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2025年度からの職場環境等要件と新たな補助金制度
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2025/03/10 | カテゴリ: 介護保険法改正

賃金額が職員募集成果に直結する時代に
介護業界では、かつて福祉の仕事に従事する者は高い給与を求めるべきではないという風潮があったが、近年の人材不足の深刻化に伴い、給与の引き上げが避けられない状況になっている。特に訪問介護や看護職の分野では、職員の確保がますます困難になっており、一定水準以上の給与を提示しなければ、人材を集めることが難しくなっている。例えば、地域の相場より1割程度高い給与を設定すれば、採用の競争力を高めることができる。人材紹介会社を利用すると高額な手数料が発生するため、事業所が自力で人材を確保するには、給与水準の引き上げが不可欠となっている。
訪問介護事業においては、処遇改善加算が重要な役割を果たしており、特に上位区分の取得が経営の安定化につながる。しかし、加算を取得していない事業所も少なくなく、特に小規模事業所では、代表者が現場業務に追われるあまり、加算の申請手続きに時間を割けないことが多い。その結果、職員の待遇改善が進まず、人材の流出が加速するという悪循環に陥るケースが増えている。加算の取得を怠れば、事業所の競争力は低下し、結果として収益の確保が難しくなるため、積極的な対応が求められる。
処遇改善加算には4つの区分があり、最も高い区分1を取得すると収益が大きく向上する。例えば、月間売上が100万円の訪問介護事業所の場合、区分1を取得すれば24万5000円の加算が得られるが、区分4では14万5000円にとどまり、その差は10万円にもなる。年間で考えれば、この差はさらに大きくなり、区分1を取得した場合は年間で約120万円の収入差が見込める。これを給与に反映すれば、職員の定着率向上や新たな人材の確保にもつながる。一方で、区分4のままでは十分な昇給ができず、職員のモチベーション低下を招く恐れがあるため、可能な限り上位区分の取得を目指すことが求められる。
上位区分の取得には、キャリアパス要件を満たすことが不可欠である。この要件には複数の条件が含まれるが、キャリアパス要件Ⅲでは昇給の仕組みを整えることが求められる。多くの訪問介護事業所では定期的な昇給が難しく、結果として上位区分を3割程度の事業所は取得していないが、昇給の仕組みは比較的簡単に構築することが可能である。例えば、資格手当を活用し、介護福祉士の資格取得時に500円、社会福祉士取得時にさらに500円、ケアマネージャーの資格を取得すればさらに500円といった形で、資格取得ごとに昇給する仕組みを導入することで、キャリアパス要件をクリアできる。この方法を取り入れることで、職員のスキルアップを促進しながら、区分3の取得を実現することが可能となる。
さらに、区分2の取得には、年収440万円以上の職員を配置することが条件とされているが、特例措置を活用すれば、これを必ずしも満たす必要はない。事業所の規模や運営状況によっては、年収440万円の職員を配置しなくても、区分2を取得することができる。しかし、この特例措置の存在を知らない事業者が多く、結果として加算取得を諦めてしまっているケースが少なくない。国はこの特例措置の周知を強化する方針を示しており、事業所側も積極的に情報を収集し、適用可能な特例を活用することが求められる。

出展:厚生労働省 第243回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
【資料3】処遇改善加算等について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001369273.pdf
職場環境等要件のルール変更
2025年4月から、介護職員等処遇改善加算の算定要件である「職場環境等要件」に関するルールが変更される。この改正の背景には、介護業界の慢性的な人材不足や、現場の負担増加に対する対応が求められていることがある。今回のルール変更は、職場環境の改善をより実効性のあるものとすることを目的としており、事業所ごとに求められる対応が大きく変わる可能性がある。
今回の変更では、介護職員の処遇改善および職場環境の向上を目的としており、事業所における具体的な取り組みが求められる。2025年度からの職場環境等要件は、具体的に六つの区分に分かれている。第一に、入職促進に向けた取り組みとして、幅広い採用の仕組みを構築し、職業体験の受け入れを行うなど、介護業界の魅力を高めるための施策が求められる。第二に、職員の資質向上やキャリアアップ支援として、働き方に関する定期的な相談の機会を設けるとともに、研修を実施し、キャリア段位制度と人事考課を連動させることが重要視される。第三に、仕事と家庭の両立支援や多様な働き方の推進に関して、休業制度の充実や業務の属人化解消といった施策が必要とされる。さらに、第四の要件として、腰痛を含む職員の心身の健康管理が求められ、職員相談窓口の設置など相談体制を整備し、休憩室の設置を行うなど健康管理対策を講じることが必要である。第五に、生産性向上のための取り組みとして、ICT機器の導入や業務改善活動の体制構築など、効率的な業務遂行に向けた施策を進めることが求められる。そして最後に、やりがいや働きがいの醸成に関して、ケアの好事例などを職員間で共有する機会を設けるとともに、介護職員の意見を反映しながら勤務環境やケア内容の改善を進めることが求められる。
これらの職場環境等要件の取り組みは、新加算Ⅰ・Ⅱを算定する場合、それぞれの区分から二つ以上を選択し、特に生産性向上に関する区分では三つ以上の取り組みが必要となる。そのうち一部は必須要件とされており、事業所はその具体的な取り組み内容を情報公表システムなどで公表することが義務付けられる。また、新加算Ⅲ・Ⅳを算定する場合には、各区分から一つ以上、生産性向上の区分では二つ以上の取り組みが求められる。
このように、2025年4月からの職場環境等要件の変更は、介護職員の処遇改善を促進するとともに、より働きやすい環境を整備することを目的としている。事業所にとっては、短期間での対応負担を軽減しつつ、計画的に新要件へ適応するための機会となる。
2025年4月からの介護職員等処遇改善加算に関する職場環境等要件の変更点について、適用猶予措置が導入されることが決定した。この措置は、事業所が新たな要件に対応するための準備期間を確保することを目的としている。
まず、新たな職場環境等要件の適用について、事業所が2026年3月末までに要件を整備することを誓約し、処遇改善計画書に記載した場合、2025年度の時点で要件を満たしているとみなされる。ただし、この場合、2026年3月末までに実績報告書を提出する必要がある。この措置により、事業所は十分な準備期間を確保しながら、新要件への対応を進めることが可能となる。
また、「介護人材確保・職場環境改善等補助金」の申請を行った事業所については、2025年度の職場環境等要件の適用が猶予される。この措置により、事業所は補助金を活用しながら、経済的負担を抑えつつ要件整備を進めることができる。
さらに、キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲについても、事業所が2026年3月末までに要件を整備することを誓約し、それを処遇改善計画書に記載した場合、2025年度の時点で要件を満たしているとみなされる緩和措置が延長されることとなった。これについても、2026年3月末までに実績報告書を提出することが求められる。
これらの変更は、介護職員等処遇改善加算の取得を促進し、介護職員の処遇改善をより広範に実現することを目的としている。事業所にとっては、短期間での対応負担を軽減しながら、新要件に向けた計画的な整備が可能となり、より安定した運営を図ることができる。

出展:厚生労働省 第243回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
【資料3】処遇改善加算等について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001369273.pdf
介護人材確保・職場環境改善等補助金
2024年に導入される新たな補助金制度は、介護業界における職場環境の改善を目的としており、介護職員1人あたり最大5万4000円相当の支援が受けられる仕組みとなっている。この補助金の最大の特徴は、支給された資金を必ずしも賃金の引き上げに充てる必要がないという点であり、介護現場の業務負担を軽減し、より働きやすい環境を整備するための幅広い用途に使用することが可能となっている。
具体的には、この補助金を活用できる項目には、以下のようなものが含まれる。まず、介護助手の雇用に充てることが可能である。近年、介護業界では人手不足が深刻化しており、特に介護業務に直接関与しないサポートスタッフの不足が現場の負担増加につながっている。この補助金を活用することで、介護助手を雇用し、介護職員が本来の業務に集中できる環境を整備することができる。例えば、食事の配膳や清掃、リネン交換などの業務を介護助手が担うことで、介護職員が利用者のケアにより多くの時間を割くことができるようになる。
次に、職場環境改善にも補助金を活用できる。職場環境改善経費としては、介護職員等処遇改善加算における職場環境等要件を進めるための費用やICT導入に伴う職員への研修費用などが挙げられる。ただし、介護ロボットやICT機器の導入費用は対象外である。補助金の使用にはいくつかの制限も設けられている。特に注意が必要なのは、介護職員の募集費用には使用できないという点である。つまり、新たな職員を採用するための求人広告費や人材紹介手数料には、この補助金を充てることができない。介護業界では人材確保が喫緊の課題となっているが、補助金を求人活動には使えないため、別の予算で対応する必要がある。したがって、この補助金の活用を検討する際には、職場環境の改善を目的とした取り組みに重点を置くことが求められる。
また、この補助金は一度限りの支給であり、継続的な財源とはならない。そのため、賃金の恒常的な引き上げに充てることは慎重に検討すべきである。例えば、5万4000円を一時金として職員に支給することも可能ではあるが、それを毎年継続的に支給できる財源がなければ、翌年以降の賃金に影響を与える可能性がある。そのため、賃金の改善を目的とする場合には、職務改善加算の取得と併用することで、持続可能な昇給を実現することが望ましい。
この補助金を受け取るためには、職場環境改善に関する取り組みをすでに実施している、または計画していることが条件となる。しかし、この要件は職務改善加算の要件とほぼ同じ内容となっているため、すでに職務改善加算を取得している事業所であれば、新たな手続きはほとんど不要である。そのため、職務改善加算と補助金を同時に活用することで、より効果的な資金活用が可能となる。仮に、まだ職務改善加算を取得していない場合でも、加算の申請と同時に補助金の申請を行うことで、手続きの負担を軽減しながら、職員の待遇改善を進めることができる。

出展:厚生労働省 第243回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
【資料3】処遇改善加算等について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001369273.pdf
制度を充分に活かす経営が求められる
このように、2025年に導入される補助金制度は、介護現場の負担軽減や職場環境の改善を目的としており、適切に活用することで事業所の運営に大きなメリットをもたらす。ただし、補助金は一時的な支援であるため、持続可能な人材確保のためには、処遇改善加算の取得や、介護職員の待遇改善に向けた長期的な戦略が不可欠である。事業者は補助金の活用方法を慎重に検討し、事業所の成長と職員の満足度向上の両方を実現できるよう計画を立てることが求められる。
このように、2025年の新たなルールや補助金制度の導入により、事業所にはより計画的な経営戦略が求められる。特に、職務改善加算の上位区分を取得し、補助金を最大限に活用することで、人材の確保と経営の安定化を図ることができる。介護業界全体が人材確保の厳しい競争に直面している中、各事業所は給与や職場環境の改善に積極的に取り組み、持続可能な経営を目指す必要がある。

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