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コンサルタント小濱道博先生の「経営をサポートするナレッジコラム」

第21回 深刻化する人材不足と加速するICT化の必要性

2023/05/12 カテゴリ: 介護保険法改正

介護業界の人手不足の実態

介護保険制度におけるICTの推進は、国の施策として取り組まれている。その理由が、介護業界の慢性的な人材不足である。介護を必要とする高齢者は増加して、2040年には介護職員が69万人の不測が見込まれている。特に訪問介護サービスは、介護職員の有効求人倍率が15倍前後という非常識な人材不足に喘いでいる。地方に所在する介護施設では、職員の確保が絶望的な状況となり、やむを得ず、届出定員数を減らして確保出来る職員数に合わせざるを得ないケースも出始めている。また、先日お会いした特別養護老人ホームの事務長は、待機待ちの利用者がゼロで、空床対策がままならないと話された。ある施設では、厨房の職員の確保が出来ずに、管理栄養士2名が厨房に入りっぱなしのため、栄養関係の加算が算定出来ない事態となっている。そのため、都市部に地域密着型の介護施設を開設して、その施設の入所者や職員を、地方の本拠施設に移動や配置転換するという苦肉の策を行っているケースもある。

都市部に於いても人材確保は、年々厳しさを増している。看護師等の専門職は、ハローワークや無料の求人サイトに登録しても応募が入る事は殆ど無い。結果、有料の求人オプションに頼らざるを得ない。その紹介料は、一人の職員確保で、数十万円から数百万円に及ぶ今、人材確保においては、人材派遣や有料の求人サイトなどを通さないと難しい時代となっている。都市部でそうなのだから、地方では、それらの活用すら厳しい環境にあると言うことだ。地方から労働人口の減少傾向が顕著になっている。介護サービスは、役務の提供がサービスであり、労働集約型のビジネスであり、人材の確保は死活問題である。そのリスクが、地方から都市部に拡大してくることは時間の問題であり、対策が急務だ。

介護業界の人手不足の原因

(1)労働人口の減少

人材不足については、介護業界というより、日本全体の問題となっている。その根底にあるのが、出生率の低下であり、労働人口の減少である。年代別の人口は逆三角形で表される。年齢が下がるにつれて、世代別の人口が減少する。高齢者は定年などによってリタイアし、学校を卒業して仕事に就く若者は年々、減少する。その結果、日本国内の労働人口は減少の一途となっており、改善の見込が無い。

(2)人間関係

令和6年介護保険法改正審議の意見に於いて、介護職員については、職場の人間関係が離職理由の大きな要因でもあることから、離職防止の観点からは、働きやすい職場づくりに向けた取組を推進するとともに、人材確保に係る好事例について把握し、検証することも有効であると記された。介護業界の離職率の高さと、人間関係については、大きな課題となっている。これは、介護サービスには、有資格者が多く配置されて専門性が高く、職員気質があることも要因であろう。管理職には、コミュニケーションに気を配り、職員を孤立させないマネジメントが求められる。

(3)給与水準の低さ

介護職員は給与が安いというイメージがある。そのため、政府は、処遇改善加算等を充実させてきた。そのため、処遇環境は改善に向かいつつある。大手事業所の給与水準は、一般企業並に改善されている。それでも定着率が改善しない理由は、業界における職員気質であろう。人材不足による多忙を理由として、中々、業務改善が進まない施設を多く見かける。人材の教育や育成も、介護業界は永年にわたってお座なりにしてきた。未だに、福祉学校の卒業生を受け入れて、その翌日から現場に出して一人前扱いの施設、事業所が多い。これでは、実務経験の無い新卒者は、すぐに辞めてしまう。一般企業は、新卒の社員は一年がかりで、OJTなどを屈指して育てた上で、一人前として戦力とする。介護業界も、同様であるべきだ。

介護業界の人材不足を解決する方法

(1)労働環境の整備

教育研修を充実によって、職員のスキルアップ、底上げを図り、介護サービスの質を高めるプロセスを廻し続けることが重要だ。一時的な処遇改善で賃金を高くしても、その効果は一瞬で、翌月からは既得権に変わる。必要以上に賃上げを行う余裕があるのであれば、その資金は、教育研修に充てるべきだ。その結果として、職員のスキルアップと介護サービスの質の向上が実現する。そのことで利用者満足が上がり、稼働率、利益率が上がる。その上で、十分な賃上げを行って、職員に応えれば良いのだ。そのような、好循環を作ることが先決である。

(2)ICTシステムの導入・活用

現実的な人材不足対策は、ICT化の推進であり業務の効率化である。ICT化を中心として、介護の質の低下を招くことなく、質の向上を図りながら、介護現場の業務負担軽減と人員配置の効率化を実現する。この方法にしか、具体的な対策が見いだせない状況である。厚生労働省は3年毎に行われる介護保険制度改正の中で、介護職の業務改善、効率化策として、介護ロボット、見守りセンサー、インカム、介護記録ソフトといったICT化の促進を次々に進めている。業務の明確化と役割分担の推進として、見守りセンサーを。記録、報告様式の工夫として、介護記録ソフトを。情報共有の工夫として、インカムを促進させている。

介護ロボットなどに先行して、介護報酬の加算における算定要件や、人員基準の緩和要件として先行しているのが、見守りセンサーである。令和3年度介護報酬改定においても、特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームにおける夜勤職員の配置基準の緩和や、夜勤職員配置加算における算定要件の緩和に繋げられている。これは、業務の効率化の実現が、モデル事業などによって評価出来たことが大きい。見守りセンサーによる特例を利用することで、夜勤職員の人件費も削減できるし、夜勤職員配置加算が算定しやすくなる。どちらに於いても、経営上の収益の向上に繋がる。それ以上に、夜勤職員の負担軽減となることが、大きな意味を持つ。

令和3年度介護報酬改定で導入されたLIFEによって、大きく脚光を浴びているのが、介護記録ソフトである。基本的には、日々の介護記録において、タブレットを用いて入力することで、自動的にコンピュータにデータが蓄積されて電子データ化される。介護計画書やアセスメント、スクーリングなどの日常業務を介護記録ソフトを介して行う事で、LIFEへのデータ提供がオートメーションで行う事が可能となる。

令和5年度より、ケアプランデータ連携システムがスタートする。従来から、ケマネジャーと担当事業所間での提供票などのやり取りは、基本的に紙ベースで行われ、給付管理ソフトや介護報酬請求ソフトなどに手入力するという二度手間が発生していた。これを、ケアマネジャーと担当事業所各々でクライアントソフトを導入して電子データとしてやり取りして、給付管理ソフトや介護報酬請求ソフトなどに取り込むことで二度打ちの手間が無くなる。圧倒的にケアマネジャーの手間が削減される。

(3)ハラスメント対策

介護人材の確保においては、介護職員が安心して働くことができるように、ハラスメント対策などの職場環境・労働環境改善を図ることが必要である。令和3年度介護報酬改定においては、パワーハラスメント及びセクシャルハラスメントなどのハラスメント対策として、全ての介護サービス事業者に、男女雇用機会均等法等におけるハラスメント対策に関する事業者の責務を踏まえて、ハラスメント対策としての措置を講ずることが義務化された。また、カスタマーハラスメントについても、その防止のための方針の明確化等の必要な措置を取ることが大切である。一般企業であれば、上司からのパワハラ、同僚からのセクハラなどの対策が求められる。介護福祉においては、利用者やその家族からのカスタマーハラスメントも重要な問題で、介護職の離職理由となっている。介護職の立場から、職業上で我慢すべき問題とハラスメントとして報告すべき問題の区別がつきにくく、ハラスメントは次第に深刻化することから、早期の発見と対策が必要となる。そのため、就業規則などでハラスメントへの厳重対処する旨の方針を明確にするとともに、職員に対してハラスメント研修を定期的に実施する必要がある。また、法人内に相談窓口を設置して、担当者を決めておく。相談を受けた場合の記録として、相談シートを準備する。カスタマーハラスメントの知識を研修によって理解させ、該当した場合は、速やかに相談できる窓口を設けることは重要だ。そして、2人体制でのサービス提供や、担当変更など、速やかな法人としての対応が離職拡大を防ぐこととなる。

令和6年介護保険法改正を審議した介護保険部会の意見書に於いて、介護人材を確保するためには、処遇の改善、人材育成への支援、職場環境の改善による離職防止、介護職の魅力向上、外国人材の受入れ環境整備などの取組を総合的に実施する必要がある。とされた。介護職の魅力向上は、大きなテーマである。介護職のイメージは、一般的には決して良いとは言えない。積極的な情報発信によって、好イメージ作りを進めるべきである。

介護業界の今後の展望

人材不足の根本的な要因が、出生率の低下にあることから、日本の労働人口は減少の一途である。介護サービスが職員による役務の提供であることから、介護業界にとっては致命的とも言える。今後は、職員のスキルアップと業務の見直しによって、業務効率を向上させることが急務である。また、職員が行う業務と、ICTなどに置き換えられる業務を明確に分けていくことも急務だ。

介護業界は、慢性的と言っても良い深刻な人材不足が続いている。その結果、即戦力を求め、雇用即現場業務というスタンスが一般化した。専門職が大勢を占めているため、職人気質が高く、人の育成には不得手な部分がある。その結果、人が育たずに定着率が低く、人の移動が激しい業界とも言える。しかし、これまでと同じスタンスを繰り返す限り、人は定着しない。コロナ禍が落ち着き、他の産業が復興してきたときには、大量の離職に繋がることも考えられる。コロナ禍での小中高の一斉休校では、保育所などを併設出来ている介護施設が雇用面で強いことが浮き彫りとなった。保育所や職員対象の託児所などの併設は人材確保の意味でも重要な差別化となる。事業規模的に設置が難しい場合も、近郊の施設や事業所と共同で運営するなどの工夫次第で対応出来るであろう。他の産業に人材を採られる前に、介護業界が働く子育て世代にとって働きやすい職場である事をアピールすることも重要となっている。

今、業界の価値観が激変した。当たり前のことが、当たり前でなくなったのだ。一番やってはいけないことは、今までこうだったという固定概念に縛られることである。古い固定概念に縛られること無く、新たな取り組みに対応出来る柔軟な思考が求められている。コロナ禍で明らかになったのは、介護業界は、国が補助金、慰労金、基準の緩和等、あの手この手を屈指して国が守ってくれたことである。これは一般産業では考えられない。まわりを見たときに、今をチャンスと捕らえて事業拡大のための行動に移している経営者が多いことに気づく。新しい可能性の芽は、至る所に出始めている。新しい景色を見ることが出来るかがポイントとなる。攻めの姿勢の経営者は、いつの時代でも強いものである。経営者に求められるのは、守りでは無く攻めの姿勢だ。攻撃は最大の防御だからである

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