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コンサルタント小濱道博先生の「経営をサポートするナレッジコラム」

第26回 残り半年を切ったBCP作成の義務化対策のポイント

2023/10/05 カテゴリ: BCP

BCPの作成状況

9月15日の介護給付費分科会において、BCPの策定状況が報告された。全体においては、感染症BCPでは策定済みが23.5%, 自然災害BCPは25.9%である。今後も作成する目処が立たない事業所が感染症で21.5%、自然災害で22%である。7割以上の事業所は、完成済み、もしくは策定期日の来年3月までに策定を終えるとしている。この状況から、経過措置の延長は無いと思われる。

令和3年度介護報酬改定で義務化されたBCPは、その経過措置が来年3月で切れる。それ以降に未作成の場合は、運営基準違反として指導対象となり、従わない場合は指定取消などの行政処分となる。今、運営指導においてBCPの作成状況が必ず確認されている。残された時間は、残り半年となった。

私自身も、行政主催の集団指導においてBCP講座を担当したり、各地の居宅支援専門員協会等の依頼で研修を担当してきた。地域の勉強会での作成指導も行っている。私の周りでは、BCP作成を完了した居宅介護支援事業所が着実に増えているが、全国に目を向けると、厚生労働省の数字以上に作成する目処が立たない事業所が多いと感じる。

第224回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
【資料2】業務継続に向けた取組の強化等[3.5MB]

BCPは職員第一で作成する

私自身が300事業所以上のBCP作成に関わった経験から、BCP作成上のポイントを紹介していこう。

また、作成時のひな型記入例などは、第十五回のコラムを参考にして欲しい。

あるディスカッションで、医療機関の医師は、一番大切なのが職員の一人一人、次に介護サービスを提供する組織であり現場、最後に生存者だと言ったことが心に残った。幾ら徹底した感染対策をしても、クラスターが発生した場合、まずは自分自身を守ることを最重要と考えるべきである。職員一人一人の安全を確保出来てこそ、介護サービスが提供出来る。次に、介護サービスは個人プレーでは無く、チームプレーである。しっかりと組織としてのマネジメントが機能していてこその介護サービスである。職員の一人一人が安全で健康であり、組織が機能していれば、利用者へのサービスは継続出来る。職員が倒れてしまうと何も出来ない。ましてや、コロナに感染したり、濃厚接触者に認定されると数週間は何も出来ないことになる。この考え方は、感染症BCPだけでは無く、自然災害BCPにおいても同じである。

利用者個々人の対策は盛り込まない。

また、BCPを作成する時、利用者一人一人の状況を検討して、特に重度者の安否確認の手段、避難方法や備蓄品について検討を進めるケースを見かける。これは、BCP作成に於いては陥っては行けない脇道となる。先に記したように、BCPの対象範囲は、職員と組織体制の維持である。職員の一人一人が安全で健康であり、組織が機能していれば、利用者へのサービスは継続出来るからだ。利用者個々人の対策は盛り込んではいけない。利用者一人一人の対策の検討は、ここでは必要無いことを理解頂きたい。

BCPは少ないスタッフで如何に業務を続けるかが検討の中心

実際、感染者や濃厚接触者が発生した場合、事前に感染症対策指針や感染症対策BCPなどで検討した内容と大きな違いが生じることも珍しくない。介護事業所における最大の経営リスクは、職員の多くが濃厚接触者に認定されることである。濃厚接触者に認定されると、PCR検査が陰性でも2週間は自宅待機を余儀なくされる。現在は、5類に移行したことで事業所側の判断に委ねられているが、一般的に4-5日の自宅待機後、検査結果が陰性だった場合、職場復帰が多いようだ。しかし、コロナに限らず、感染症における原則は2週間の自宅待機となる。そうなった場合、出勤可能な職員は、通常業務以外に何役も熟すことが求められる。定期的な消毒作業や1時間に一度の換気、休職中の職員の業務を分担して担当する等である。自然災害に於いても同様で、事業所が被災すると、職員も被災する。被災直後に出勤出来る職員は少なくなる。その時、どのように出勤する職員で役割分担を行って、業務を継続するかを考える。利用者の安否確認においては、在宅サービスは、他の担当事業所と役割分担を行って、安否確認をすることも事前に検討する。居宅介護支援事業所は、通所サービスなどが休業を余儀なくされた場合に備えることが重要となる。事前に訪問サービスへの移行などを検討して、BCPに位置づけておくことも、BCP作成の重要な検討テーマである。

メンタルやストレスケアも重要な課題である。

BCPを検討する場合、職員のメンタルケアについての配慮は重要である。介護従事者は、自らが被災者であると共に、救援者でもある。二重の立場にいることで感じるストレスも計り知れない。これを放置すると急性ストレス反応から PTSD、うつ状態、アルコール乱用等の状態を招いたり、組織の疲弊・劣化 につながるとされている。セルフケアの研修を日頃から定期的に行うなどの教育的介入(予防)が重要である。これらのストレスやセルフケア関連の研修などを、BCPの平常時の事前対策に盛り込むことも検討する。

BCPは最悪の状況に陥ることを想定して危機感を持つことが重要

令和3年度介護報酬改定で全サービスに義務化されたBCPは、自然災害と感染症の二つである。いずれの場合にも、組織や職員個々人の危機感が問題となる。過去に自然災害や感染症の被災経験をした事業所は、経験値があるため比較的作成は容易だろう。しかし、多くの場合、被災経験は無いに等しい。この場合、適切なBCPを作ることは難しい。

幸い、今は多様な体験談や事例がインターネット上にも公開されていて、各地でシンポジウムなども開催されている。そのような情報を積極的に職員と共有しなければならない。今年に入ってからの線状降水帯による集中豪雨と洪水被害も、各地に大きな被害をもたらしている。5月に能登で起こった震度6強の地震など、毎年、全国各地で大きな自然災害の爪痕が残っている。

第224回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
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BCPは永遠に完成しない。作成完了時がスタートである。

BCPは頭で考えた対策である。実際に、研修や訓練で体験する現実とではギャップが大きいことが多くある。その為、BCPは研修や訓練後に見直しを行う必要がある。BCPは永遠に完成しないことを知って頂きたい。BCPの作成が完了した時点からスタートとなる。BCPは、職員を含めて、自分たちで知恵を出し合い、検討しながら作り込んでいく必要がある。ただ、先に書いたようにBCPは永遠に完成しない。BCPのひな型が厚生労働省から出ているが、後半になると一気にハードルが上がる。地域との連携や共同訓練などが検討テーマになるからだ。ハードルの高い項目は、後日検討や削除でも問題はない。ひな型をすべて埋める必要はないのだ。不要な部分は削除して良い。出来る範囲で、ザックリとでも良いから、一先ず完成させることが重要である。そうして、定期的に研修と訓練を実施する中で、BCPを肉付けしてバージョンアップさせていく。地域の中で、他の事業所と共有して、お互いのBCPを補完し合うことも良いだろう。他の事業所での作成経験をもとにして豊富な専門家にアドバイスをもらうことも有益である。BCPを常にバージョンアップさせるという認識が大切となる。

BCPは全社で作成する

実は、BCPの作成に着手したという介護施設や事業所は決して少なくない。同時に、まだ未完で途中で挫折したという話も多く耳にする。その理由としては、自分たちの地域では過去に大きな自然災害に遭ったことがなく、危機感が無いと言う点が最も多いようだ。それはあくまでも表面的な理由で、実は管理者だけで作ろうとしている。一部の幹部職員だけで作ろうとしている事が、根本的な原因である。それで、BCPが完成したとしても、一般職員のBCPへの認識が甘く、BCPは上手く浸透しない。職員の危機意識が薄いと言った経営者サイドの不満が沸き起こる。これは、BCPの意味と正しい作成方法を知らないことが最大の原因である。BCPは、業務継続マネジメント(BCM)のサイクルで作成する。管理者や部門の責任者は、介護現場の現状について全体像は把握しているが、細部については現場職員に確認しなければならない事が多々存在する。

実際に被災した時に、先頭に立って業務を遂行するのは職員である。BCPの作成に部分的にせよ一般職員を参画させることで、単に上司から押しつけられた計画では無くなる。その意味を理解することで、研修や訓練に対しても前向きになる。その為には、BCP作成に当たって、全職員を対象に、簡単なBCP研修を実施して、その意味を浸透させると効果的である。

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【資料2】業務継続に向けた取組の強化等[3.5MB]

例えば、通所サービスはどう検討するのが良いのか?

⑴平時からの対応

台風などの場合は、天気予報や警報で予測が出来るので、担当の居宅介護支援事業所と相談して、その日の利用を前倒しするなどして、当日は臨時休業とするなどの事前対策を取る。しかし、地震や局地的な集中豪雨などの事前予想は困難である。サービス提供中に被災した場合に備えて、利用者家族や病院などの緊急連絡先の把握にあたって、複数の連絡先や連絡手段(固定電話、携帯電話、メール等)を把握しておく。 また、居宅介護支援事業所と連携して、在宅の利用者への安否確認の方法等をあらかじめ事前に整理する。 平常時から、地域の避難方法や避難所に関する情報を事前確認して、地域の関係機関(行政、自治会、職能・事業所 団体等)と良好な関係を作るよう工夫することが必要となる。

⑵災害が予想される場合の対応

台風など、事前に甚大な被害が予想される場合などでは、当日の通所サービスの休止や時間の短縮を余儀なくされることを想定して、あらかじめBCPに、休止や時間短縮の基準を定めておく。居宅介護支援事業所にもその基準等を情報共有した上で、利用者やその家族にも事前に説明する。 その上で、必要に応じ、サービスの前倒し等も検討する。

⑶災害発生時の対応

2020年春のコロナ禍で初めての非常事態宣言が出された時、多くのデイサービスが1ヶ月から2ヶ月の休業を選択した。北海道や熊本での最大震度7以上の大地震でも、一定期間の休業を選択した事業所は決して少なくなかった。特に北海道では地震の影響によるブラックアウトで数週間の休業となった事業所も多かった。液状化で事業所建物が傾くなどの被害になった場合は、移転を選択せざるえない状況となる。自然災害の影響でデイサービスの提供を長期間休止する場合は、居宅介護支援事業所と連携して、必要に応じて他事業所の訪問介護サービス等への変更を検討する。

⑷サービス利用中の被災の場合

サービス利用中に被災した場合は、まず第一に利用者の安否確認を行った後、あらかじめ把握している緊急連絡先を活用して、利用者家族などへの安否状況の連絡を行う。このとき、誰もが安否確認で電話等に繋げる為に、一時的に電話回線がパンクして利用出来ない状況も想定される。事前に把握しているメールやLINE,SNSなど複数の方法で連絡を試みることになる。利用者の安全確保を最優先に状況を把握、検討して、家族への連絡状況を踏まえて、順次利用者の帰宅を支援する。可能であれば利用者家族の迎えなどの協力も依頼する。

⑸帰宅困難時の対応

2018年7月の西日本豪雨では、野呂川ダムの緊急放水が各地の被害を拡大した。2021年8月の中国、九州地方の集中豪雨は、西日本豪雨の雨量を超えた地域もあり、多くの地域で冠水や土砂崩れが発生した。台風などには比較的敏感であるが、大雨については危機意識が若干、楽観的な見方をする場合もある。最近は、線状降水帯という厄介な気象異変が多発している。そのため、デイサービスの休業の判断が遅れた場合、利用者は事業所に於いて被災する事になる。想定外の大雨や想定外のダムの緊急放水などで河川が氾濫して、道路が冠水した場合や地震で道路が陥没や隆起した場合、液状化で道路が波打っている場合など、デイサービスの送迎車の利用が困難な場合も想定される。その場合、利用者を如何にして帰宅させるかの手段を検討する。状況によっては、事業所での宿泊や近くの避難所への移送も考慮しなければならない。冠水や道路自体に被害が出ている場合は、家族の迎えも期待出来ない。

⑹事業所での宿泊での対応の場合

BCPでは最悪の状況を想定して、その対策を検討しなければならない。デイサービスにおける最悪の状況の一つに、道路の冠水などで送迎車が利用出来ず、事業所での宿泊を余儀なくされることがある。その場合、デイサービスでは人数分の寝袋などの寝具は準備されているか。また、停電や断水というライフラインが止まることも想定されるので、非常食や衛生用品、ランタンなどの簡易な照明器具の備蓄は行われているか。下水道などが使えない場合、水洗トイレの代わりとなる簡易トイレなどは準備されているか。などを検討する。必要に応じて、特に必要と判断される備蓄品は改めて購入を検討するなどの対策が必要となる。可能であれば、自家発電機などの準備も必要かも知れない。緊急連絡や情報の収集のため、スマホやノートパソコンの充電用に自動車のバッテリーから充電出来るコンバーターなども購入を検討する。

5類移行後の感染症BCPの考え方

厚生労働省の感染症BCPは、コロナ禍を念頭に置いているため、5類移行後の対応に苦慮しているケースも見かける。基本的に感染症対策は共通の部分が多いため、特に変更する必要は無い。

新型ウイルスは10年サイクルで発生すると言われている。10年前がSARS、20年前が新型インフルエンザと言った具合だ。また10年もすると、新たなウイルスが現れるかも知れない。また、今年は季節外れのインフルエンザが大流行している。これからの時期は、ノロウイルスのクラスターも想定される。それらの備えが重要である。5類になった事で、濃厚接触者の概念が無くなったが、どうすれば良いかとの質問も多い。新たなウイルスが出現した場合、濃厚接触者の定義が復活する。そのため、今の記載を変える必要は無い。BCPは、永遠に完成しない。そう、固く考える必要はないということだ。

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