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2027年度制度再構築の深淵な課題と方向性
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2025/12/15 | カテゴリ: 介護保険法改正
自己負担2割の対象拡大:制度の持続可能性と公平性の追求
介護保険サービスの利用者負担については、現行の所得に応じた1割、2割、3割の負担割合を定めた仕組みが導入されているが、制度の財政的な持続可能性と、世代間・世代内の公平性の確保という観点から、2割負担となる「一定以上所得」の基準をどのように見直すかが重要な論点となっている。2027年度の改正までには、この結論を出すことが審議会の責務とされている。
審議においては、二つの主要な案が示されている。一つは、高所得者に限定して2割負担の対象を広げる案であり、もう一つは、負担上限額を設けることで、より広い範囲の利用者を2割負担の対象とする案である。これは、利用者の急激な負担増への配慮を行うべきか否かという、高齢者保護と制度維持のバランスを巡る議論である。
この議論の背景には、高齢者世帯の貯蓄額が、現役世代と比較して高い水準にあるというデータが存在する。しかし、これに対しては、高齢者の貯蓄は老後の備えとして形成されたものであり、単純に現役世代と比較して負担増を決定するのは妥当ではないという意見や、利用者負担が増加することでサービスの利用控えが生じ、結果として重度化し、かえって介護給付費が増大するリスクがあるという強い懸念が示されている。さらに、負担の公平性を確保するためには、現行制度で十分勘案されていない金融所得や預貯金等の金融資産を、保険料や負担割合の算定に反映させるためのマイナンバーの活用や法定調書の利用などを並行して進める必要があることも、明確な方向性として示されている。
出典:第129回社会保障審議会介護保険部会資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001597739.pdf
ケアプランの有料化
現在、原則10割給付である居宅介護支援サービスに、利用者負担を求めるか否かという議論は、介護保険制度の根幹に関わる課題として、特に慎重かつ多角的に審議されている。結論は2027年度の第10期計画期間の開始までに出すこととされているが、意見は依然として二分している。
利用者負担の導入に慎重な立場からは、ケアマネジメントの公正・中立性が重視される点、そして利用者負担が利用控えにつながり、必要な支援を受けられなくなる懸念が強く主張されている。これに対し、導入を主張する立場からは、介護費用増大への対応、ケアマネジメントの専門性への評価、そして施設サービスの利用者が実質的にケアマネジメント費用を負担していることとの公平性の確保が理由として挙げられている。
さらに、ケアプランの有料化の議論には、業務効率化の進捗という側面が絡んでいる。ICTによる業務効率化が十分に進展するまでの間、これらの事務に要する実費相当分を利用者負担として求めるという案が論点として提示された。しかし、この案は、給付管理は本来保険者が行うべき業務であるという観点から、「業務負担軽減の方向性と一致しない」という批判や、技術的な利用抑制につながる懸念から、慎重な意見が多くを占めている。
特に重要なのは、住宅型有料老人ホームにおけるケアマネジメントの給付の在り方に関する議論である。住宅型有料老人ホームは、外部サービスを利用する「在宅」の枠組みでありながら、実質的な機能が介護付きホームなどの施設サービスと同様になっており、「囲い込み」問題の温床ともなっている。このため、在宅とは性格が異なる有料老人ホーム等のケアマネジメントについて、利用者負担を求めるという論点が出された。これは、「住宅型」ホームのビジネスモデルが、住まい部分の利益を最小に見込み、介護サービス部分の利益を最大に見込む構造にあるという指摘と表裏一体であり、ケアマネジメントの中立性確保と密接に関わる問題である。
出典:第129回社会保障審議会介護保険部会資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001597739.pdf
訪問介護の生活援助の総合事業への移行
要介護1及び2の軽度者に対する訪問介護の生活援助サービス等の給付の在り方は、介護人材不足が深刻化する中で、専門職によるサービス提供の対象範囲の適正化と、地域における多様な主体による支え合いの推進という観点から検討されている。軽度者への生活援助サービスを、地域の多様な主体によるサービス提供を推進する総合事業へ移行すべきという論点について、次回、2030年度制度改正まで先送りとする。
老健、医療院の多床室料の自己負担化
介護保険施設における居住費の負担については、在宅でサービスを受ける利用者との負担の公平性を確保するため、見直しが議論されている。介護老人保健施設及び介護医療院の多床室の室料については、令和7年8月より、「その他型」及び「療養型」の介護老人保健施設並びに「Ⅱ型」の介護医療院については、室料負担が導入されている。それ以外の累計については、8月からの自己負担化の検証を行ってからとする意見が多く、先送りの可能性が高い。
ケアマネジャーのシャドウワーク問題
ケアマネジャーが専門性を十分に発揮し、高齢者への支援に注力できる環境を整備することは、質の高いケアマネジメントを実現するために不可欠である。その最大の障壁となっているのが、シャドワークや給付管理等の事務的業務の負担である。ケアマネジャーは、ケアプラン作成、アセスメント、モニタリングといった本来業務に加え、身寄りのない高齢者等の生活課題への対応として、「ゴミ出し」「預貯金の引出・振込」「死後事務」「入院中・入所中の着替えや必需品の調達」といったシャドウワークを実施せざるを得ないケースが一定数生じている。また、事務的な負担が大きい給付管理業務についても、モニタリングや書類作成・印刷などに次いで時間を費やしている状況が確認されている。シャドウワークについては、ケアマネジャー個人の業務とするのではなく、市町村が主体となり、地域の関係者を含めて協議し、地域課題として対応するという方向性が示された。さらには、ICTを活用した事務作業の効率化を推進し、本来業務に注力できる環境を整備することが不可欠である。
出典:第129回社会保障審議会介護保険部会資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001597739.pdf
ケアマネジャーの更新講習と受験資格
ケアマネジャーの担い手が10年以内に急激に減少することが見込まれる状況を踏まえ、人材確保と資質の確保を両立させるため、法定研修や受験資格の見直しが検討されている。利用者にとって適切な介護サービスを提供するためには、ケアマネジャーの資質の確保・向上が重要である一方、研修受講者の経済的・時間的負担が大きいという課題がある。更新研修については廃止し、年間6-7時間の分割受講の仕組みとすることで、可能な限り負担軽減を図ることが適当とされている。
幅広い世代に対する人材確保・定着支援に向けて、受験要件について新たな資格の追加や実務経験年数の見直しを検討する方向性である。効率的な制度運営のため、要介護認定等の申請代行ができる者の範囲の拡大が検討されている。特に、ケアマネジャーの配置が指定基準となっている特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護等について、申請代行を可能とすることが考えられており、令和7年度中に結論を得る旨が閣議決定されている。
有料老人ホームの規制強化
高齢者住まいの多様化と重度化が進む中で、有料老人ホームの運営における入居者保護、サービスの質の確保、および「囲い込み」対策が極めて重要な論点となっている。中重度の要介護者や医療ケアを要する者、認知症の方などを入居対象とする有料老人ホームについて、届出制の限界を踏まえ、登録制といった事前規制の導入を検討する必要があるとされている。これにより、高齢者の尊厳の保障、サービスの質の確保といった観点から、夜間における緊急時の対応を想定した職員の配置基準、虐待防止措置、介護事故防止措置等の一定の基準を法令上設けることが必要となる。全ての有料老人ホームに対し、契約書に入居対象者を明記し、公表すること、および重要事項説明書を契約前に書面で説明・交付することを義務付ける必要がある。「住宅型」有料老人ホーム等における過剰な介護サービス提供を防ぐため、ケアマネジメントの中立性の確保と経営の独立を徹底する方向性である。入居契約において、同一・関連法人の介護サービスやケアマネ事業所の利用を契約条件とすること、家賃優遇等の条件付け、ケアマネジャーの変更強要を禁止する措置を設けることが考えられている。有料老人ホーム運営事業者が介護サービス等と同一・関連事業者である場合は、住まい事業の会計と介護サービス等事業の会計を分離独立して公表し、収支を含めて確認できることが必要である。これは、住まいと介護サービスの不透明な一体化による「囲い込み」の最大の要因を是正するための重要な対策である。自治体が「外付け」サービスの実態把握を可能とするため、有料老人ホームが提携状況を事前に行政に報告・公表することや、ケアマネ事業所等が保険者に連絡票を届け出る仕組みが有効であると考えられている。
出典:第129回社会保障審議会介護保険部会資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001597739.pdf
処遇改善加算の令和8年度改定
介護人材の確保・定着は制度維持の基盤であり、処遇改善は依然として最重要課題である。令和6年度介護報酬改定で処遇改善加算が一本化され、賃上げ効果を確実にするための枠組みが整備されたが、令和8年度以降は、その効果の維持と、対象範囲の拡大が焦点となる。介護職員だけでなく、ケアマネジャーを含めた多職種の賃上げに確実につながるよう、令和8年度の処遇改善加算の見直しにおいて、対象範囲の拡大を検討することが重要な方向性として示されている。これは、ケアマネジャーが多職種連携の中核を担い、その業務負担が大きい現状を踏まえ、専門職としての価値と処遇を適切に評価するための施策として期待されている。
中山間地の特例と方向性
中山間・人口減少地域では、生産年齢人口の減少が全国平均よりも著しく進んでおり、専門職等の人材確保が困難なため、現行の基準では必要なサービス提供体制の維持が困難となっている。この「保険があってもサービスがない」という事態を避けるための抜本的な対策が議論されている。現行の基準該当サービスや離島等相当サービスの枠組みを拡張し、特例介護サービスに新たな類型を設けることが考えられている。この枠組みは、サービスの質と職員の負担に配慮し、サービス・事業所間の連携を条件として、管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和を行うことが検討されている。
新たな類型では、現行の居宅サービス等に加え、地域密着型サービスや施設サービスを対象に含めることが考えられている。ただし、この基準緩和が介護の質の低下を招く懸念があるため、スキルの高い介護福祉士の配置など、質の確保に関するモデル的な取り組みを通じた効果検証が必要であるとの指摘がある。
特に訪問介護について、突然のキャンセルや移動負担が大きいという地域特性を踏まえ、現行の出来高報酬とは別に、月単位の定額包括報酬を選択可能とする枠組みを設けることが検討されている。
市町村が、介護サービスを給付に代わる新たな事業(新類型)として介護保険財源を活用して柔軟に実施できる仕組みを設けることが検討されている。これは、利用者ごとの個別払いではなく、事業の対価として委託費により支払いを行うことで、収入の予見性を高め、サービス基盤の維持につなげることを目的としている。
社会保障審議会介護保険部会の審議は、終盤を迎えており、12月20日頃には、意見書が取りまとめられて審議が終了する。その一部は、来年の通常国会に改正介護保険法案として提出される。しかし、多くの項目は、その方向性が示されるに留まる。具体的な内容や基準などは、来春から始まる、介護給付費分科会での審議において確定する。過去最大規模の制度改正が見込まれる2027年に向けて、しっかりと情報を得る努力が不可欠である。
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