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コンサルタント小濱道博先生の「経営をサポートするナレッジコラム」

審議が終了した介護報酬改定の重要ポイント

2024/01/12 カテゴリ: 介護保険法改正

1,介護報酬改定率は本体0.61%で前回を下回る

全体の改定率は1.59%で、前回(2021年度)の改定率0.7%を大幅に上回り、施設の光熱費などへの対応分を含めると、実質的には2.04%相当の引き上げとされている。しかし、本体部分には、来年6月からの介護職員への処遇改善分の0.98%が入っている。つまり、居宅介護支援事業所に回るのは残りの0.61%にとどまり、実際は前回を下回る結果となった。この点については、プラス改定報道が先行し、業界団体が大幅なプラス改定を陳情していた経緯から不満も多いだろう。しかし、当初は大幅なマイナス改定も予想されていた事から、今回のプラス改定は十分に評価すべきものである。しかし、審議開始当初から、業務負担の軽減や報酬体系の簡素化が謳われていた令和6年度介護報酬改定全体では、その言葉に反して、過去最大規模の激変となり、報酬体系が複雑化し、負担が増えたことは大きな問題と言える。

また、一号被保険者の介護保険料負担額においては、高所得者の保険料負担を増やして、低所得者の保険証負担を緩和する。医療系施設の多床室料の自己負担化は、介護医療院と、介護老人保健施設の療養型とその他型について、令和7年度から実施する。自己負担2割の対象者拡大は見送られて、次期改定に向けた継続審議となっている。

厚生労働省 診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について
診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について[PDF形式:124KB]

2,令和6年度介護報酬改定は過去最大規模の改定

令和6年度介護報酬改定は、大規模化を促進するための改定であり、事業所自体の質の向上を求める改定である。巷では、処遇改善の実施とプラス改定である旨の報道が先行して、楽観的な雰囲気が漂っていた。例えば、セミナーのスタート時点は、会場参加者の表情には危機感が乏しい。しかし、時間の経過と共に皆、厳しい顔つきとなる。終了時には、大変だという雰囲気が漂い、ボリュームがありすぎて消化出来ないという声が充満する。令和6年度介護報酬改定は過去最大規模の改定であり、介護事業者を直撃する改定である。経営陣は、最大限の危機感を持って挑む必要がある。

3,運営基準等はいち早くパブリックコメントに掲載

12月18日の審議報告の取り纏めに先行して、12月4日の審議後、運営基準の変更部分がパブリックコメントに挙げられた。1月3日までの公示の後に決定となる。また、12月8日には、居宅介護支援事業所の介護予防支援事業の許認可についてと、全事業所対象の財務諸表の提出の義務化についての介護保険法施行規則の一部を改正する省令案がパブリックコメントに公示された。この財務諸表の提出の義務化も、事務員などが雇用されていない小規模な事業所には大きな負担となるだろう。

4,事業規模の拡大策が重要となる

介護事業の経営モデルでは、スケールメリット、規模の利益が重要となる。厚生労働省は大規模化を推奨している。11月10日に令和5年度介護事業経営実態調査結果が公表された。利用者数が少ない、すなわち小規模事業所ほど赤字である。そして、利用者数が多い、事業所規模が大きい事業所ほど収支差率が高くなる。これは、いずれの介護サービスにも言える傾向だ。即ち、同じ事を同じようにやっていても、事業所規模が大きくなるほど、手元に残る利益が高くなる。これをスケールメリット、規模の利益と呼ぶ。令和6年度介護報酬改定によって、更に大規模化が加速する。逆に、小規模の事業所運営はより厳しさを増す。同一建物減算の適用の方向も、小規模事業所には逆風となる。

5, 居宅介護支援事業所の事業所間格差が拡大する

居宅介護支援事業所の改定事項は、共通項目4件、独自項目で17件の計21件に及ぶ。今回の改定で、介護支援専門員1人当たりの取扱件数が、39件から44件に拡大され、ケアプランデータ連係システムを導入し、事務員を配置している場合は49件とされた。また、予防ケアプランのカウントが二分の一から三分の一となったことは賛否両論が渦巻く。間違いなく言えることは、この改定項目は大規模な居宅介護支援事業所に非常に有利であると言うことだ。ICT化が促進し、事務員が配置され、ケアプランデータ連係システムが導入されていれば、業務の効率化が促進されているために担当件数の拡大は容易であろう。もちろん、ケアマネジャー個々人のスキルや担当の難易度などに左右されるが、全体的に担当件数の底上げは容易である。業務改善を進めた上で、ケアマネジャー1人あたりの売上を80万円近くまで拡大する事が可能だ。ケアマネジャーが10人体制では年商1億円も視野に入ってくる。逆に、小規模な居宅介護支援事業所には重荷となる。モニタリング訪問の特例でのTV電話等の活用も同様だ。今回の改定で、小規模事業所と大規模事業所の収益性の格差は一層、拡大して行く。同一建物減算の適用の方向も、小規模事業所には逆風となる。コロナ禍が終わり、時代は新たな時間に移行が進んでいる。介護業界も例外ではない。

第230回社会保障審議会介護給付費分科会資料
【資料5】居宅介護支援・介護予防支援[4.8MB]

6,BCP未作成減算と運営基準違反は異なる

令和6年4月より、BCP作成と高齢者虐待防止措置への未対応事業所には減算が適用される。BCPは特例措置があり、基本的には令和7年4月からであるが、虐待防止措置は来年4月から適用される。注意すべきは、BCPの義務化は令和6年4月であることには変わりはないという事だ。減算とならなくても、運営指導で運営基準違反として指導対象となる。やはり、BCPの作成と高齢者虐待防止措置は年度内に完了しておくことが必要だ。この2つの課題についても、小規模事業所ほど、対応が遅れている。この傾向は、介護サービス全体に言える傾向だ。

第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料
【資料3】業務継続に向けた取組の強化等[2.3MB]
※注:表のなかで、令和8年度末までとあるのは、最終取り纏めにおいて、令和7年度末までに変更された。

7,新たなデイサービスと訪問介護の複合型サービスは見送りに

新たなデイサービスと訪問介護の複合型サービスは、今回の創設が見送られている。この新型サービスは、昨年の介護保険部会で創設が示され、5月12日に通常国会で成立した令和6年度介護保険法にも位置づけられたものである。第九期介護保険事業計画(案)にも、その方向が示されており、11月6日の介護給付費分科会においては、その指定基準や介護報酬の方向が提案されていたのだから、急転直下の見送りは驚きであった。審議会では、見切り発車という批判が多く聞かれた。新型サービスの検証が、コロナ禍の影響で殆ど行われていないという事への批判である。実際に新型サービスについては、厚生労働省老人保健健康増進等事業として三菱総合研究所が公表している「地域の特性に応じた訪問介護サービスの提供体制のあり方に関する調査研究事業」の資料にある「訪問系サービスと通所系サービスを組み合わせた包括報酬制の複合型サービスが仮に創設された場合について」という調査報告程度しか検証が行われていない。今後の3年間で、しっかりとした検証を行った上で、満を持して3年後の改定で仕切り直すという判断は歓迎すべきだろう。そもそも、地方におけるホームヘルパー不足に対応するための新型サービスの人員基準に於いて、訪問介護同様の資格を求めた時点で、今回提案された新型サービスは破綻していたと思う。しかし、全国の社会福祉協議会が運営する訪問介護事業所が、過去5年間で220箇所が廃止や休業になっている中で、訪問サービスを受けることが出来ない地域が年々拡大しているという現実もある。社会福祉協議会が運営する訪問介護が最後の砦である地域も多い。今後、3年間の中で、介護サービスの地域間格差を是正できる制度の構築は待った無しだ。3年という時を待たずに臨時改正と言う手段を執ってでも、早急に代替案を纏めるべきであろう。

第234回社会保障審議会介護給付費分科会資料
【資料4】複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)[2.9MB]

8,通所リハビリテーションの大規模減算の緩和措置

通所リハビリテーションでは、大規模減算の縮小が打ち出された。基本報酬に於ける区分で、大規模ⅠとⅡが統合されて通常規模との2区分の報酬体系となる。さらには、リハビリテーションマネジメント加算の算定率とリハ職の配置次第では、大規模居事業所でも通常規模の報酬を算定出来ることは画期的だ。これによって報酬面での大規模化の不利を払拭して、大規模化を推進する方向が明らかになった。

9,コロナ禍が終了し、新たな新興感染症対策に向かう

今回の介護報酬改定審議においてコロナ禍対策が話題になることはなかった。コロナ禍は、もう完全に過去形となった。代わりに論点として示されているのは、新興感染症への対策である。新型ウィルスは、ほぼ10年サイクルで出現する。10年前はSARS、20年前は新型インフルエンザといった具合である。そのための準備対策が多数、コロナ禍の教訓を活かす方向で盛り込まれる改定となるだろう。未だにコロナ対策に臨戦態勢で挑み続ける介護業界も、そろそろコロナの亡霊から離れる時期が来た。巷では、インフルエンザ、プール熱、ノロウィルスという感染症が拡大しているのだ。コロナへの過剰な対応は、職員を疲弊させて、介護業界が求職者にとって魅力の無い職場と化すだろう。長期に渡る円安で、外国人労働者にとっての日本の魅力は無くなっている。外国人研修生などの人材も、賃金の高い欧米等に関心が向いていると聞く。英語に堪能な日本人スタッフは、賃金の高いオーストラリアなどに流出し始めている。介護業界は、真剣に魅力のある職場作りに取り組まないとならない時期に来ている。

10,施行時期の複数化と処遇改善加算の一本化

今回の介護報酬改定の施行時期は介護サービスによって異なる。訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、居宅療養管理指導の4つのサービスは6月1日の施行となる。それ以外の介護サービスは、従来通りに4月1日から施行される。

現行の3つの処遇改善加算は、新たに介護職員等処遇改善加算として一本化される。その施行時期は6月1日となるので注意が必要だ。2月からスタートする一人6000円相当の処遇改善は、介護職員等ベースアップ等支援加算の上積みとして5月まで算定となる。6月以降は新加算に組み込まれる。ただし、1年間は旧加算の算定も可能とする特例措置がある。

今回の介護報酬改定は、4月スタートのものと、6月スタートのものが混在し、現場での混乱が懸念される。また、各サービスの改定項目が非常に多いため、チェックリストなどを作成して、対応の漏れがないようにする対策が必要となる。

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