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介護の業務改善に役立つマスターラインとは?意味やメリットを解説

2025/11/07

介護現場では、限られた時間と人員で多くの業務をこなす必要があり、効率化が大きな課題となっています。こうした中、厚生労働省が推奨している方法のひとつは、マスターラインの設定です。本記事では、介護分野におけるマスターラインの意味やメリット、手順について解説します。

介護におけるマスターラインとは

マスターラインとは、各業務を完了する時間の基準です。現場ではこの基準をもとに、職員が業務を分担し、ケアを提供しています。その主な目的は、各業務の終了時間を明確化し、業務の円滑化や効率化を促すことです。例えば、以下のように時間を共有することで、全体の動きが揃いやすくなります。

  • 朝9時までに口腔ケアを完了する
  • 16時までに入浴介助を終える

このように各業務の終了時間を明確にすると、実際にどの作業にどれくらい時間がかかっているのかを把握でき、3M(ムリ・ムラ・ムダ)と呼ばれる非効率的な業務を見つけやすくなります。3Mの各視点と概要、例は以下のとおりです。

視点 概要
ムリ 過度な負担がかかる業務
  • 利用者の見守りが不十分な時間帯がある
  • 女性職員一人で体重の重い男性利用者の移乗介助をする
  • 経験の浅い新人職員がいきなり夜勤をする
ムラ 職員の業務量のばらつき
  • 自己流の手順で業務を行う職員がいる
  • 記録の仕方が職員によって異なる
  • 特定の職員だけが多くの業務を担当している
ムダ 本来不要な業務
  • 何度も物品を取りにいく
  • バイタルなどの同じ記録を何度も転記する

また、厚生労働省は介護分野における生産性向上の取り組みの一環として、マスターラインの設定を推奨しています。その主な背景は次の3つです。

人手不足

日本の人口は、2008年の1億2,808万人をピークに減少傾向が続いています。この傾向は今後も続き、主な働き手である15歳から64歳までの生産年齢人口が占める割合も減少すると予測されています。

具体的には、2020年の生産年齢人口が占める割合は59.5%でしたが、2070年には52.1%にまで減少する見込みです。こうした社会的背景の中、介護分野における人材確保はさらに困難になると予測されています。このような背景から、生産性向上の取り組みが重視されています。

【図1 厚生労働省 / 我が国の人口について】

介護ニーズの増加

日本は世界でも有数の高齢化社会です。2020年の高齢化率は28.6%で、2070年には38.7%となる見込みです。高齢者が増えると、障がいや疾患の影響で介護を必要とする人の割合も増えることから、介護ニーズの増加が予測されます。

一方で、先に述べたように、人口減少の影響により人手の確保が難しくなります。このことから、高齢化に伴う介護ニーズの増加に対応するには、効率的に業務を遂行できる仕組みを整えることが重要です。

介護の業務と時間の関係

介護施設では、利用者の多様なニーズに応えるため、複数の業務を同時に進める必要があります。そのため、職員は業務を分担し、チームとして連携しながら効率的に行動することが求められます。

例えば、A職員が食事介助を担当し、B職員が口腔ケアを行うといった具合です。

このような場面では、「この業務はこの時間までに終える」といった基準を守ることで、全体のスケジュールを円滑に進めることができます。一方で、基準が守られない場合は、次の作業に遅れが生じ、他の職員に負担がかかったり、利用者へのサービス提供が遅れたりする可能性があります。

とくに、一人の職員の遅れが全体の業務進行に影響するため、時間管理は極めて重要です。 言い換えれば、無理のない時間設定は職員の負担を軽減し、働きやすい環境の実現につながります。人手不足が叫ばれる中、離職防止という観点からもマスターラインの設定は重要な取り組みと言えます。

マスターラインを設定するメリット

マスターラインの設定には、職員と利用者の双方にメリットがあります。ここでは、主な4つのメリットについて解説します。

業務効率の改善

設定の際、非効率な業務を洗い出して削減することで業務効率を改善できます。代表例は次のとおりです。

  • おむつ交換の物品補充のために何度も移動する
  • 同じ内容を紙とシステムの両方に記録する

このような時間の無駄を削減することで、職員が利用者とのコミュニケーションや支援に費やせる時間が増えます。その結果、業務全体の生産性が向上し、職員・利用者の双方に次のようなメリットが生まれます。

職員
  • 非効率な業務が減り、利用者と関わる時間を増やせる
  • 重複作業がなくなり、ストレスの軽減につながる
利用者
  • 職員と関わる時間が増える
  • 必要なケアをタイムリーに受けられる

サービスの質の向上

利用者一人ひとりに提供するサービスの質が高まります。時間や手順を明確にすることで、利用者は不必要に待たされることがなくなり、均一なサービスを受けられるためです。

例えば、入浴介助の業務では、「何時までに終えるか」という時間の目安を設定することが重要です。この目安により、職員は計画的に業務を進められます。その結果、利用者が「いつ入浴できるのか」と、長時間待つことを防げるでしょう。

さらに、ケアの順序や手順を統一することで、職員間の品質のばらつきを減らす効果も期待できます。こうしたメリットにより、利用者は安心してサービスを受けられ、満足度や信頼感の向上にもつながります。職員と利用者のメリットは、次のとおりです。

職員
  • 業務を計画的に進められる
  • 手順が明確になり、新人も理解しやすくなる
利用者
  • 待ち時間が減る
  • 均一で安定したサービスを受けられる

職員の負担軽減

介護現場では、一部の職員に負担が偏ることがあります。そのような偏りが続くと、不満や負担が強くなり、離職の原因にもなりかねません。マスターラインを活用して業務を標準化し、公平に分配することで、こうした負担の偏りを防げます。

例えば、おむつ交換の所要時間を標準化することで、作業の早い特定の職員に業務が集中するのを防げます。また、標準化のために手順を明確にすることで、新人職員も理解しやすくなり、ベテラン職員のフォローの負担も軽減できるでしょう。

こうした取り組みにより職員の負担が軽減され、働きやすい職場環境の構築につながります。職員と利用者のメリットは、次のとおりです。

職員
  • 業務の偏りが減り、負担が公平になる
  • 負担が減ることで長く働きやすくなる
利用者
  • 職員の離職が減ることで、ケアの質が維持される
  • 馴染みの職員からケアを受けられる

職員間の連携強化

マスターラインを共有することで、業務のタイミングが明確になり、職員間の連携がスムーズになります。

例えば、食事介助が終わった後は、口腔ケアや服薬支援に移るのが一般的な流れです。この際、誰がどの業務を担当するかをあらかじめ決めておくと、引き継ぎのミスやケアの抜け漏れを防げます。

こうした職員間の連携強化は、効率的で安全なサービスの提供につながります。職員と利用者のメリットは、次のとおりです。

職員
  • 業務の流れが共有され、引き継ぎのミスが減る
  • チーム全体で協力しやすくなる
利用者
  • ケアの抜け漏れがなくなる
  • 一貫した対応を受けられる

マスターラインを用いた業務改善の手順

ここでは具体的な業務改善の方法を、4つの手順に分けて解説します。

業務の洗い出し

まずは現状を把握するために、業務の洗い出しを行います。食事介助、入浴介助、入力作業など、職員が担当する業務を時間帯ごとに一覧化します。この手順でのポイントは、業務の全体像を把握するために、紙に書き出して可視化することです。

業務のムリ・ムラ・ムダを削減

次に、洗い出した業務の中から、非効率な作業や負担の偏りを見つけます。具体的には、3Mの視点で業務を確認し、業務一覧から取り除きます。これらを削減することは、業務改善や職員の負担軽減につながります。

マスターラインを設定

整理した業務一覧をもとに、マスターラインを設定します。この際、役割分担に配慮が必要です。特定の職員に業務が偏らないよう、次の点に注意しましょう。

  • 業務量の適切な分配
  • 業務の難易度や経験に応じた割り振り
  • 休憩や準備時間の確保

こうした配慮により、職員が無理なく業務を進められます。また、職員のタイムスケジュールとして図示することで、全体の流れをより把握しやすくなります。

手順と役割を整理・共有

最後に、業務ごとの手順や役割を再度見直します。手順や役割の調整によって、大幅な業務改善につながることもあるためです。具体的には、以下のような見直しが考えられます。

  • 手順の標準化
  • 役割分担の変更
  • 業務時間の変更

また、標準化した手順は全体で共有することが重要です。

この手順を踏むことで、効率的で安全なサービスを提供でき、職員の連携強化や働きやすさにもつながります。

ICT機器や介護記録システムとの併用がおすすめ

生産性向上や業務改善をより効果的に進めるためには、ICT機器や介護記録システムを併用することが有効です。これらのデジタルツールを導入することで、情報共有のスピードと正確性の向上が期待できます。

例えば、タブレット端末を使ってリアルタイムに情報を入力すれば、どの利用者のケアが完了しているのかを職員全員が確認できます。これにより、ケアの重複や抜け漏れを防ぐことも可能です。

さらに、ベッドセンサーや見守りシステムといったICT機器を介護記録システムと連携することで、自動的にデータが反映されるため、入力業務の削減や入力ミスの防止につながります。

介護記録システムを導入するメリットについては、以下の記事も併せてご参照ください。

介護記録システムを導入すると現場はどう変わる?4つの導入メリットを紹介

まとめ

マスターラインの設定はムリ・ムラ・ムダを削減し、サービスの品質の向上や職員の負担軽減、職員間の連携強化といった効果が期待できます。利用者の満足度を高めるだけでなく、介護現場の生産性が向上し、働きやすい環境を実現できます。この機会に取り入れてみてはいかがでしょうか。

また、より効果を高めたい場合は、介護支援ソフト「ほのぼの」シリーズの併用がおすすめです。製品に関するご質問やご相談は、お気軽にお問い合わせください。

当コラムは、掲載当時の情報です。

参考URL

厚生労働省老健局 介護サービス事業における生産性工事に資するガイドライン 改訂版

厚生労働省老健局 介護現場における生産性向上の取組を支援・促進する手引き

図1 厚生労働省 / 我が国の人口について

青木 崇 介護福祉士として、障がい者支援・高齢者支援に10年間携わる。
社会福祉実習指導者や施設主任の経験を活かし、現在は介護関係の記事を執筆するWebライターとして活動中。
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