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コンサルタント小濱道博先生の「経営をサポートするナレッジコラム」

令和7年度介護職員等処遇改善加算の職場環境等要件としての生産性向上と5Sの実施

2025/01/17 カテゴリ: 介護保険法改正

1. 求められる生産性向上への取り組み

令和7年度の介護職員等処遇改善加算の算定要件である職場環境等要件には、生産性向上への取り組みが今まで以上に盛り込まれる。また、新たに創設される補助金の受給要件も同様である。生産性向上は、ICT化や業務効率化の実現によって介護現場の課題を解決し、利用者のケアの質を向上させる重要な取り組みである。 ICT化と言えば高価な機器や複雑な技術を想像するかもしれないが、本質は日常業務の見直しを進めるプロセスである。業務の無駄や非効率を解消することが鍵となる。ICT化の進歩により、介護現場でのデジタルツールの導入が進められている。例えば、介護記録ソフトや見守りセンサーの利用がある。しかし、ICT化を拒む理由として、ベテラン職員等が新しい技術を敬遠していることが挙げられる。ICT化を成功させるには、経営者のコミットメントが必要である。トップダウンだけではなく、現場の声を聞き、職員が納得しやすい形で導入を進めることが大切である。議事録作成にAI文字起こし機能を活用することで、手間を削減することができる。また、業務プロセスの標準化や、ファイル管理ルールの徹底によって、紙とデジタルの両面で効率化を進めることが可能である。生産性向上を実現するには、ICT化の技術を導入するだけでなく、現場の業務プロセスを見直し、持続可能な仕組みを構築することが求められる。

2. 生産性向上委員会の編成と 5S の実施

ICT化が進む現代において、ペーパーレス化の実現は理想とされているが、現実にはなかなか進まない介護現場が多い。まだまだ、紙ベースの書類が業務に用いられているのが現状である。排泄表、食事表、入浴表などであり、これらが残る理由として、導入されたシステムが現場のオペレーションに完全にはマッチングしないためである。その結果、現場の業務は旧来の作業プロセスを基に動いており、新たに導入されたシステムは部分的に活用されているにすぎない。この状況では、システムの隙間を埋めるために紙の書類が必要となる。また、紙の書類は一覧性が高く、現場スタッフにとっての視認性や使いやすさの面で優れていることも理由の一つである。介護現場では常に動きがあるため、わざわざ紙で情報を一覧できるツールを作成することも多い。これは、システムの導入がトップダウンの形で導入されたことが原因である。ICT化を成功させるためには、ボトムアップによる現場の課題を分析し、それに応じたICT機器やプログラムを段階的に導入する必要がある。

生産性向上を目指すには、生産性向上委員会を編成して、介護現場の課題の見える化が重要となる。この委員会では、介護現場の課題を解決するための具体的な方法を検討していく。必要に応じてICT化を進めるが、それに限定されない。現場の作業を簡素化・効率化するアナログ的な手法も含まれる。生産性向上の実現プロセスでは、ICTを導入しただけで終わりにせず、その後の導入状況や現場職員の適応状況を確認し、必要な修正を行うことが求められる。生産性向上委員会の活動には、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の手法が効果的である。この手法を用いて、現場の問題点を慎重に掘り下げて、解決策を検討する。業務の流れや作業プロセスを時系列で整理し、紙の書類の現状を確認する過程で、職員によって独自に作成された書類や重複した書類が多く存在することが分かる場合が多い。重複や不要な書類はすべて処分し、必要なもののみを残す。使用頻度の少ない書類は別管理とする。このように、生産性向上委員会を中心にICT化とアナログの改善を並行して進めることが、現場の負担軽減と効率化を両立させる鍵となる。

3. 介護現場の、無理、無駄、ムラ

業務オペレーションを整理する際には、「無理」「無駄」「ムラ」を適切に排除するという3Mの考え方が重要である。「無理」とは、経験の浅い職員を一人で夜勤に配置したり、体重80キロの男性利用者の移乗介助を女性一人で行うことなどが該当する。次に「無駄」については、利用者を送迎した後に忘れ物に気づいて再度訪問する、バイタルチェックを行う際にメモや紙、一覧表、パソコンなどに何度も情報を転記する、といった作業が挙げられる。このような非効率的な作業は、時間と労力を浪費する典型例である。さらに「ムラ」とは、担当者によって書類の作成方法や作業プロセスが異なること、職員ごとに自己流のやり方がまかり通っていること、毎日の職員配置人数の違いによる作業負荷の偏りなどを指す。これらのムラは業務の統一性を欠き、結果として現場の混乱や非効率を考える原因となる。

介護現場では「忙しい」という言い訳が蔓延し、仕事のやり方を見直すことに偏見傾向がある。しかし、ミスや手戻り作業、業務の思い出し作業、散乱した書類の捜査にかかる時間はすべて無駄であり、業務のばらつきとして排除すべき対象である。 先に触れたように、介護現場の課題を解決するための手法の一つとして、5Sがある。この手法を活用して業務のばらつきを減らし、作業の簡素化を図ることで時間的余裕を確保し、生産性を向上させる。5Sにおいて重要なのは、成果の成果を「見える化」することである。整頓前後の作業環境を写真で比較したり、進捗状況をグラフ化することで、改善の効果を視覚的に実感することが出来る。生産性向上への取組を実施する際には、トップの強い意思決定が肝心である。トップが率先して生産性向上に取り組む姿勢を示し、その実現にコミットすることで現場の士気を高める。生産性向上委員会はICTを導入して終了するものではなく、改善策が計画通りに効果を発揮しているかを定期的に検証し、必要に応じて修正を行う役割を担う永久的な組織として継続させるべきである。

また、無理、無駄、ムラの具体的な原因として、手順が不明確で戸惑うこと、ミスからのやり直し、久しぶりに行う業務を思い出しながら行うこと、散乱した書類を探すことなどが挙げられる。解決するためには、手順を一目でわかるように、必要な情報や物品をきちんと整理して誰でも理解できる状態にすることが求められる。無駄の定義としては、利用者よりも社長や社内を重視する「内向きの無駄」、会議やケアの為のような「行為の無駄」、冗長な情報伝達やその遅延による「情報伝達の無駄」 、時代遅れのルールに縛られる「作業の無駄」、過剰な雇用や作業のための「在庫の無駄」、付加価値を生まない行動や曖昧な指示による「動作の無駄」などがある。これらの無駄を排除していくことが生産性向上の目的でもある。

出典:より良い職場・サービスのために今日からできること(業務改善の手引き)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/H30_Seisansei_shisetsu_Guide.pdf

4. 生産性向上委員会プロセス

生産性向上委員会の最初のプロセスでは、介護現場の日常業務フローを時間軸ごとに分割し、それぞれの業務パートで使用される管理書類、機材、構成される職員数などの現状を一覧表にする。この作業によって、各業務パートにおける問題点を整理し、書類の重複や担当者ごとの独自書類、また、現場職員へのインタビューを行って課題を洗い出し、その根本的な原因を探ることが重要である。この過程においては、3M(無理、無駄、ムラ)の考え方をベースに分析を進める。

課題の分析では、難解な手法を設ける必要はない。例えば、職員インタビューを対面で行う場合には、場所や時間の問題が存在するがこれを解決するために、Zoomなどのテレビ会議システムやビジネスチャットツールを活用することも一案である。これにより、相手の都合を気にせず意見交換やアンケートを実施することが可能になる。AIを搭載したICレコーダーを使用することで、記録担当の負担を軽減し、議事録作成の効率を大幅に向上することが出来る。課題分析が終了した後は、5Sを実行して業務改善に取り組む。

5. 5S の進め方

5Sの最初のステップである整理の手順は、必要なもの、不必要なもの、わざわざ使用しないものの、三つに分類する作業から始める。保存期限を超えた書類や重複した書類、職員が個人的に使っている独自の書類、パソコン内の不要なメールやファイルなどである。整理とは「捨てる」ことであり、必要なものだけを残し、不要なものは思い切って処分し、今すぐ使わないものは遠ざけて保管する。この整理の過程を効率的に進めるために、生産性向上委員会議が業務全体をチェックし、不要と思われるものに赤タグやシールを貼って分類する。その後、再確認を経て不要なものは廃棄し、保管すべきものは保管庫に移動する。今使うもの以外は置かないことを徹底する。

整理の次のステップは整頓である。整頓とは使いやすさを追求することであり、その基本は定置、定品、定量である。種類ごとに一定の場所に揃え(定品)、必要な量だけを管理する(定量)。例えば、紙ベースの書類は利用者ごとの個人ファイルを一定のルールで保管する。保管期間が過ぎた書類はファイルから外して適切に処分する。ルールを明確にすることで、誰もが書類に簡単に取り出せる状態を維持する。この際、物品にラベルを貼ったり、表示を行うことで、誰でもわかりやすい仕組みを作ることが重要である。

次に、清掃は「使いたいものをすぐに正しく使える状態」を継続するためのステップである。 職員が日常的に清掃を行い、不要なものやルール外のものをその場で片付ける習慣を徹底する。仕事を途中で終わらせず、終了時には自分の周囲を整えた上で帰宅することが求められる。清掃時には異常がないかどうかを点検し、モップや清掃用具も適切に管理する。常に清掃された状態を維持することが業務の効率化に直結する。

清潔は、小さな汚れがすぐにわかる状態を維持することを目的とする。周囲が乱れていると、小さな異常や汚れが埋もれてしまうため、清潔な環境を守ることが重要である。帰宅時には、机の上には何も置かないなど、日常的なルールを徹底し、夜勤者や出勤時に他職員がチェックする仕組みを取り入れる。

最後のステップである躾は、5Sの取り組みを習慣化するための鍵である。トップが率先して模範を示し、職員全員がルールや規律を守り、それを日々の業務に反映することが求められる。挨拶や礼儀、報告連絡相談、時間管理などの基本を習慣化することで、行動がシンプルかつ明確になる。

これらの5Sの実践により、業務の効率化や職場環境の改善が図られる。清潔で整った環境は、安全性や感染予防を強化し、働きやすい職場を構築する基盤となる。

出典:より良い職場・サービスのために今日からできること(業務改善の手引き)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/H30_Seisansei_shisetsu_Guide.pdf

6. 職場環境等要件としての生産性向上

令和7年度以降、介護職員等処遇改善加算の算定要件が大きく変わる。その中でも特に職場環境等要件としての生産性向上が注目されている。この変更により、生産性向上の取組が3つ以上の実施が求められる処遇改善加算の上位区分である区別ⅠおよびⅡを敬遠し、区別ⅢまたはⅣに引き下げようという事業者の声も聞こえてくる。生産性向上という言葉に対しては、介護ロボットや見守りセンサー、インカムなど高額な設備投資が必要との印象が強く、小規模事業者にとってはハードルが高く捉えられがちである。しかし、職場環境等要件として求められる生産性向上とは、高額な設備投資を求めるものではなく、「生産性向上の導入の進め方」に基づいて業務改善のプロセスを順番に進めていくことを求めているにすぎない。この点を理解すれば、安心して上位の評価を目指すことが可能となる。また、法人で事業所が1か所のみの小規模事業者には例外規定があり、介護施設等においては、令和6年度介護報酬改定で創設された、生産性向上推進体制加算を算定することで、生産性向上の要件を満たすことができる。

職場環境等要件としての生産性向上は、以下のように分けられる。 まず、アナログプロセスの見直しとして、①生産性向上委員会やプロジェクトチームの設置、②課題分析、③5S活動、④業務標準書の作成。次に、ICT化として、⑤介護記録ソフトや⑥介護ロボットの導入。 さらに、⑦介護助手の活用という役割分担を共通した業務改善や、⑧委員会の共同設置など、小規模事業者向けの特例も用意されている。

特に重要なのは、①から③のプロセスである。生産性向上委員会を設置して、日常の業務フローや書類を確認し、課題を抽出し、その対策検討する。5S活動を解決ツールとして活用することで、3つの算定要件が満たされる。

さらに、整理や整頓による業務の改善内容を業務標準書に反映することで④の要件が満たされる。また、課題の解決にICT化が有効であると判断される場合には、⑤介護記録ソフトや⑥介護ロボットの導入を検討する。この考え方に基づくことで、職場環境等要件を自然にクリアすることが可能であり、負担を感じる必要はない。環境と事業運営を実現することが期待される。

この考え方に基づいて、新たなる補助金の要件である、介護職員等の業務の洗い出し、棚卸しとその業務効率化など、改善方策の立案を行うことにも適用できることを申し添えておく。

出典:介護職員等処遇改善加算の職場環境等要件(令和7年度以降)
https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/workEnvironmentRequirements.pdf

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