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コンサルタント小濱道博先生の「経営をサポートするナレッジコラム」

第3回 業務継続計画(BCP)の作成ポイント

2021/12/08 カテゴリ: BCP

1.令和3年度介護報酬改定で義務化された。

①介護施設のBCPは特殊な部分が多い

BCPとは、地震や台風などの自然災害やコロナのような感染症によって出勤出来る職員が不足しても介護サービスを提供ができるように、事前に被災時の対策をまとめた計画書やマニュアルを指す。その作成の課程では、特に災害時の制度上の特例措置に精通していることが求められる。感染症対策下でのサービスの継続など、一般企業には無い要素も多く盛り込む。そのために、介護施設のBCP策定のハードルはかなり高い。3年間の経過措置が設定されおり、令和6年3月までは努力目標とされ、4月からは義務化となる。実施していない場合は、運営基準違反として実地指導等に於いて指導対象となる。

②BCPは自ら作成しなければ意味が無い

BCPは、インターネット等検索して、手頃な作成事例をダウンロードして簡単にコピペして作成出来るものではない。地域や施設によって自然災害や感染症のリスクは異なるし、併設している介護サービスも違う。また、介護サービスに対する基本的な考え方(基本理念、クレドなど)も各々の介護施設で異なる。そのため、事業者毎にオーダーメイドでの作成が求められる。BCPは管理者が一人で作り込むものではない。それは、現状を計画に落とし込むものではなく、現状の問題点を把握して、その解決策を皆で検討しながらBCPを作り込んでいくものだからである。
基本的に、作成委員会を設けて定期的に開催していくが、委員となる者は管理者や責任者であるため、中々共通の時間を作ることが難しく、一回の開催時間も3時間が限界である。また、検討テーマによっては委員が、各現場に戻って、一般職員の意見を引き出し、取りまとめて、委員会に戻ると言ったプロセスも出て来る。そのため、結果として長い時間を費やすことになる。

③BCPに基づく、研修と訓練も義務化に

解釈通知においては、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施において、定期的(在宅サービスは年1回以上、施設サービスは年2回以上)な研修を開催して記録しなければならないとされている。訓練(シミュレーション)は、感染症や災害が発生した場合に実践するケアの演習等を定期的(在宅サービスは年1回以上、施設サービスは年2回以上)に実施する。一人で運営される居宅介護支援事業所などは、他のサービス事業者と連携してBCPの作成などを行なう必要がある。

2.事業継続マネジメント(BCM)

事業継続マネジメントは、中小企業庁のBCPで取り入れられている考え方である。このマネジメントサイクルを理解することで、BCP作成の全体像を理解出来る。BCPの作成期間は、どうしても長期化する。脇道の逸れてしまうと、道に迷ってしまって、結果的に挫折するケースが多いようである。このマネジメントサイクルをしっかりと共有してから作成をスタートしよう。
BCP作成の第一歩は、BCP作成委員会の立ち上げから始まる。委員会は、拠点毎、サービス毎の責任者、管理者で構成される。そして、BCPは作成して終わりではない。その後の、定期的な研修と訓練がある。それに基づく、BCPの見直しも必要である。そのプロセスを確認していく。

①事業を理解する

基本的にBCPは、厚生労働省が用意したひな型の順に作成を進める。項目毎に、介護施設の現状を確認して、問題点をピックアップする。事業を理解するとは、介護施設をアセスメントして分析する作業を言う。そして、感染症や自然災害に被災したときの被害を、職員の出勤率などのパターンを幾つか想定して、その被害状況に応じて、継続する介護サービスの優先順位を決める。また、継続が最優先であっても、出勤率やライフラインの状況に応じて、提供出来る業務と、提供が難しい業務を事前に想定する。例えば、非常食や衛生用品の備蓄という項目であれば、現在の備蓄品を棚卸して一覧表を作成して、その品目毎に作成委員会で検討する作業を進める。

②BCPの準備、事前対策を検討する。

このプロセスでは、①でピックアップした問題点に対する、事前準備や対策を検討していく。例えば、先の備蓄品という項目であれば、その備蓄量の根拠の確認と修正の必要の有無の確認を行う。不足すると判断された品目は、購入しておく。また、保管場所が適切かどうかも検討する。重量にある水のペットボトルなどを一階の倉庫に保管していた場合に、浸水被害が起こったときにどうするか。停電が発生してエレベータが使えないとき、少ない出勤者で、3階や4階と言った高層階にどうやって移動させるか等を、実際に被害が起こったことを想定して検討していく。
そのような状況を想定して、検討した結果として、高層階については、事前に各部屋にペットボトルを2本配付しておく等の事前対策を考える。このプロセスでは、テーマによっては、委員が各拠点に持ち帰って、一般職を含めての検討も必要になる。

③BCPを策定する。

②でまとまった事前対策や被災時の対応策をBCPに書き込む。厚生労働省のひな型の項目に沿って、①から③のプロセスを繰り返し実行する。また、BCPを発動する基準を設定して、役割分担を明確にする。職員の参集基準や地域との連携も検討しなければならない。それらを厚生労働省のひな型に書き込んで文章化していく。BCPの作成プロセスは、現状を計画に落とし込む作業では無い。現状を分析して、対策を検討して、その結果をBCPにまとめる作業である。そのため、一人では作成出来ず、組織として取り組む必要がある。完成したBCPを机の引出に入れて、その後、何年も日の目を見ることが無い。それでは、全く意味がない。次のプロセスが待っている。

④BCPの文化を定着させる。

作成されたBCPは、非常時に発動して速やかな対策を実施することが役割である。そのためには、BCPの内容を全ての職員の身体に染みこませておくことが必要である。そのために、定期的な研修と訓練を実施する。厚生労働省の通知では、介護施設は年2回、在宅サービスは年1回とされている。これを繰り返し、繰り返し、全職員で実施することで組織にBCPが定着する。

⑤BCPの維持、更新を行う。

研修と訓練を実施すると、頭の中で考えた対策や方法とのギャップが出てくる。「これはチョット違う」「もっと良い方法がある」等である。実際に訓練をやると中々スムーズに対策が出来ないという問題に直面するだろう。何度もBCPを書き換えて、試行錯誤を加える。BCPは研修と訓練を終える度に見直し作業を行っていく。そして、見直しの度に最初に戻る。これが、BCMのマネジメントサイクルの意味である。

⑥出来なかった部分は次回以降の宿題とする。

実は、BCPは完成しない。研修や訓練の度に見直して、バージョンアップさせていくからだ。また、取り巻くリスクも時間の経過と共に変わっていく。極端な言い方をすると、最初から厚生労働省のひな型の項目をすべて埋めることが出来なくても問題はない。出来る所から作成して、まずは研修と訓練を実施することが重要だ。出来なかった項目は次回の見直しの時までの宿題で構わない。

図出典: https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_a/bcpgl_03a.html
中小企業BCP策定運用指針
策定運用指針
3. 策定運用(基本)
BCPの策定・運用サイクル

3.BCP作成委員会を設ける

①BCP委員会で作成を進める

BCPの作成は全社で取り組むものである。そのためにBCP委員会を設ける。構成メンバーは、各拠点、各サービスの管理者または責任者が委員として参画する。拠点数が多く、会議を構成する人数に支障が出る場合は、エリアや介護サービスで取りまとめて、その中で代表を決めて委員とする方法も考えられる。
また、拠点が1拠点または少数の場合は、各部署の責任者等で委員会を構成する。活発な意見交換や効率を考えた場合、委員を10人以下とすることが現実的である。この委員会でBCPの作成を進めるので、役割分担を行って委員会名簿を作成します。役割で特に重要なのは、委員長と書記または記録担当。それとBCPに記載して取りまとめていく作成担当である。

②会議の進行方法

拠点が複数ある場合は、実際に会議室に各委員が参集して対面で開催する場合と、ZOOMなどのテレビ電話システムを活用する場合とが想定される。テレビ電話システムの場合、資料を画面上で共有出来る点と、BCPのひな型に決定事項を直接、入力しながら、画面共有してリアルタイムで委員全員が確認出来る点がメリットとなる。
また、会議の内容をシステムの機能を使って録画し、記録の代わりとすることも可能である。デメリットとしては、どうしてもテレビ電話システムの慣れや理解が必要で、会議での発言者が限られてしまうことが挙げられる。そのため、対面での会議と交互に行う等の工夫が必要となる。進行については、議長役の進行における手腕も影響する。

③BCP委員会の役割はその作成だけではない

BCP委員会を設けても、限られた時間内で取りまとめる事が出来ないと、時間だけが無駄に進むことになる。そのためには、議長役がBCPを正しく理解して、先導役となる事が大切となる。場合によっては、外部の専門家を指南役として参加させることも検討する。多くの介護施設がBCPの作成で挫折するのは、途中で話がわき道に逸れて、結果として道に迷ってしまうからである。指南役、先導役としての議長の役割はとても重要である。
また、BCP委員会は、その作成だけが目的ではない。実際に被災した場合の、災害対策本部の原型となる。また、定期での開催が義務化された研修や訓練の企画と実施を司る意志決定機関でもある。さらには、研修・訓練後の検証と、BCPの見直しという役割も担っている。そのため、BCPの作成後も定期的な開催が求められる。

4.業務改善でのBCPのメリット

①業務の効率化につながるBCP

BCPとは、自然災害や感染症によって出勤出来る職員が大きく減った時に、残った職員で如何にして介護サービスを継続して復旧まで持ち堪えるかを計画に落とし込んだものである。そうしたときに、通常では2名体制で担当する業務であっても、被災時には2名の配置が出来ないことが多々出てくる。この時、1名や1.5人での実施を検討する。どうしても2名で被災時も提供しなければならないという結論に達した場合、他の業務を見直すことが検討される。日常業務に対して検討を加えて行く事で、結果的に業務の効率化に繋がる。

②業務改善に繋がるBCP作成支援

BCPでの研修や訓練のプロセスの中で、日常業務の実施プロセスを見直す機会にもなる。日頃は全く気づかずに行っている施設内の暗黙のルールにも、疑問を投げかけることとなる。最悪の状況を想定した被災時には、聖域は存在しない。被災時にエレベータが停電で止まることを想定した場合、どうすれば効果的に移動が出来るかを検討する。それによって、人の動く動線が変わる。BCPの検討は、従来の当たり前を、根本から見直す機会となる。

③将来への備えが今を変えていく

BCPは将来に起こるリスクへの備えである。介護保険制度が複雑化し、人材不足が深刻化している今、職員の能力向上と業務改善は急務である。これからは、二人でやってきた業務を一人で出来る。2時間掛かる仕事を、1時間で出来ると言った職員一人一人の能力の向上が急務となっている。そのためには、ICT活用も重要な検討課題である。
ICT化は確実に業務の効率化となり業務の改善に繋がる。特にコロナのような感染症によるクラスターが起こった場合は、ICT活用の恩恵を多く受けることになる。感染症や自然災害BCPの作成プロセスを通じて、ICT化を意識して検討する事が重要である。業務改善や効率化は、結果的に日常における職員の負担を減らし、ストレスを軽減する。

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