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コンサルタント小濱道博先生の「経営をサポートするナレッジコラム」

第22回 【最新】令和6年度介護保険法改正 財政制度分科会において

2023/05/25 カテゴリ: 介護保険法改正

本格化する厚生労働省と財務省の綱引き

令和6年度介護保険法は5月12日に通常国会で成立した。しかし、今回の制度改正は二段階での審議となり、この夏までに結論が先送りされた3項目が審議対象となる。即ち、高所得者の介護保険料の引き上げと、自己負担2割の対象拡大。介護老人保健施設の多床室を全額自己負担とする論点である。これらが実施となった場合、秋の臨時国会で再び改正介護保険法案が審議される。

また、令和6年度介護報酬改定の審議が本格化する。このなかで、処遇改善3加算の一本化、新たな複合サービスの詳細などが明らかとなる。同時に、介護報酬改定における厚生労働省と財務省の綱引きが本格化してきた。財務省は、6月の骨太方針2023の策定を前にして、財政制度分科会において重要な提言を行う事を慣例としている。今回は、この財政制度分科会の提言を見ていく。

介護の改革の必要性

介護にかかる費用が将来的に増加し、団塊世代が85歳以上となる「10年後」には介護費用が急激に増えることは確かである。一方で、介護費用を支えるための保険料や公費負担の上昇、介護サービスを提供するための人材確保には限界がある。このような課題に対処するためには、以下の3つのアプローチが必要である。

①ICT機器の活用による人員配置の効率化

ICT(情報通信技術)機器の導入により、介護現場での作業効率を向上させることができる。例えば、ヘルスケアデバイスやモバイルアプリケーションの活用により、高齢者の健康状態をリアルタイムでモニタリングし、早期に問題を検知することができる。これにより、必要な介護者の配置を効率的に行い、負担を軽減することができる。

②協働化・大規模化による多様な人員配置

介護現場では、さまざまなスキルや専門知識を持った人材が必要である。しかし、その需要に対して供給が追いついていない状況がある。こうした課題に対処するためには、異なる介護組織や専門家との協力体制を構築し、効果的な人材配置を図ることが重要である。また、スケールメリットを追求した介護施設やサービスの提供を通じて、経済的な効率性を向上させることも考えられる。

③給付の効率化

介護報酬改定や利用者負担、給付範囲の見直しなど、制度見直しによる給付の効率化も必要である。介護サービスの提供形態や負担割合の見直しにより、財政的な持続可能性を確保しなければならない。

ICT機器の活用による生産性の向上と人員配置の効率化の必要性

超高齢化や要介護者の急増が予想される中で、介護人材の需要も増加している。しかし、労働人口には限りがあるので、必要な介護サービスを確保するためには、いくつかの対策が必要となっている。まず、ICT機器の活用による業務負担の軽減やデータに基づいた介護サービスの質の向上が重要である。ICT機器は、介護現場において作業効率を向上させるだけでなく、自立支援や重度化防止などの介護サービスの提供にも役立つ。

また、介護施設や通所介護などの人員配置の効率化も重要である。これには協働化や大規模化が有効な手段となる。異なる介護組織や専門家との協力体制を構築し、必要なスキルや専門知識を持った人材を効果的に配置することが求められている。これらの対策を通じて、介護人材の効率的な活用と介護サービスの確保を図ることが重要である。ICT機器の活用や人員配置の見直しにより、労働人口の限られた状況でも、質の高い介護が提供されることが期待される。

介護事業の収益の推移と現預金・積立金等の水準

介護事業者は、直近のコロナ禍において、業態間には多少の異同があるものの、安定した収益を上げている傾向がある。特に、産業界全体や中小企業、中小サービス業がコロナ前から年ごとに収益が変動する中で、介護事業の収益は安定した伸びを示している。この安定した収益の理由として、介護事業を運営する社会福祉法人が平均して費用の6か月分前後の現預金・積立金等を保有していることが挙げられる。また、介護事業においては需要が高まっているため、一定の収益を確保できる傾向がある。ただし、具体的な介護事業者の状況は個別に異なる場合があるので、全ての事業者が同様の収益状況であるわけではない。詳細なデータや統計に基づいた分析が必要とされている。

業務の効率化と経営の協働化・大規模化

介護人材のリソースを有効に活用し、生産性を向上させるためには、経営の協働化と大規模化が重要な取り組みとされる。規模が大きく、スケールメリットが有効な在宅介護や施設介護では、収支差率が上昇する傾向がある。営利法人と社会福祉法人を比較すると、営利法人の方が収支差率が良好であるとされる。大手民間企業では、100か所以上の事業所で通所介護や訪問介護を運営している例もあり、これらの取り組みが効率的な運営につながっていると考えられる。ただし、営利法人と社会福祉法人の収支差率の差異は、個別の事業所や地域によって異なる場合がある。また、収支差率だけでなく、介護サービスの品質や利用者満足度など、さまざまな要素を考慮することも重要である。介護事業者においては、毎年多くの参入や廃業が見られるが、その多くは営利法人によるものである。一方、社会福祉法人については、新規設立や合併、解散などの動きは比較的少ない。社会福祉法人では、1法人が1つの拠点(施設のみ)を運営している法人や、1法人が2つの拠点(施設と通所または訪問)展開とする法人が過半数を占めている。ただし、こうした法人の利益率は低調な状況にある。一方、特別養護老人ホームにおいては、規模が大きくなるに従い、職員1人当たりの給与が大きくなる傾向がある。多くの社会福祉法人の経営基盤を強化するための方策として、他法人との連携が考えられる。具体的には、物資の共同購入や人材の相互交流などが挙げられる。これらの取り組みは、職員の処遇改善にも寄与するだろう。骨太の方針2022においても、介護保険制度改革に於いての経営の大規模化は重要な論点とされている。

介護保険の利用者負担(2割負担)の見直し

令和4年10月より後期高齢者医療制度において、所得上位30%の方に対して2割負担の導入が行われている。これに基づいて介護保険の利用者負担(現行では所得上位20%)の拡大について、今夏までに結論を出す必要がある。また、利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すことについても検討すべきである。この点については、財務省は永年の提言事項である。

介護保険の第1号保険料負担の見直し

介護保険における第1号保険料は、保険者ごとに介護サービスの利用見込みなどを考慮して基準額を設定し、所得段階別の保険料を決定している。基本的には、基準額を上回る部分と下回る部分の合計額を均等にするように調整される。

低所得者の保険料負担の軽減を強化するため、2015年度から公費による負担軽減が実施された。将来的には、高齢化による第1号被保険者数の増加や給付費の増加に伴い、保険料がさらに上昇する見込みとなっている。この中で、低所得者の負担軽減に過度な公費の増加を防ぐために、負担能力に応じた負担の考え方に基づいて、高所得の被保険者の負担増による再分配を強化する必要がある。これも今後の介護保険制度を維持するための重要な論点で、今夏までに結論が出される。

多床室の室料負担の見直し

介護保険制度創設時から、施設介護においては、居宅介護とのバランスや高齢者の自立を図る状況を考慮し、食費や日常生活費は利用者本人の負担とすることが考えられていた。そのため、2005年度には、食費と個室の居住費を介護保険給付の対象外とする見直しが行われている。ただし、多床室の場合は食費と光熱水費のみが給付対象外となった。また、2015年度には、特別養護老人ホームの多床室の室料負担を基本サービス費から除外する見直しが実施された。しかし、介護老人保健施設、介護医療院、介護療養病床の多床室については、室料相当分が介護保険給付の基本サービス費に含まれたままとなっている。介護医療院は、特別養護老人ホームと同様に、家庭への復帰は限定的であり、利用者にとっては「生活の場」となっている。一方、介護老人保健施設は、施設の目的が「居宅における生活への復帰を目指すもの」とされており、少なくとも3か月ごとに退所の可否が判断されることとなっている。しかし、一般的な医療機関の長期入院の基準が180日である中、介護老人保健施設の平均在所日数は300日を超えている。さらに、入所当初の利用目的が「他施設への入所待機」や「看取り・ターミナル期への対応」という利用者が3割を占めており、長期入所者の退所が困難な理由として「特養の入所待ちをしている」が38%、「家族の希望」が25%となっている。このような状況を踏まえ、居宅と施設の公平性を確保し、どの施設であっても公平な居住費(室料および光熱水費)を求める観点から、給付対象となっている室料相当額について、基本サービス費などから除外して全額を自己負担とする見直しを行うべきである。この論点についても今夏までに結論が出される。

介護老人保健施設の在り方の見直し

介護老人保健施設は、居宅復帰を前提として、急性期における機能回復のためのリハビリなどのサービスを提供する施設である。この趣旨に基づき、短期的なリハビリを想定した人員配置や報酬体系が採用されている。しかし、介護老人保健施設では利用率の減少が見られており、また長期間滞在する利用者(特養への入所待ちなど)も相当数存在している。このような状況を踏まえ、利用者の実態や地域のニーズに即して、老健そのものを特養へ移行することや特養に近い形の人員配置や報酬体系を検討する必要があるとした。これは、介護老人保健施設の新たな方向性を示した重要な論点となるだろう。

人材紹介会社の規制強化

介護事業者の人材採用において、約5割の事業者が民間の人材紹介会社を活用している。しかし、手数料の相場水準は年収の30%程度とされており、高額の経費を支払っている事業者も存在する。また、人材紹介会社を介した採用の場合、離職率が高いという調査結果もあり、安定的な職員の確保には必ずしもつながっていない。介護職員の給与は公費(税金)と保険料を財源としているため、本来は職員の処遇改善に充てられるべきである。介護事業者向けの人材紹介会社に関しては、就職お祝い金の禁止などの現行の規制の徹底や手数料水準の設定など、一般の人材紹介よりも厳しい対応が必要とされる。特に就職お祝い金は、雇用した職員の短期間離職に直結しており介護事業者の収益率と人材不足を悪化させている要因でもある。今後は、公的な人材紹介機関であるハローワークや都道府県などを介した公的な人材紹介の強化も検討されるべきある。この提言は非常に重要であり、早期の制度上の規制対応が求められるだろう。

サービス付き高齢者向け住宅におけるケアマネジメント等の適正化

サービス付き高齢者向け住宅において、同一の建物に居住する高齢者に対して特定の事業者が集中的にサービスを提供して、画一的なケアプランや過剰なサービスを提供しているなどの問題が指摘されている。ケアマネジメントについては、サ高住の入居者がいる場合、所要時間が他の場合に比べて約30%少ない。これらの実態を考慮して、サ高住でケアマネジメントを提供する事業者には、同一建物減算を適用すべきであるとした。さらに、利用者が同一建物に集中している場合には、訪問介護などにおいてもさらなる減算が行われることで、適正化が図られるとした。財務省は、サ高住等における画一的なケアプランや過剰なサービスの問題に対処するためには、ケアプランの点検と見直し、そして同一建物減算や訪問介護における適正化が重要と考えている。この点については、令和6年度介護報酬改定においても、重要な論点となっていくであろう。

介護におけるアウトカム指標の強化

介護保険法では、要介護者が自立した日常生活を営むために介護サービスが行われるべきであり、報酬は要介護度が進むにつれて高くなる一方、自立支援や重度化防止に対する評価が不十分である。例えば、ケアマネジメントの場合、要介護3・4・5の基本報酬が要支援1・2の3.2倍となっている一方で、労働投入時間で見ると要介護3は要支援1の1.3倍程度に過ぎない。さらに、特定事業所加算の要件には要介護3・4・5の利用者の割合が4割以上であることが含まれており、要介護3・4・5への評価が十分に手厚いことが指摘された。介護保険法の趣旨に照らして、自立度や要介護度の維持・改善などのアウトカム指標を重視した枠組みが重要である。介護保険制度においては、自立支援や重度化防止に関する取組の評価が不十分であり、アウトカム指標を重視した枠組みへの転換をこの提言では求めている。居宅介護支援事業所の報酬については、令和6年度からLIFEの活用を評価するLIFE加算の創設が検討されている。令和6年度介護報酬改定においては、基本報酬が一本化されて、LIFEの活用を評価する報酬体系になる可能性が出てきたのではないか。今後の介護報酬改定審議が注目される。

例年、財務省の提言は極論を言うことで、厚生労働省との妥協点を見いだすやり方を取ってきた。今回の提言も、事業の大規模化など極論と思える内容がもりこまれている。しかし、全体を見ると、介護老人保健施設の方向性や人材紹介会社への規制など、現実的な提言が多いという印象だ。令和6年度介護保険制度改正は、過去最大規模になる可能性が見えてきている。しっかりと情報を精査して事前対策を取る必要がある。

全資料出典

財政制度分科会(令和5年5月11日開催)資料一覧
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/20230511zaiseia.html?fbclid=IwAR3-SfTej3Kxjh7SSN9qltS7_oJDzEr66QeeyngbinjfpR9cDd3lKQ5fBcI

資料2
財政各論③:こども・高齢化等

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