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骨太の方針2024と更なる介護保険制度改革の動向
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2024/09/04 | カテゴリ: 介護保険法改正
勝ち残りを賭けた経営戦略の構築が急務
6月21日に閣議決定された骨太の方針2024は、今後1年間の国の政策を示している。また、5月21日に纏められた財政制度等審議会の建議も同時に検証する必要がある。そして、7月8日の介護保険部会において、介護情報基盤が論点に上がり、2026年4月の開始に向けて始動した。今後は、介護保険者証のペーパレス化、マイナンバーカードとの一体化を含めて、紙の排除が加速する。ICT化は在宅サービスを含めて、待った無しである。
すでに時間は、新たな時流に移ろうとしている。令和6年度介護報酬改定が一段落したとして、落ち着いている場合では無い。新たな情報を得て、次のフェーズへの準備を始めなければならない。勝ち残りを賭けた経営戦略の構築が急務である。骨太の方針2024および財政制度等審議会の建議から、これから進められる介護保険制度改革の動向を見ていく。
出典:経済財政運営と改革の基本方針2024
骨太方針2024PR資料~政策ファイル
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2024/shiryo_05.pdf
医療・介護DXの政府を挙げての強力な推進
令和5年5月19日に公布された「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律(令和5年法律第31号)」において、1.介護情報基盤の整備を地域支援事業として位置付けること。2.市町村は、この事業を、医療保険者等と共同して国保連・支払基金に委託できること。3.施行期日は、公布後4年以内の政令で定める日とした。その施行日は、市町村の標準準拠システムへの移行目標が令和7年度中とされていることを踏まえ、令和8年4月1日の施行を目指して準備を進めるとされた。
介護情報基盤は、国保中央会において新規開発されて、介護報酬請求システム、ケアプランデータ連携システムやLIFEなどの既存システムも活用した全体構成として検討が進められている。介護情報基盤の情報を利用者、自治体、介護事業所、医療機関がそれぞれ連携・閲覧することが出来る。
自治体は、ケアプラン情報、LIFE情報を閲覧・活用できる。また、介護保険証等情報、要介護認定情報、住宅改修費利用等情報は、介護情報基盤に登録する。主治医意見書も介護情報基盤経由で受領することになる利用者においては、介護情報基盤に登録された自身の介護情報をマイナポータル経由で閲覧できる。介護事業者は、介護情報基盤に登録された介護情報を、介護保険資格確認等WEBサービスを経由して閲覧できる。また、ケアプラン情報やLIFE情報は介護情報基盤に登録することとなる。医療機関においては、本人同意の下に、介護情報等を適切に活用することで、利用者に提供する介護・医療サービスの質を向上させる。これまで紙を使ってアナログにやりとりしていた情報を電子で共有できるようになり、業務の効率化(職員の負担軽減、情報共有の迅速化)を実現することが目的である。その成果として、事業所間及び多職種間の連携の強化、本人の状態に合った適切なケアの提供など、介護サービスの質の向上に繋がることも期待される。
同じく21日に閣議決定されたデジタル社会の実現に向けた重点計画において、マイナンバーカードを活用したデジタル化として、予防接種の接種券、母子保健(健診)の受診券、介護保険証として利用する取組については、2024年度より先行実施の対象自治体において順次事業を開始するとともに、その上で、全国的な運用を2026年度以降より順次開始する。として、介護保険者証を2026年にマイナンバーカードに一体化する方向が示された。
また、医療DXの推進に関する工程表(令和5年6月2日 医療DX推進本部決定)において、保健・医療・介護の情報を共有可能な「全国医療情報プラットフォーム」を構築する中で、介護情報については、2024年度からシステム開発を行った上で希望する自治体において先行実施し、2026年度から自治体システムの標準化の取組の状況を踏まえて全国実施をしていく。とされた。
このように、紙を排除するペーパレス化が推進されて、医療介護DXによる情報共有化が進んでいく。そのスタート時期は2026年である。なかなか普及が進まない、ケアプランデータ連携システムも、このシステム統合化で大きく推進される可能性が出来ている。また、LIFEの共有によって、LIFEに取り組まない事業所や、リハビリの成果が出ない事業所の淘汰が進む懸念も出てきた。
出典:第113回社会保障審議会介護保険部会の資料について
資料1 介護情報基盤について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001269924.pdf
介護サービス事業者のテクノロジーの活用や協働化・大規模化
財政制度等審議会の建議において、ICT化の更なる推進と、特養、デイサービスにおける基準緩和が謳われた。これまでの介護報酬改定においては、見守りセンサーなどの導入で介護施設の夜勤職員配置の緩和が進められてきたが、次期改定においては、在宅サービスに緩和措置の拡大が期待されることになる。どのようなICT機器が対象となるかなどは、今後の審議待ちであるが、在宅サービスにおいてもICT化が避けては通れないことが示された。
そして、令和7年度から介護職員等処遇改善加算の算定要件である職場環境等要件に、生産性向上への取り組みが大きく盛り込まれる。介護施設を中心に委員会の設置も義務化されていく。ICT化や業務改善への取り組みは待ったなしである。
協働化は、令和4年から施行されている社会福祉連携推進法人の更なる普及が求められる。問題は、大規模化である。令和6年度介護報酬改定において、通所リハビリテーションの基本報酬体系が簡素化されて、通常規模と大規模の2区分となった。さらに、大規模型であっても、2つの要件を満たすことで、通常規模相当の基本報酬が算定出来るようになっている。これまでも国は大規模化の推進を掲げてきた。しかし、大規模化によって報酬単位が低下して、収益面でのメリットが無い事が足かせとなっていた。今回の改定では、大規模化が報酬面でも優位性が出てきた。次回改定においてこの方向性が拡大した場合、一気に大規模化が加速するであろう。同時に小規模型が報酬面で不利となる局面も想定される。
介護事業の経営モデルでは、スケールメリット、規模の利益が重要となる。2023年11月10日に公表された、令和5年度介護事業経営実態調査結果を見ると明確である。利用者数が少ない、すなわち小規模事業所ほど赤字であることが分かる。そして、利用者数が多い、事業所規模が大きい事業所ほど収支差率が高くなる。これは、いずれの介護サービスにも言える傾向だ。即ち、同じ事を同じようにやっていても、事業所規模が大きくなるほど、手元に残る利益が高くなる。これをスケールメリット、規模の利益と呼ぶ。逆に、小規模の事業所運営はより厳しさを増す。
出典:社会保障審議会 介護給付費分科会(第223回)資料
介護現場の生産性向上の推進/経営の協働化・大規模化 (介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001144295.pdf
外国人介護人材を含めた人材確保対策
6月26日、外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会報告書(中間報告)が取りまとめられた。この中で、外国人介護人材の訪問系サービスの従事については、日本人同様に介護職員初任者研修を修了した有資格者等であることを前提にして従事を認めるべきである、とした。その要件として、事業者に対して一定の事項について遵守を求めて、これらの事項を適切に履行できる体制・計画等を有することを条件とする。その事項とは、
- ① 外国人介護人材への研修は、EPA 介護福祉士の訪問系サービスで求める留意事項と同様に行う。
- ② 一定期間、サービス提供責任者等が同行するなどにより必要なOJTを行う。
- ③ 外国人介護人材のキャリアパスの構築に向けたキャリアアップ計画を作成する。
- ④ ハラスメントを未然に防止するための対応策を設けると共に、利用者・家族等に対する周知等の必要な措置を講ずる。
- ⑤ ICTの活用等も含めた環境整備を行う。
である。
受入事業者に対して、上記①~⑤の事項を適切に履行できる体制・計画等を有することについて、事前に巡回訪問等実施機関に必要な書類の提出を求める、としている。
また、技能実習生の受入についても、引き続き事業所の開設から3年が経過していることを要件とした上で、これを満たさない場合には、以下の①又は②のいずれかを満たす場合に受入れを認めるべきとした。
- ① 法人の設立から3年が経過している場合(法人要件)
- ② 以下のような同一法人によるサポート体制がある場合(サポート体制要件)
- 外国人に対する研修体制とその実施の確保、職員・利用者などからの相談体制
- 事業開始前に事業所従事予定の職員や事業利用予定の利用者・家族に対する説明会等
- 受入れに関して、法人内において協議できる体制
である。今後、国において報告書の内容を十分に踏まえて、具体的な制度設計等を進めていくことになる。
出典:第6回外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会 資料
参考資料4 訪問系サービスなどへの従事について(第4回検討会資料1)
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001231484.pdf
利用者負担が2割となる「一定以上所得」の判断基準の見直し
この論点は、令和6年度介護保険制度改正審議からの継続審議項目である。介護保険法においては、利用者負担は原則1割負担、一部が2割負担(単身で年間所得280万以上)。ごく一部が3割負担(単身で年間所得340万以上)という3つの階段が存在する。国は既定路線として、利用者負担を原則2割とする方向である。しかし、一気に2割負担に移行させることはない。階段を登るように、制度改正の度に2割負担の対象者を拡大して行き、最後には原則2割負担とする方法を取る。その所得基準は診療報酬同様に、単身で年間所得200万以上が見込まれる。年間所得200万以上ということは、現役時代に有る程度の企業に勤務し、企業年金などを受給している場合が確実に該当する。これが実現した場合、利用者全体の30%、利用者の5人に1人が該当すると思われる。必然的に、やり繰りが生じる。これまで、買っていた物を買わなくなる。使っていたものを使わなくなる。
コロナ禍の3年間で、多くの利用者は介護サービスを使わなくても良いことを知ってしまった。そのため、経営体力の弱い小規模事業所を中心に利用者の減少傾向が続いている。これが実現した場合の影響は、すべてのサービスに及ぶ。介護事業経営者は、もっと危機感を持つ必要がある。やり繰りの対象とならないためには、支払金額が倍額となっても、使いたいサービス、使わなくてはならないサービスであることが最低限で必要だ。
ケアマネジメントに関する給付の在り方
居宅介護支援事業所の自己負担1割化である。この論点も、前回審議からの継続審議項目である。実現の可能性が審議の度に増していて、注意を払わなければならない。また、「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」において、5年ごとの更新講習受講義務化や、本来業務以外のシャドーワークの是非などが議論されている。また、ケアマネジャー人材の不足への対策などが課題として取り上げられている。これらの議論をベースに、令和9年度介護保険法改正に向けて準備が進められる。
第3回ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会 資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001267009.pdf
軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方
訪問介護、通所介護の軽度者(要介護1,2)を市町村事業に移行する論点で、こちらも前回審議からの継続審議項目である。しかし、今回は、訪問介護の生活援助サービスに限定しての移行が示された。そのため、実現の可能性が一気に高まったと言える。訪問介護は圧倒的な人材不足に喘いでいる。報酬単価の低い生活援助の切り離しは、訪問介護事業の経営改善にとって、決して悲観的な問題では無いのではないか。今後の議論に注視しなければならない。
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