動き方を工夫してみましょう。ある日を境に利用者の態度が大きく軟化することもよくある話です。

もちろんこの場合も利用者の態度や比較の仕方が人格否定に及ぶようであれば事業所としての毅然とした対応が必要です。

例6:セクシャルハラスメント

介護業界全体で非常に悩みの種となりやすいのがセクシャルハラスメントです。女性職員に対して身体に触れる行為や性的な言動を浴びせる行為は多くの職員のストレスです。

対応

セクシャルハラスメントに関しては、介護事業所として厳格に規則を設定しすべての職員がその規則に則った対応を統一することが何よりも重要です。

言葉は悪いですが、中には「別に触られてもいい」という価値観の職員も時々います。利用者からすると介護職一人ひとりの価値観など関係なく、一人がOKしてしまうと全体がOKであると誤認する方もいらっしゃいます。また介護事業所側が、介護の仕事をしているから触られても文句を言ってはいけないという姿勢では、介護職自身の尊厳を、仕事を盾に踏みにじる行為にもなります。介護職への行為や言動がセクハラやその他のハラスメントに当たることをしっかりと明文化し提示することと、介護職がその規則を遵守し対応することが何よりも重要です。

まとめ

介護業界における利用者の介護職員に対するハラスメント行為は、高齢や障がいがあることに対しての理解が必要である職業倫理の観点と、介護職員も尊厳ある一人の人間であることを踏まえた介護事業所の規則をしっかりと定めることが重要です。利用者の生活を守るために理解に努める必要がある部分と、決して受け容れてはいけない部分のラインを見える形にすることが信頼ある介護事業所として必要な対応といえるでしょう。

当コラムは、掲載当時の情報です。

まずはお気軽に
お問い合わせください
  • 介護・福祉・医療など、事業に適した製品やその活⽤⽅法が知りたい
  • 製品・サービスを体験してみたい・購⼊を検討している
  • まずは知識豊富な⼈へほのぼのシリーズの利⽤について相談してみたい
ライター 寺田 英史 短期入所生活介護にて13年間勤務し職責者、管理者を歴任。
その後、介護保険外サービスを運営。その傍らで初任者研修、実務者研修の講師としても活動中。

PAGE TOP